ヤクルト由規 日本球界最速「162㎞/hは自分にしか投げられない」

"号泣王子" "マメ規"と呼ばれた男が、日本人最速158㎞/hを連発して勝ち星量産
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 高校時代は「由規=涙」のイメージが強く、甲子園で付けられた愛称も「号泣王子」だった。高校生活最後の夏に敗れた際はもちろんのこと、ドラフト指名を受けて両親に感謝の言葉を述べる際、あるいは入寮で仙台から上京する際、いつも由規の目には涙があった。

 ついチームメイトの顔色をうかがってしまうような東北人の優しく繊細な性格がプロの世界では障害となるのではないか。そう危惧する声も、プロ入り当初は聞こえてきた。現在入団一年目で苦しむ西武の雄星(菊池雄星・投手)にも言えそうなことだが、いわゆる我の強さが由規には足りなかった。

 しかし、ヤクルトでの練習の様子を取材して、それはいらぬ心配だったと思い知る。由規はマイペースを貫き、納得がいく練習ができなかったのか予定を大幅にオーバーして調整に時間を費やし、インタビューにも約1時間遅れで現れた。こうした図太さは、高校時代の由規には見られなかった一面だろう。

「荒木コーチと松坂さんの両方から『ふてぶてしく野球をやったほうがいい』ってアドバイスされました。今でも遠慮気味になってしまうことがあるんですけど、僕は根っからの負けず嫌いなんです。今までやってきたことに無駄なものは一つも無いと思っていますし」

 そんな由規が高校時代、唯一こだわりを持っていたのが球速だった。ドラフト翌日にインタビューした時も、「160㎞/hを目指します」と高らかに宣言した。

試合前の練習を終えてクラブハウスに戻る。チーム内ではまだ三年目の若手なので荷物持ちも率先して行う

 しかし、いくら高校時代に剛速球でならしても、プロ入り後は制球も重視しなければ簡単に打ち返されてしまう。松坂や田中将大(楽天)もそうだったように、由規もその葛藤に苦しんできた。

 158㎞/hに到達した今、由規はマーク・クルーン(巨人)が持つ日本球界最速記録の「162㎞/h」を意識する。

「日本人では自分にしか投げられないだろうという気持ちでいます。速いボールを投げられる人は遅いボールも投げられるけど、遅いボールしか投げられない人に、そこは目指せないですから」

 今や広島のエースとなった前田健太も三年目の昨シーズンに花開いた。同級生の中田翔(日本ハム)も左ひざ半月板の手術を経て7月に一軍にあがると11試合で8本塁打を放った。

 高卒三年目の開眼―。昨今のプロ野球界に顕著な現象に由規も続いた。

「バットの上をボールが通過していくと言われる阪神の藤川球児さんのように、直球で空振りが取れるピッチャーになりたい。今季中に162㎞/hを出します!」

 号泣王子から剛球王子へと進化を遂げた由規。日本人未踏の領域を目指す。

柳川悠二/'76年宮崎県生まれ。出版社勤務を経てノンフィクションライターに。スポーツを中心に執筆する。著書に『最弱ナイン』(角川書店)など