週刊現代永田町ディープスロート

2010年06月14日(月) 週刊現代

小鳩退場! 鳩山最後に「小沢をひと刺し」
民主政権大崩壊、そして第2幕へ 
内幕ドキュメント
本当は虫唾が走るほど大嫌いだった 

 鳩山政権は、あっけなく潰えた。国政を混乱させた宇宙人は、最後に大幹事長に意趣返しをして退場し、リリーフで登場したのは、菅直人。"イラ菅"は救世主たりえるのか。

 鳩山由紀夫首相より2分遅れて会場に到着した小沢一郎幹事長は、歩きながら目をぎゅっと瞑り、一瞬、苦渋の表情を浮かべた。

身内の民主党議員を前に辞意表明はしたが、公式の辞任会見は拒否した

 6月2日の民主党両院議員総会。小沢氏は早足で自分の席に近づくと、「ここでいいのか?」と短く周囲を見回しただけで、隣の鳩山首相とは、目を合わせることもなく着席した。 

 実はこの両院議員総会で、鳩山首相は自分が何をどう語るのか、事前に小沢氏には伝えていなかったという。 

 そして、鳩山首相は最後の土壇場で、小沢氏をトラップに嵌めたのだ。自らの辞意を表明すると同時に、こう宣言した。 

「幹事長にも職を辞していただきたい。そうすれば、よりクリーンな民主党を作ることができる。民主党を再生させるため、とことん、クリーンな民主党に戻そうじゃありませんか」 

 鳩山首相の呼びかけに、民主党議員は拍手喝采で応えた。この時点で、鳩山首相と小沢幹事長の「同時辞任」が決まった。満座の前で小沢氏の辞任を宣言し、認められたことで、あわよくば幹事長職を守ろうとしていた小沢氏とその側近の、逃げ道を完全に断った。鳩山首相は自らのクビと引き換えに、剛腕・小沢を、一瞬にして封じ込めたのだ。 

 それだけではない。鳩山首相は、北海道教職員組合の政治資金規正法違反事件で責任を問われる、小林千代美代議士にも辞職を促した。これは小沢氏の側近であり、小林氏同様、日教組を支持母体とする輿石東(こしいしあずま)・参院議員会長に対する、強烈な当てこすりだ。 

 輿石氏は、地元・山梨での評判が芳しくなく、次の参院選では落選の危機に陥っている。小林氏の失脚は、輿石氏の支持基盤にも大きなダメージとなる。鳩山首相は小沢氏のみならず、その最側近の手足も、ただ一言で縛り上げたのだ。 

 いったいなぜ、鳩山首相は最後の最後に、こんな悪意に満ちた大芝居を打ったのか。本来、幹事長ほどの要職者の辞任は、幹事長自らが正式な場を設定して公表すべき問題だ。しかし、鳩山首相はそれを分かった上で、あえて小沢氏に、自分で止めを刺した。 

満座の中で「ともに辞職」と公言され、小沢氏の表情は終始、渋かった

 そこに垣間見えるのは、鳩山首相の小沢氏に対する、激しい怒りと恨みである。そもそも鳩山首相と小沢氏は、生まれも育ちも、まるで異なる水と油の関係。それが、自民党から政権を奪取し、民主党政権を維持する、ただそれだけのために手を結んできた。

 しかし、その危うい表層的な関係は、鳩山政権が終焉を迎えるにあたり、ついに決裂した。鳩山首相は、自らを退陣に追い込んだ、小沢氏とその一味を赦すことができなかったのだ。 

 これまで我慢をしてきたが、名門生まれの鳩山首相にとって、小沢氏は、理想も理念もない、利権好きの"選挙屋"に過ぎない---。テレビカメラの向こうで全国民が見守る中、鳩山氏は小沢氏を「汚い政治家」と名指しし、政権の表舞台から葬り去ったのである。 

「アナタとは絶交します」 

 6月2日の両院議員総会ですべてが決着するまで、鳩山・小沢両者の「暗闘」は、約1週間にわたって繰り広げられていた。二人が包み隠してきた深い亀裂が最初に表面化し始めたのは、5月26日のことだ。

