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さて、これまでダイソンの革新的な技術について述べてきたが、実は英国南部に位置するウィルトシャー州にあるダイソン本社では製品の製造を2000年より行っていない。
前述のダイソン・デジタルモーターを生産するのは、シンガポールにあるメイバンという会社だ。
同社の研究開発チームリーダー、デュー・フェー・キック氏によれば、同ラインは2009年に生産開始し、年間82万個から最大時には125万個の生産を行っているそうだ。同工場の生産力は、16.4秒で組み立ててしまう。
ダイソンの説明では、ダイソン・デジタルモーターへの設備投資として300万ポンドを投じたようだ。このメイバン社はダイソン製品のエンジンを供給する重要な拠点となっている。
ダイソン・デジタルモーターはシンガポールで開発・生産されているが、そのほかの部品は隣国のマレーシアで生産されている。
その中核を占めるのがダイソン・マレーシアだ。同社とそれ以外の協力会社(サプライヤー)は、マレーシア最南端のジョホール州の州都ジョホールバルに位置し、シンガポールへは車を使って1時間内で行き来することが可能だ。
このジョホールバルには国際空港も完備され、自治体を挙げて世界中のハイテク企業進出を歓迎している。
ダイソン・マレーシアのシニアデザイン・マネージャー、ロス・バスコー氏によると、2002年、ダイソンは英国本社の役割を全世界市場のマーケティングと新しい製品アイデアを立案する"イノベーション・センター"として定めたという。
現在、新しい製品アイデアの考案から設計デザインまでを英国が行い、そこから先の製造に向けての全工程をマレーシアで行っている。
操業当初、現地のサプライヤーは1社のみで、約50名が働いていたそうだ。それから、サプライヤーの数は4社となり、社員数も500名まで増えた。そのうち、80%がデザイン・エンジニアとして働き、英国の本社からは30名~40名が派遣されているという。
総面積12,000平米の敷地をもつダイソン・マレーシアを中心に地元サプライヤーを含めた"ダイソンの工場"は、2002年に50万台を、そして2008年には400万台と8倍の伸びで生産台数を増やしてきた。今後、ダイソン・マレーシアではさらに140名のエンジニア採用を予定しているという。
ダイソン・マレーシア以外にジョホールバルでは、組立から出荷まで手がけるVSI社、外装などのアクセサリー類を受け持つAKA社がある。生産ラインはそれぞれサプライヤーが保有し、設備投資についてはダイソンが出資するといった提携を行っているようだ。
では、ダイソンが、このマレーシアを選んだ理由は何だろうか。
前出のバスコー氏によれば、英語によるコミュニケーションが容易である点(英国植民地時代の名残として公用語としての英語は根付いているようだ)、さらにエンジニアリングのスキルが高く、技術への理解が深いという二点を挙げていた。
また、英国で生産していた頃、マレーシアのサプライヤーの品質がもっとも高く、原材料も安価に調達できたため、最終的に同国への生産拠点移設に至ったようだ。
マレーシア・ダイソンの採用活動は、イギリス人、マレーシア人はもちろんのこと、お隣のシンガポール、フィリピン、中国からの採用者もいる。
筆者の印象として、ジョホールバルは、アジアのハブを担う国際都市シンガポールに近いという美点がさまざまな面で活きているように思える。コストを抑制しつつも、情報、物流、人材、金融の交差点に近接している利点ははかりしれないだろう。