「全身麻痺」で話すことができない交通事故被害者が夫に送り続ける「愛の言葉」 

感動ノンフィクション『巻子の言霊』主人公と筆者の対談

柳原 巻子さんは、意識があるのに身体を全く動かすことができず、言葉を話すこともできない、いわゆる「閉じ込め症候群」(ロックトイン・シンドローム)という状況に置かれているわけですが、それは"人"として、どれほど辛いことでしょう・・・。

松尾 目も見え、耳も聞こえ、話したいことがたくさんあるのに、自分からは何ひとつ伝えることができない、それを想像するだけで、傍にいる私も本当に辛いです。それだけに、女房の意識がはっきりしているとわかってからは、なんとか言葉を引き出してやることができないかと必死でした。

会話補助機を用いて取り戻した夫婦の会話

柳原 本の中には、「レッツ・チャット」という障害者用の会話補助機を用いて、巻子さんの言葉を引き出すまでの苦労の日々が出てきます。松尾さんはこの機械で綴られた巻子さんの言葉を、『巻子の言霊』と名付けてノートに記録されてきたわけですが、あのノートを見せていただいたときには、あまりにも美しく、感動的な言葉がちりばめられていて、本当に胸がいっぱいになりました。

会話補助機を使う巻子さんと松尾幸郎さん

 松尾 女房がまばたきで送る合図を私がキャッチして会話補助機のスイッチを押すという方法で、一文字ずつ綴っていくわけですが、その方法に気づいて女房の言葉を引き出すことができるまでに、なんと事故から2年9ヵ月もかかったのです。

 でも、あのときの感動といったら、もう、言葉には表せないほどでしたね。

柳原 私も「レッツ・チャット」で巻子さんと会話をさせていただいたことがありますが、あの作業は大変な集中力を必要としますし、時間もかかります。

 でも、言葉を発することができず、完全に閉じ込められていた巻子さんにとって、この会話補助機との出会いがどれほど世界を広げたことでしょう。

松尾 女房が使っている「レッツ・チャット」は、パナソニックの子会社が開発したもので、パソコンのように複雑な操作ではなく、非常にシンプルに文字を入力することができる優れた機械です。ただ、いろいろなスイッチで試してみたのですが、女房の場合は、自分でスイッチを押すことがどうしてもできなかった。そこで、二人三脚での使用方法を思いついたのです。

柳原 『巻子の言霊』を読み、同じ会話補助機でコミュニケーションを取り戻したという方々からも連絡をいただきました。ALS(筋萎縮性側索硬化症)、脳幹出血、小児麻痺、事故の後遺症など・・・。病気やけがによる障害で「言葉」を発することのできない方は、全国各地に大勢いらっしゃるのですね。