 この日、民主党の参院議員総会が行われ、その場で噴出した議員らの声を首相に伝えるため、輿石氏が首相官邸に駆け込んだ。 

「このままだと、参院選で我が党は惨敗する。衆参のねじれが生じれば、政権運営は困難になり、自民党の二の舞だ。あなたに対する不満の声を、これ以上抑えることはできない」 

 ただし、この時点で鳩山首相は明確な返答を避けている。そして「小沢幹事長と協議したい」と語り、翌27日、サシでの会談が急遽、セットされた。 

 首相動静には出ない、27日の"極秘会談"。互いの進退をかけて、鳩山首相と小沢氏が直接向き合ったのは、これが1回目だ。 

「福島(みずほ消費者担当相)が政権批判を繰り返していると支持率が下がる。だが、彼女を罷免すれば、参院選に大きな影響が出る」 

 そう語った小沢氏の狙いは、普天間問題の決着を先延ばしするなどし、福島氏をいったん慰留して社民党の政権離脱を防ぐべし・・・というものだった。 

 だが、鳩山首相は、またもクビを縦にふらなかった。この夜の密談は、実質的に物別れに終わった。 

 そして28日。この日を境に、民主党内の「鳩山降ろし」が加速する。 

 鳩山首相は、前夜に話し合った小沢氏の意向を一切"忖度(そんたく)"せず、「基地の辺野古移設」で日米共同声明を押し通すことを決定。逆らう福島氏を罷免した。 

 これは小沢氏にとって、宣戦布告に等しかった。 

「あなたの意見は聞かない」。そう示した鳩山首相を見て、小沢氏も見切りをつけた。民主党参院を中心とする「鳩山包囲網」の構築に動き出したのだ。 

 先手を打ったのは小沢グループ。5月29日、30日の週末、鳩山首相は日中韓首脳会談のため訪れていた韓国・済州島のホテルで、記者団にこう話していた。 

「みなさんが思っているほど、小沢さんとの関係はぎくしゃくしていない」 

 ところが、同じ頃日本では、小沢氏側近の輿石氏らが、鳩山降ろしのための具体的行動を始めていた。 

 社民党関係者が証言する。 

「5月28日の福島氏罷免後、社民党の重野安正幹事長や又市征治副党首らは、『全国幹事長会議における提案』というペーパーをまとめました。実はこの文面には当初、『鳩山首相の退陣を求める』『受け入れられなければ、政権離脱の方向を確認する』という文言が盛り込まれていました。

 結果的にその文言は削除されましたが、その文を挿入すべく、裏で糸を引いていたのが、民主党の輿石氏らだったのです」 

 輿石氏ら民主党参院幹部の狙いは、「鳩山だけを外す」ことだった。社民党の政権離脱をちらつかせ、鳩山首相が自ら辞任するよう仕向ける。しかし、実際には福島氏や社民党の地方幹部が強硬だったため、社民党は問答無用でいきなり政権を離脱することになり、このプランは失敗に終わる。 

 しかし、その一方で福島氏が罷免された5月28日夜の段階で、小沢氏に近い複数の議員から、 

「鳩山首相が辞めるだろう。社民党が離脱すれば政権はもたなくなる。政局になるが、慌てないように」 

 との情報が流布されていた。鳩山首相が退陣するのを既成事実化し、外堀を埋めようとする動きだった。

 韓国から帰国した鳩山首相を待っていたのは、そんな身内からの「辞めろコール」の嵐。その背後にいるのが誰かは、言わずとも明らかである。小沢一郎、その人しかあり得ない。 

 小沢氏は表面上、鳩山降ろしの動きには加わっていなかった。"汚れ仕事"に自分は手を染めない。それが、田中角栄元首相ら師匠の失敗から小沢氏が学んだ、政界遊泳術でもある。 

 だが、小沢氏が犯した実質的な背信行為を、鳩山首相も見逃さなかった。 

「小沢氏は福島氏が罷免された際に、直接彼女に電話して、『あなたが正しい』と激励していた。そして重野幹事長ともコンタクトを取り、『こんなこと(政権離脱)になり誠に申し訳ないが、選挙協力はお願いしたい』と、参院選に向けた体制の再構築も話し合っていました。

