〔平成の小売業〕時代のニーズに合っている―――
『餃子の王将』社長が見る平成の「お客さん」

「安くて高品質の代名詞となっとるユニクロさん、ニトリさん、ABCマートさん、みんな元気やから色々言われてるけど、時代のニーズに合っているのやね。お客さんの目線を意識して、何を欲しているかをいち早く探知する、つまりは消費者に近いっちゅうことやろうね」

餃子の王将
昭和42年創業の中華料理チェーン。ここ数年の不況下においても経営好調を続けている

 『王将フードサービス』社長の大東隆行は語った。

「外食産業では、ウチが一人勝ち。マクドナルドさんも落ちてきているしね。僕が社長になって、ウチは六年間で七十二カ月の売上数字で、ほとんど落ちていない。中国の毒入り餃子と飲酒運転についての道路交通法改正の時、一回か二回、落ちただけや」

 どうして『王将』だけが、勝ち続けてきたのでしょう。

「安くてうまいもの、値頃(ねごろ)感、価値感のあるものを提供していること。これは絶対やね。あと、日常食に入っていること。日々、消費するものやから」

「餃子一つとってもさらなる価値感があらなアカン」

 現在の業績を、これからも維持できるでしょうか。

「まだイケると思っている。まだ小さい山を登っただけや。未完成や。接客にしても料理にしても、まだまだ安定した力を出し切ってない。今後のテーマとしては、売り上げをではなく、価値感を追っていく。安いというのはもう定着しとる。値頃感には絶対の自信があるわな。でも餃子一つとっても、さらなる価値感があらなアカン。安くてもマズかったら全然、アカンしな。

 ウチは、お店を大胆に改装しとるわね。改装するということで、新しいお客さんを開拓できるし、働いとる人間のモチベーションが上がる。僕は、企業は人やと思うとるから、つまりは人が成長せな、企業は成長せえへん。人間力が必要や。だからウチが成長できているというのは、マネージャーとか、部長、副部長が育ってきて、さらに下に教えて成長できているからやと思うんや。ただ仕事だけできる人間はナンボでもおる。けど上に立つには、人を引っ張っていく器量がなければアカン」

 器量というのは、懐かしい言葉ですね。現時点でのライバルは、どちらでしょう。

「ライバルは自店やね。近隣の『王将』を意識せなアカン。組織の中での競争、そして自分自身と競争せなアカンわな。そしてもっと安い、うまいを追求していかな」

 びっくりするほどお元気ですが、何か秘訣は?

「とにかく仕事が楽しい、好きなんや。手本は先代(創業者)やね。あと、ウチが負債を抱えてたときに、従業員がついてきてくれたことやね。自分自身、人の倍は働いた自負があるし、従業員のみんなもそれをちゃんと見て頑張ってくれた。真夜中まで働いて掃除して、朝も早くから掃除してまた働く。深夜に鍋で湯を沸かして体拭いて、また働く。そんな日々やったからね」

 従業員の奥さんの誕生日に、お花やお小遣いをプレゼントされるそうですが。

「奥様が支えてくれて御主人が安心して働けるんやから、当然ですわ。ありがとうございますって感謝の意味をこめてな。三分の一ぐらいは自己負担やけど、家族を連れての慰安旅行というのもあって、ソウルとか中国とか海外にも行ける。一年以上勤めてたら、パートさんも行けるで。

 ウチの会社には決算ボーナスというのがあるんやけど、運送業者の人とかにも大入りを渡すねん。額は少ないけどな、感謝の気持ちや」

 平成の前半の十年と社長就任後の十年、何が変わったか。

「この約十年では、人、物、金が全て変わった。人というのは従業員の質、物というのは店舗をクローズからオープンキッチンにした。金というのは守りじゃなくて、攻める先行投資ができるようになった。

 お客さんも変わった。店を綺麗にしてから女性のお客さんが増えてきた。取引業者も変わった。安いから買うんじゃない、いかに良いものを安く買うかなんです。でもまだまだ進化の途中、そういう成果が出始めている段階にすぎないんですわ」

 どの辺りが未完成なのでしょうか。

「今でも、クレームは多い。まだまだ安定して高いサービス、商品を供給することができてへんのや。これからも、ごっつい努力が必要や」

 「まだまだ」が口癖のようですね。社長就任時、四百七十億円あった有利子負債が減ったそうですが。

「この九年間で百五十億~百六十億にまで減った。ただ、現預金も七、八十億円あるし、自社株も持っとるし、もう無いようなもんやね。まあまあ、だいぶ減ったわな」

 でも厳しかったでしょう?

「社長になってから、神経やられたしな。ものすごくしんどかった。後遺症で、今も右目が少し見えんくなってるわな。店舗回って仕事やって、血尿を出しながら。でも僕は生まれ持った性格で、人から好かれるっちゅうか、信頼を裏切らんという自信があった。正直で、正論で正しいものは正しいというのが持論やから」

 何歳まで現役を続けるのですか。

「もう六十八歳や、人生終わっとるやん。でも手前味噌やけど、みんなから信頼されとるし、まあ、僕も自分の存在感が重くなかったら、おもろないやん。今はまだ、僕の後に誰が座るんかなって、僕のようにやってくれるかなって、みんな心配しとるねんな。だからあと五、六年はやっててくれって言われとるわな。それまでもつかどうかは別やけど」

 社長になってよかったですか?

「そうやね、なりたくてなったわけではないから躊躇はしたけど、やっぱり僕は『王将』が好きで、餃子にも愛着があったし、従業員も好きやったからな。でもあの時、もうオレしかいてなかったって、みんながそう思ってくれたことが大きかった」

 今後、顧客の嗜好や質は変わっていくのでしょうか?

「急激に変わることはないと思う。もちろん高齢化社会にもなっていくなかで、シルバー世代に向けた店舗、メニューを増やしていかないといけない。五年、八年というスパンで店舗を改装する時に、臨機応変に取り入れていきたい。

 時代に合わせて変化していくことは大事なんやけど、性急にはしない。食というのは、お客さんに支持されることが一番大事。それでウチは成功しているわけやから、今の形を強化して、値頃感、価値感を生みだしていく」

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら