「夢と勇気とサムマネー」
希代の喜劇王、チャーリー・チャップリンの言葉として知られている。

人生には夢が必要である。その夢を実現させるために、必要となるのが最初の一歩を踏み出す勇気と、そして少しばかりのお金――。

いくら素晴らしい夢があったとしても、お金がなければ何もできないという現実を突きつけられる言葉である。そこには、幼少時代に孤児学校などを渡り歩いて苦労を重ねて、その後に成功したチャップリンならではの人生哲学が込められている。

「障がい者がスポーツをやりたいと思っても、生活に余裕がないとできません。働きたくても働けなくて家に閉じこもっている障がい者もいっぱいいます。社会全体で障がい者の雇用率を上げることはもちろんですが、障がい者スポーツを支援してくれる三菱商事さんの『DREAM AS ONE.』プロジェクトの活動には期待しています」

そう語るのは、「DREAM AS ONE.〜ともに一つになり、夢に向かって〜」プロジェクトのアンバサダー(大使)で、2004年アテネ・パラリンピックのマラソン(視覚障害1)金メダリスト、高橋勇市さんだ。
プロジェクトのアンバサダーとして挨拶するアテネ・パラリンピック金メダリスト 高橋勇市さん

「2014年、三菱商事は戦後の財閥解体を経て、大合同して生まれ変わってから60年を迎えました。会社設立60周年の記念事業として、障がい者スポーツ応援プロジェクト『DREAM AS ONE.』を立ち上げることとしました」

2014年10月16日、三菱商事にて行われた「DREAM AS ONE.」説明会において、三菱商事代表取締役常務執行役員・廣田康人氏からその概要が説明された。

「三菱商事では『継続すること』、『社員が参加して汗をかくこと』、この2つをモットーに、かねてより積極的に社会貢献活動に取り組んできました。2020年東京パラリンピック開催が決まったことも踏まえ、これまでの活動は継続し、障がい者スポーツの裾野を広げる

――まだまだ自宅や施設の中にいて、スポーツに触れる機会の少ない、特に先天的な障がいを持った子どもたちがスポーツに触れる機会をできるだけ増やすとともに、障がい者スポーツの理解度・認知度を高めていきたいと考えています」

具体的には、障がいの有無にかかわらず、多くの人が参加できるスポーツイベントや、障がい児向けのスポーツ教室、また障がい者スポーツ・ボランティアの養成セミナーの開催を予定していることが発表されたのである。

このプロジェクトでは、アンバサダーとして前出の高橋勇市さんが任命されているほか、サポーターにはシドニー・オリンピック・女子マラソン金メダリストの“Qちゃん“こと高橋尚子さん、シドニー・パラリンピック男子車いすバスケットボール日本代表キャプテンの根木慎志さん、同パラリンピック車いす陸上800mで銀メダル、アテネ・パラリンピックで銅メダルと2大会連続でメダルを獲得した廣道純さん、北京パラリンピック第7位に入賞したゴールボールの高田朋枝さん、そして三菱商事太陽(株)所属で、大分国際車いすマラソンに今年で22回目の参加となる佐藤隆信さんが名を連ねている。
手前左から佐藤隆信さん、根木慎志さん、奥左から日本障がい者スポーツ協会常務理事 山田登志夫さん、高田朋枝さん、高橋勇市さん、三菱商事野島嘉之 環境・CSR推進部長
さらに、オーストラリア・シドニー出身で、今回のプロジェクト・テーマソングに起用された『DREAM AS ONE』を歌うサラ・オレインさんもサポーターとして参加している。

会見には、アンバサダーの高橋勇市さん、サポーターの根木さん、高田さん、そして佐藤さんの4人が出席し、それぞれ障がい者スポーツの現状と課題を語ってくれた。

「この夏休み、三菱商事さん主催で車いすバスケットボールの体験会をやったのですが、その反響の大きさに驚きました。僕らだけではなかなかニュースにならないのですが、いい意味で企業がからむと発信力が全然違います。企業がリーダーシップを取って、多くの人たちに賛同してもらえるような仕組み作りにつなげられたら嬉しいですね」(根木さん)

「今年は東北復興支援としてゴールボール体験会を開催しましたが、私たちにはイベント企画に対する知識も経験もありません。そうしたノウハウを持つ企業が障がい者スポーツのイベントに関わり、一緒に考えて、人的にも協力していただくことで、より内容の濃いイベントができるのではないかと期待しています」(高田さん)

「今年で大分車いすマラソンも34回目ですが、企業の協賛やボランティアの方々の支援なくしては大会は開催できません。こうした大会を通して、障がい者スポーツをより多くの人に知ってもらい、障がい者スポーツへの応援の輪を広げていきたいです」(佐藤さん)

そして10月18日、「DREAM AS ONE.」のキックオフ・イベントとして、「スマイル アフリカ プロジェクト」と共催でランニング・イベントが東京・有明で開催された。

最初に行われたのが、親子でいっしょに1キロを走る親子ラン。32組64名が参加し、快晴の有明の空の下を駆け抜けた。続いて、この日のメインイベント、一般のランナーと車いすランナーが一緒に走る3時間リレーマラソンが、45組163名の参加でスタートした。

