「全身麻痺」で話すことができない交通事故被害者が夫に送り続ける「愛の言葉」 

感動ノンフィクション『巻子の言霊』主人公と筆者の対談
巻子さんの紡いだ言霊の記録。右ページ下に「まみいをころしてください」とある

松尾 私も、女房がこうした状態になるまで、全く知りませんでした。ところが、聞くところによると、今年6月いっぱいで「レッツ・チャット」を開発したパナソニックの子会社が閉じられたとのことなのです。たしかに、福祉機器は採算性が悪いのかもしれませんが、障害者にとって、こうした機器がなくなることは死活問題です。

柳原 不況の波は、こうしたところにまで押し寄せてきているということなのでしょうか。

松尾 今後は、別会社が商品の扱いを続けていくそうですが、信頼のおける大企業だからこそ、こうした意義のある福祉機器の開発は、これからも続けてもらいたいものです。

柳原 本当にそうですね。今後は高齢化が進み、ますます重要が高まっていくことでしょう。病気や事故は、決して他人事ではありません。私も今回松尾さんの取材を通して、初めてこうした世界に目を向けることができたような気がします。

損保会社による「払い渋り」との闘い

柳原 実は、松尾さんと出会ったきっかけは、2年前、私が「週刊朝日」に書いた、損保会社の払い渋り問題を告発する記事がきっかけでした。

松尾 当時私も、民事裁判の最中だったのですが、加害者側の損保会社からの酷い仕打ちに直面していました。65歳になり、ニューヨークでの仕事を引退し、夫婦で生まれ故郷の富山に戻ってきたのは2001年のこと。事故が起こったのはそれから5年目のことでした。

 二人の子供はそれぞれ外国で独立していますので、私は一人で、まさに孤軍奮闘せざるを得ない状態でした。周囲には頼りになる相談相手もおらず、悲惨な気持ちでいたときに、三佳さんが書かれた鋭い記事を読んで、すぐに手紙を書いたのです。

柳原 私は長年、交通事故を取材し、損保会社の悪質な払い渋りに対する告発記事をたくさん執筆してきました。それだけに、松尾さんの手紙を拝見したときには、あいかわらず酷い損保会社の対応に怒りが爆発しそうになったんです。

 というのも、業界で不払い問題が大問題になったのは、ちょうど巻子さんの事故が起こった頃でしたから。