「全身麻痺」で話すことができない交通事故被害者が夫に送り続ける「愛の言葉」 

感動ノンフィクション『巻子の言霊』主人公と筆者の対談

松尾 あのとき、三佳さんはすぐに返事をくれましたね。当時の私にとっては、まさに「地獄に仏」の存在でした。本の中にも書いていただきましたが、私が日本にいた頃には、「無制限」などという保険はまだなかったのです。

柳原 日本では、無制限保険を1983年から売り出したようですね。

松尾 今では、自動車保険と言えば無制限が常識のようですが、いざ、支払いのとなれば、どうでしょう? 損害賠償の交渉には加害者本人は顔を出すこともなく、代わりに損保会社の弁護士が出てきて、もっと安くて当然という態度で迫ってくる。

 実際には「無制限」なんて名ばかりです。全てが否定、否定なのです。本当に、腹の立つことばかりでした。

柳原 松尾さんの目に写った日本の理不尽な制度は、自動車保険問題にとどまりませんでした。実刑と執行猶予の間に何もない刑事裁判の仕組みや、重傷者を切り捨てる診療報酬制度、医療保険制度・・・。

松尾 私は被害者の立場になってみて、初めてこの国にはびこる不公平な仕組みに気がつきました。おそらく、私と同じことを訴えたいと思っている声なき声が、何万、何十万とあることでしょう。

 私は三佳さんとメールや電話でやり取りをするうちに、全てをさらけ出してでも、やがては天下に公表してもらおうと決意しました。我々夫婦の体験を通して、こうした理不尽な問題を世間に訴えたかったのです。

柳原 闘う術を持たない弱者が、泣き寝入りを強いられる世の中は何とかしなければなりませんね。この本の中では、他にも「尊厳死」や「赦し」の問題など、いくつかの重いテーマを取り上げました。

 しかし、私を含め、多くの読者が特に感銘されたのは、松尾さんご夫妻が長い年月育んで来られた愛情、そして、秘められた家族の歴史の物語でもありました。それがどんな内容であるかは、本を読んでいただくしかないのですが・・・。

松尾 過去のことを公表するかどうかについては悩みもありましたが、今となってはよかったと思っています。皆さまからいただいたたくさんの感想文は、毎日、病院で女房に読んで聞かせています。女房も嬉しそうにしております。

柳原 人生には、自分ではどうしようもないさまざまな「運命」が待ち構えていて、いざその困難に見舞われたとき、それをどのように受け止め、乗り越えていくか・・・、松尾さんの生き様は、多くの方に勇気と感動を与えていると思います。ちなみに、松尾さんは、柔道歴50年。

 今年、74歳の誕生日を目前に、柔道5段に昇段されました。私はそのことについても、本当に尊敬しているんです。さすが、武道精神は強し! です。

松尾 ありがとうございます。実は先日、2日かけてじっくりと、女房に本を読んで聴かせました。読んでいる間は本人も集中しているようでした。その後、「今日はお前の感想を聞きたい」と言って、会話補助機を操作したところ、女房は、こう言いました。

〔みかさんに おれいが いいたいの〕

 私は泣きながらこう伝えました。