 鳩山首相はこの小沢氏の行動で、すでに自分がハシゴを外されており、切り捨てられるシナリオが進んでいることを確信したのです」(鳩山首相周辺) 

 もしも政治家にならなかったとすれば、おそらく一生口もきかないほど、かけ離れた感性の二人だ。 

 実際、鳩山首相はかつて、小沢氏のことを「私が考えている政治家像からは離れた存在」「自民党の権力抗争に敗れて党を飛び出しただけなのに、改革を掲げてごまかしている」などと、痛烈に批判している。 

 民主党のベテラン代議士は、「こうなることは必然だった」として、こう話す。 

「もともと小沢さんは、利用しやすい人間を担いで使い捨てるだけの人。鳩山さんもそれは十分に分かっていただろうが、政権維持のためと思い、ガマンしていた。東京・世田谷の土地を巡る資金疑惑でも、首相はあえて小沢さんを庇った。なのに、最後はやっぱり裏切られた。『アナタとは絶交します』。鳩山さんはそう言いたかったのでしょう」 

 鳩山首相は、自らを失脚させようという包囲網の真っ只中、腹を決めた。もはや辞めざるを得ないのは仕方ない。だが、「これ以上、小沢の思い通りにはさせない」、そう決心したのだ。 

「鳩山解任動議」の計画も 

 一方で、小沢氏のほうには、鳩山首相を切りたくても、簡単には切れないという逡巡があった。 

 小沢氏は最近まで、鳩山・小沢体制のまま、参院選に突入するしかないと覚悟を決めていたという。しかし、普天間問題のドタバタ決着で、そうも言っていられなくなる。政権支持率が10%台の危険水域に沈んでいくのを見て、「政権の運営があまりに稚拙だ。これではもう無理だ」と、周囲に漏らすようになっていた。 

 ただ小沢氏は、自分が先頭に立って「鳩山降ろし」に動くことはしなかった。任命権者の首相が辞めれば、幹事長である自分も身を引かざるを得なくなる可能性がある。政治資金疑惑で、検察審査会の審議が続いている中、権力の表舞台を去り、無役となれば強制起訴の可能性が高まる。いくら鳩山首相が邪魔でも、この事態は避けねばならない。 

 そこで小沢氏が取った方策が、輿石氏や高嶋良充参院幹事長ら、側近を使って鳩山首相個人を自発的辞任に追い込むことだった。 

 小沢氏と鳩山首相は、公式記録には残っていない5月27日を含め、5月31日、6月1日と、都合3回の直接会談をしている。だがその場で参院の苦境を滔々(とうとう)と説明したのは、前述のように、もっぱら輿石氏だ。 

 ただ、鳩山首相は辞めさせたいが、自分が矢面には立ちたくない---。このいかにも小沢氏らしい、"黒幕"的な態度が、鳩山首相がつけこむ隙になった。 

 6月1日の深夜。側近の中山義活首相補佐官に対し、鳩山首相は、「これまでずっと、支えてくれてありがとう。本当に感謝している」 

 と話し、身を引く覚悟でいることを示唆した。 

「中山さん。いろいろやったよなあ。いいこともたくさんやったよねえ。やり残したこともたくさんある」 

 辞任を決めた首相は、同時に、仇敵と化した小沢氏が絶対に一緒に辞めざるを得なくなるよう、どう話を進めるのか綿密にシミュレーションを行っていた。 

「小沢氏は普天間移設が行き詰まることを見越して、この問題にはまったく口を出さず、我関せずの態度を貫いていた。だから、普天間で共同責任を問うのは難しい。

 そこで、政治とカネの問題を前面に押し出した。『民主党は、トップがカネに汚いと思われている。だから二人とも同時に身を引くのが、参院選対策のためには一番いい』というロジックを持ち出すことにしたのです」(官邸関係者) 

 6月1日の3度目の会談に際し、事前に小沢氏は、「話は2~3時間かかるかもしれない」と周囲に話している。小沢氏にしてみれば、鳩山首相の態度は曖昧で、何を考えているのか判断をしかねていたのだ。 

