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2010年07月04日(日) ベストカー

電撃提携 トヨタ&テスラ提携の狙い
EVメーカーとして独特の存在感を発揮していたテスラが
トヨタと電撃提携! 両社の戦略が交錯する!

 5月21日(現地時間)、トヨタ自動車と米国のベンチャー企業テスラ・モーターズが資本提携を発表した。

カリフォルニアで実施された記者会見には豊田章男社長、イーロン・マスクCEOのほかに、(テスラの本社とNUMMI工場がある)カリフォルニア州知事アーノルド・シュワルツェネッガー氏も出席

 本企画ではその提携の経緯と両社の狙い、そして今後どのような協力関係になっていくのかを調査・考察していきたい。

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 自動車メディアだけでなく経済専門誌も一般メディアも寝耳に水で、それもそのはず、豊田章男社長の会見コメントによれば、この提携交渉がスタートしたのは本年4月だという。

「(GMとの合弁工場であった)NUMMIの元社長から紹介があり、テスラのイーロン・マスク会長と初めて会いました。ふたりでEVに乗って話をしたのが(提携の)キッカケです」

 とは会見時の章男社長。いっぽうテスラのイーロン会長も、

「(章男社長と)実際に話をして意見が合い、一緒に何かやろうということになった。真摯なパートナーシップを築くにはどうすればいいのか考え、それが意味のある戦略的な提携のキックオフとなった」

 と同会見で語っている。

 今回トヨタはテスラ社に5000万ドル(約45億円)出資して同社の株を保有する。今後両社は専門チームを組織して具体的な提携業務の内容や対象範囲などについて検討を開始する。

「今期黒字化したことで大胆な提携に踏み切れた」と豊田社長

 この電撃的な提携について、トヨタ関係者に話を伺うと、

「章男社長はずいぶん前からテスラに興味を持っていました。今回はNUMMIの元社長の仲介でイーロン会長と会うことになり、EVの将来性について盛り上がったことが提携のキッカケのひとつになっています。もちろん狙いはそれだけではなく、いろいろあるでしょうけどね」

 とのこと。トヨタは2012年から自社開発のEVを市場投入するとかねてより公言しているが、この時期にEVのベンチャー企業と資本提携を結ぶのはどのような狙いがあるのか?

 前述のトヨタ関係者が語る「いろいろ」とはどのようなことか?

テスラの何がトヨタにとって魅力的だったのか? NUMMIとの関連は?

「今回の提携でトヨタにとって一番重要なのは、米国の、特に富裕層ユーザーのイメージアップです。そのためにすでにロードスターを1000台以上販売したテスラと提携したんです」

 と語ってくれたのは外資系証券アナリスト。これまでエコカーといえばトヨタというイメージがあったが、昨年来からのアクセル制御問題で「トヨタ車=危ない」というイメージを一部では持たれてしまっている。

今年4月、多くの従業員に見守られながら、最後の「カローラ」を送り出し、生産活動を中止したと発表したNUMMI。今回の提携がスムーズに進み、さらに市場に受け入れられればEV工場として復活することになる

 そのうえGMとの合弁会社であるNUMMIを閉鎖したことによる、米国民のネガティブ感情を沈静化する意味合いも大きい。GMが経営破綻をキッカケに手を引き、それが原因となってトヨタもNUMMIから撤退したとはいえ、工場閉鎖の最後の決断をしたのはトヨタ経営陣。

 最後まで残った4700人の従業員と、その報道を見た米国民たちはNUMMIの閉鎖を決めたトヨタに複雑な思いを持っていた。

 しかしテスラは先日、このNUMMIの施設を使ってEVを生産すると発表した。上場を目指すテスラは米証券取引委員会(SEC)に購入資産内容を報告する義務がある。

 その提出書類によるとテスラはNUMMIの敷地約55%と建物の一部を4200万ドル(約38億円)で購入している。これはトヨタからの出資費用(約45億円)と近い金額だが、購入物品のなかに車両の生産設備は含まれていないとのこと。

イーロン・マスクCEO(1971年6月生)
南アフリカ共和国生まれの経営者。
10歳でプログラム言語を覚え、12歳で商業ソフトを開発。その後、スタンフォード大の大学院に進むも在学中に出版ソフトや金融サービスソフトを開発し、3億ドル以上のキャッシュを手に入れる。
その後、テスラの起業に関わり同社の市販モデル一号車を所有。
'08年10月より同社の会長兼CEOに就任

 テスラはトヨタのほかに米エネルギー省から4億6500万ドル(約420億円)の融資を受けることになっており、この資金で生産設備などを整えることになりそうだ。

「NUMMIの施設をどこが購入するのかというのは、米国民だけでなく米政府、そして(工場のある)カリフォルニア州も注目していました。いずれも米国内EVベンチャーであるフィスカーやオーリカ・モータースといった小さな会社がこれまで名乗りをあげてきましたが、いずれも契約までには至っていません。

 これらのなかで最も資金力があり実績も大きいのがテスラ。そこがNUMMIの工場を引き受け、それをさらにトヨタがバックアップするというのは、オバマ大統領にとってもシュワルツェネッガー知事にとっても御の字の戦略なのです」

 とは前述のアナリスト氏。

 米国のセレブたちにとって最新のエコカーに乗ることはステイタス。レオナルド・ディカプリオやブラッド・ピット、ジョージ・クルーニーらハリウッドスターが奇しくも昨年、プリウスからテスラロードスターに乗り換えている。

