井上 久男井上久男「ニュースの深層」

2010年07月21日(水) 井上 久男

「サラリーマン金太郎」市議が仕掛ける「龍馬プロジェクト」
起業家精神は経営者だけのものじゃない

 超党派の若手の地方議員ら約200人が中心となって今年1月から本格的に活動を始めた「竜馬プロジェクト」が任意団体から政治団体に格上げとなった。

 6月5日、東京で全国総会を開き、会則などを定めた。総会には、みんなの党代表の渡辺喜美氏や神奈川県知事の松沢成文氏らが出席し、安倍晋三元首相もビデオレターで参加したという。

 会長は大阪府吹田市議の神谷宗幣(そうへい)氏。元高校教師(英語と社会)で、現在市議1期目の32歳だ。「竜馬プロジェクト」の設立目的について、神谷氏はこう説明する。

「少子高齢化や教育の荒廃など様々な難題がふってかかっている中で、日本は、自民だ民主だといってけんかしている場合でしょうか。坂本竜馬が国益を考え、薩摩と長州が争っている場合ではないと、薩長連合を仲介した発想で、党派に関係なく日本を変えていく政治家集団にしていきたい。

 人口が減る中で移民を受け入れて米国のような社会になるのか、あるいは欧州型がよいのか。いろいろと考えなければなりません。日本という国が経済的にもどう独立を守れるのか考える時期に来ています。20-30年後の日本のあり方を考えるビジョンも打ち出す予定です」

 神谷氏はテレビドラマ「サラリーマン金太郎」でブレークした俳優の高橋克典似のイケメン。

 しかも若くて活動的なことから、先の参議院選挙ではある党から立候補の声がかかったが、断った。「今の国政は目先の政局だけを考え、国家ビジョンよりも党利党略が先に来ている。現状では地方議員の方が国民(現場)に近いところで仕事ができるから」というのが理由だ。

今年6月に行われた龍馬プロジェクトの総会

 

 「竜馬プロジェクト」の活動の主眼は、在野に眠っている優秀な若手を発掘し、政治家への道を切り開けるようにすることに置かれている。「まず政治に携わっている人を入れ替えていきたい。党にしたいという声も一部にはありますが、人材集めからやります。そして戦える集団にしたい」と神谷氏は訴える。

ピーター・ドラッカーの遺した言葉

 今、神谷氏は全国を行脚し、仲間作りのための「竜馬プロジェクト」のプロモーションを仕掛けている。

 「政治に携わっている人を入れ替える」ことを強調するのも理由がある。初当選して議員になって神谷氏は「なるんじゃなかった」と一瞬後悔した。

 まず、教育問題に取り組もうと思っていたら、「そんな票にならんことはやめとけ」と言われた。そして、利権に強い議員OBが現役を動かしている構図にも唖然とした。腐った地方議会を見て、「ろくでもないところに来てしまった」と思い始めた。しかし、なった以上はどうにか変えてやれ、という気持ちに切り替えた。

 神谷氏と話していると、本当の「サラリーマン金太郎」のように、バイタリティーがあり、明るい。夕方になると、事務所にも若い仲間がぞくぞくと集まっていた。

 そしてすぐに行動に移す。橋本徹大阪府知事に手紙を書き、教育問題での連携を狙った。知事の政策には共感できる部分もあったが、現実とマッチしていなかったので、現場に近い市議と組めばよいと考えたからだ。知事からは「すぐに会おう」と連絡が来た。

 しかし、今は諸般の事情で知事とは一定の距離を置いている。知事とは違った独自色を打ち出し、新しい教育改革のモデルを作りたいと思い始めているからだ。

 神谷氏は政治家というよりもむしろ起業家というイメージを受けた。米国の碩学、故ピーター・ドラッカー氏も起業家精神はベンチャー企業の経営者だけに必要なものではない、と説いている。

「シビックアントレプレナー(公民起業家)」という言葉もある。起業家とは端的にいえば、既成概念に囚われず、変化を恐れず、新しい価値を創造していく人たちである。神谷氏も「公民起業家」と言えるのではないだろうか。