 交渉の末、会談が決裂するようなら、小沢氏サイドには、「非常手段」を取る用意すらあった。 

「輿石氏らは、鳩山首相が辞任を納得しない場合には、6月2日の両院議員総会で、配下の議員が党代表の解任動議を提出する計画まで立てていた。民主党の規約では、総会参加者の過半数が賛成すれば、代表を罷免できる。だが、その動きは、事前に官邸サイドにも漏れた。それで鳩山首相は、いよいよ『やはり小沢氏を道連れにする』という意を固めた」(民主党幹部) 

 小沢氏が「2~3時間」と想定していた1日の会談時間は、結局30分程度。しかも鳩山首相は会談終了後、話題となった"サム・アップ"(親指を突きたてるポーズ)を見せ、「してやったり」という表情をした。 

 反対に小沢氏は、会談後はかなり不機嫌で、「鳩山は政局がわかっていない」と、吐き捨てた。鳩山首相が明確に「辞める」とこの段階で宣言したかは不明だが、いずれにせよ、これらの事実は会談が小沢氏らのペースではなく、鳩山首相主導で進んだことを示している。 

 そして6月2日の両院議員総会---。「クリーンな民主党を目指す」との首相の発言で、身動きが取れなくなった小沢氏は、文字通り、固まっていた。辞任演説が終わり、鳩山首相と小沢氏は肩を抱き合う素振りを見せたが、滑らかな動作の鳩山首相に対し、小沢氏の動作はぎこちなく、その表情は、何か苦いものを?み潰したかのように歪んでいた・・・。 

小沢一派の恨み節 

 小沢一派にとって「まさか」の決着後、側近からは、逆ギレに近い言葉が飛び出した。鳩山降ろしのもう一人の当事者、高嶋参院幹事長は、「鳩山首相が主導して小沢氏に引導を渡した」という見方が広がったことに激怒し、こうぶちまけた。 

「あの人、作り話がうまいわ。鳩山さんがそう言ってるなら正しい・・・と言うしか仕方ない。後からなら何とでも言える」 

 さらに別の小沢派の参院議員も、こう吐き捨てる。 

「(鳩山首相の言っていることは)ウソだ。大バカだ。ふつう、そういう話は墓場まで持っていくもんだ。そんなことをベラベラしゃべるとは。彼はアホだ」 

 しかし、そうした罵声は、もはや鳩山首相にとって、何の関係もない。辞意を表明した6月2日の夜。鳩山首相は幸夫人を伴い、東京・赤坂の町に繰り出していた。民主党の職員らとともに、なじみの高級中華料理店で"最後の晩餐"を楽しむためだった。 

「母親からもらっていた月1500万円というのは、本当に知らなかった」 

 首相はその席で、そう言い訳した。その後は、夫人と腕を組んで二人きりで二次会へと向かった。もっとも、入るつもりだった別の高級中華店がすでに閉店しており、夫妻は残念そうに公邸へと戻っていった。 

 結果を見れば、小沢一派は、自らの策に溺れたと言える。いくら鳩山首相が不人気だったとは言え、自分たちの総理を引き摺り下ろす自民党さながらの行為に、有権者の目は厳しい。 

 それでも、小沢氏サイドには、参院選に向けた「秘策」があるのだという。 

 小沢氏に近い民主党関係者がこう語る。 

「現時点で、参院選の投開票日は7月11日になっているが、これを先延ばしすることは可能。夏休みに入れば反民主の浮動票が減る。それに小沢氏は、亀井静香氏を仲介に、与謝野馨元財務相らの『たちあがれ日本』に連携を呼びかけている。新総理が誰になっても、選挙後のことを考えれば小沢氏の力は必要なんだ」 

 だが、果たしてそうか。かつて、一度は自民党政権を倒した細川護煕(もりひろ)元首相は、小沢氏に振り回された挙げ句、政権を投げ出した。そして今回、鳩山首相も同じように小沢氏の傀儡に成り果てた結果、最後は反乱を起こす形で、やはり政権を手放すことになった。 

 小沢氏の政治手法には、大きな欠陥がある。そしてそれ故に、彼が担ぐ総理・代表も、やはり欠陥を抱える者ばかり・・・。この負の連鎖から抜け出さない限り、国民が「真の政権交代」の果実を得ることは、永久にないだろう。