腕の力だけで走る車いすは、普通に走るより遅いと思われがちだが、それはとんでもない誤解。車いすランナーたちは、ちょっとした自転車以上のスピードでコースを駆け抜けていく。車いすランナーを初めて間近で見る子どもたちも圧倒されていたようだ。

一般ランナーたちに混じって、サポーターの高橋尚子さん、根木慎志さん、廣道純さんもランニングに加わり、会場を盛り上げるとともに、走る楽しさを存分に伝えてくれた。

ランニングコース脇には車いす体験ブースを設け、普段はなかなか目にすることのない競技用車いすも展示。最先端技術を駆使して作られたカーボン製のレーサーは、なんと1台200万円以上!このブースでは、子どもたちに車いすの操作の難しさやスピード感を体験してもらうために、三菱商事のボランティアたちが車いすに乗るお手伝いをするとともに、コースを走るランナーたちに盛んに声援を送る姿が見ることができた。

この日、三菱商事からボランティアに参加していたのは10名ほど。
親子ランを目に車いすマラソンのデモンストレーションを行ってくれた廣道純さん。そのスピードに、子供たちから感嘆の声が上がった

安全確保のためレーンこそセパレートしたものの、一般ランナーが車いすランナーとともに走るという数少ない試みに、参加者は身近さを感じながら、マイペースでの走りを楽しんだ

「社内の募集を見て、サイクリングやランニングに興味があったので参加しました。子どもたちに車いすが身近に感じてもらえるようになったら嬉しいですね」

DREAM AS ONE. のサポーター・高橋尚子さん、廣道純さん、根木慎志さんはイベント中、文字通りコースを縦横無尽に駆け回り、参加者をサポートしながら盛り上げてくれた
これまでにも沖縄のサンゴ礁保全プロジェクトの研究ボランティアなどに参加してきたいという男性はそう話す。また、母子家庭を対象としたキャンプ『母と子の自然教室』や被災地復興のボランティアに参加したという関連会社の女性は、

「社員がボランティアに参加しやすい環境が整っています。ボランティア休暇が取得できたり、ボランティア情報を社内で提供してくれるので、無理をせずに『自分ができる範囲のことをやればいい』という思いで気軽に参加しています」

と、社内のサポート体制についても教えてくれた。

このイベント終了後には成田に直行し、韓国に渡ってインチョン2014アジアパラ競技大会に出場するというDREAM AS ONE.サポーターの廣道さんは、

「健常者のランナーと車いすランナーが一緒に走るというのは、たぶん日本で初めての試みです。実はアジアパラ大会が控えているので走るつもりはなかったんですが、楽しくてつい走ってしまいました(笑)。僕が交通事故によって下半身が麻痺してしまったように、健常者がいつ障がい者になるかはわからないので、障がい者スポーツの存在も忘れずに支援していただけたらありがたいですね」と語る。


DREAM AS ONE. の特設ブースでは、三菱商事社員によるボランティアが、車椅子体験会、参加選手のサポートなどに奔走した。

リレーマラソン後にはDREAM AS ONE.サポーターのトークイベントが行われ、最後にテーマソングを歌うサラ・オレインさんが登場し、ミニコンサートを開催した。

「人種や性別、文化や言語の違いを尊重し合い、世界のみんなが一体となって大きな夢に向かおう――そうした思いで『DREAM AS ONE』を書き上げました。この歌に込めた思いに三菱商事さんが賛同してくださり、障がい者スポーツ支援プロジェクトの名前に採用され、テーマソングとなったんです」

サポーターとなった経緯をサラさんは明かしてくれた。

サラさんのハイトーン・ヴォイスに酔いしれ、DREAM AS ONE.キックオフ・イベントは幕を閉じた。参加者の胸には、「健常者がスポーツを楽しむのと同じく、障がい者がスポーツを楽しむことは特別なことではない」と、障がい者スポーツへの理解が深まったのは間違いないだろう。まさに、スポーツでの“バリアフリー“が実現できた一日だった。

この日のイベント終了に当たり、アンバサダーの高橋勇市さんの会見でのコメントが思い出される。

「目の見えない僕はひとりでは走れません。一緒に走ってくれる人、伴走者のボランティアがいてはじめて、試合はもちろん、練習もできるんです」

障がい者スポーツが当たり前の存在になり、障がい者の夢を健常者が一緒になって実現していく――そのような日も遠からずやってくると確信できた瞬間だった。
DREAM AS ONE. のテーマソングを歌うサラ・オレインさん

DREAM AS ONE. プロジェクト


「障がい者スポーツが持つ勇気と希望、感動を共有し応援の輪を広げたい」という理念のもと、三菱商事が本年度よりスタートさせた、障がい者スポーツ支援プログラム。

これまでも様々な支援活動を来なってきた同社が、「障がい者スポーツの裾野を広げ」、「障がい者スポーツに対する理解度、認知度を高める」ことを目的に、支援さらに強化し、これまで以上に

■障がい者スポーツ教室の実施
■スポーツイベントの開催
■ボランティア養成のためのセミナー開催
■多くの競技大会への支援の実施

を積極的に行っていく予定。

後編は2015年1月下旬公開予定
取材/文 中野克哉(フリーライター)