 トヨタにとって重要なのは、彼らセレブの目を再びトヨタに向かせることでもある。

テスラ側の大きなメリット

 いっぽうテスラにとってもトヨタと資本提携を結ぶ意義は大きい。これまでテスラはEVに搭載するパソコン用のバッテリーを市場で調達してきた。しかしパソコン用の、正極にコバルト系を使用したリチウムイオンバッテリーは容量の向上が限界に達しつつあり、何より市場調達では(安価ではあるが)安定供給が難しかった。

 そこでテスラは今年1月、パナソニックからリチウムイオンバッテリーの供給を受けることを発表。2012年に発売予定のモデルSに搭載する次世代電池の共同開発に取り組むことも公表している。

 パナソニックといえばトヨタのリチウムイオンバッテリー供給を一手に担うパナソニックEVエナジーの親会社のひとつ。そこと組めば、テスラはこれまでよりさらに安価にバッテリーの供給を受けることができるようになる。

 また本誌取材でモンスター田嶋氏がテスラ・ロードスターの弱点として指摘した「回生ブレーキの制御」も、プリウスで世界一の回生制御技術を確立したトヨタならお手のもの。

 もちろん足回りの制御や衝突安全技術、軽量化技術やパッケージングなど、テスラがトヨタから得るべき技術は枚挙にいとまがない。

 そしてさらに重要なのが販路と整備網。本誌P45(2010年7月10日号)でも触れたように、テスラは現在米国内に2ヵ所の販売拠点を持ち、この先、欧州や東京などにも展開していく予定だが、まだまだ充分とはいい難い状況。

 先日「テスラ・ジャパン」を設立して予約受け付けを開始し、初期導入ぶんのテスラロードスター12台を(1台1810万円という価格にもかかわらず)あっという間に売り切ってしまった。

 テスラとしてはここからさらに日本市場向けの販売戦略を展開したいところだが、まだショールームもオープンできていない状況。こうしたなかでトヨタの力が借りられるのは大きい。ショールームの選定や整備機器の納入など、多くの分野でトヨタの力が発揮されるはずだ。

この提携で両社のクルマにどういう影響があるのか?

 まず思い浮かぶのは本誌巻頭スクープでも紹介しているGRMNのハイブリッドスポーツカー2台。本誌スクープ班が掴んだ情報によれば、MR-SをベースにしてV6ユニットを積んだ本格的なハイブリッドスポーツと、それよりもっと小さい、価格、性能ともにCR-Zのライバルとなるような1.5リットルクラスのハイブリッドスポーツカーが開発されているという。

 この計画にテスラが加わるとなるとがせん話は面白くなってくる。現在テスラはロータスからボディを調達しているが、この先トヨタから供給を受けることも視野に入ってくる。トヨタブランドでは安価なハイブリッドスポーツが販売され、テスラブランドでは高価なEVが同じボディで発売される・・・なんていうことも考えられる。

 さらに注目なのが現在テスラが開発中と言っている「モデルS」の存在だ。2012年発売を目指して開発が進められており、車両価格は6万ドル(約540万円)、大人5人が乗れて航続距離は480㎞だというから恐ろしい。もし現在公表されているスペックどおりの性能をテスラが持っていれば、次期プリウスが一気にEVに・・・という計画だって考えられる。

テスラと提携しているのはトヨタだけではない

「トヨタから見ればテスラの車両開発技術はまだまだ詰めが甘く、学ぶところは少ない。今回の提携でトヨタがテスラに求めているのはブランド力と北米市場での信頼、イメージ回復。それにベンチャーらしい発想力です。具体的な車両開発まで踏み込む可能性は・・・ゼロではないが限定的なものになるでしょう」

 と語るのは本誌スクープ班。

 というのも、テスラと資本提携を結んでいるのはトヨタだけではない。今回の提携劇で報じているところは少ないが、昨年5月19日、テスラとダイムラーは共同記者会見を開き、ダイムラー側が5000万ドル出資してテスラの株式10%を取得していると発表したのだ。5000万ドルといえば今回トヨタが出資した額と同じ。

 ダイムラーとテスラのあいだで提携内容の話し合いは続いているが、現段階で話が進んでいるのはEV版スマート・フォーツー用の電気駆動系装置をテスラと共同で開発するということのみ。

 こうしたことを考えると、トヨタの中心戦略車種であるGRMNやプリウスに、ここ近々でテスラがタッチするとは考えづらい(むろん可能性はゼロではないが)。

 トヨタがEVを市場投入すると明言していたのは2012年。奇しくもこの年にテスラはモデルSを発表して本格的なEV普及に乗り出す。

 これまでハイブリッドカーの開発・販売で、次世代技術の先頭集団を走り続けてきたトヨタだが、今年に入って三菱がi-MiEVの個人向け販売を開始し、年末には日産が大々的にリーフを販売。すでに1万台以上の受注が入っているという。

 こうした「EV普及元年」として考えると、トヨタは一般ユーザーから見ると「出遅れ感」があるのも事実。今回のテスラとの提携で、少なくとも北米ではそのイメージを払拭することができそうだ。

 では国内市場ではどうか? 今回の提携でどのようなクルマが世に出てくるのか? 楽しみに2012年を待ちたい。