週刊現代賢者の知恵

2016年02月24日(水) 週刊現代

「たった62人」の大富豪が全世界の半分の富を持つ
〜あまりにも異常な世界の現実
ピケティ、クルーグマンも警告

世界トップクラスの資産を持つビルゲイツ〔PHOTO〕gettyimages

大富豪が巨万の富を握り、庶民は重労働と薄給にあえぐ。そんな100年前の世界に、私たちは逆戻りしている。富める者はますます富み、一度落ちれば這い上がれない。これでいいわけがない。

ユニクロ柳井社長もその一人

もし、日本国民の半数が持っている資産と同じ額を、たったひとりが独占しているとしたら—多くの人は「いくら何でも、それはおかしい」と思うだろう。

実際には、日本でこのようなことは起きていないが、スケールを地球全体に広げてみると、あながち絵空事でもない。

世界経済に不穏な影が差し始めた今、国際貧困支援NGO「オックスファム」の報告が、各国に衝撃を与えている。

「世界のトップ62人の大富豪が、全人類の下位半分、すなわち36億人と同額の資産を持っている」

大ざっぱに言えば、1台の大型バスに収まる程度の金持ちが、世界の人口の半数を養える額、約180兆円を持っているということ。気の遠くなるような話だ。

現在、世界の総資産額ランキングのトップは、マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ氏の約9兆1000億円。以下、メキシコの通信王カルロス・スリム氏の8兆9000億円、投資家ウォーレン・バフェット氏の8兆3000億円……という具合に続く。

日本のトップであるファーストリテイリング・柳井正社長は、資産総額約2兆3000億円で第41位と、日本人ではただひとり、この「金持ちバス」の乗客名簿に名を連ねる。

上位10人の中には、米財閥一族のコーク兄弟や、ウォルマート創業家のウォルトン一家のように、家族・親族で複数ランクインしている金持ちもいる。まさに彼らは、生まれながらの「世界の支配階級」たちだ。

「この10年、世界中で金持ちと庶民の格差が広がり続けています。特に米国は経営者の年俸がうなぎ上りで、以前は100万ドル(約1億1500万円)もらっていた人物が、今は1000万ドルもらっているというケースも珍しくありません。

でも、いくら会社が儲かっていたとしても、社長の給料が10倍なんて、何を根拠に決めているんでしょう。説明がつかないと思いませんか」

こう肩をすくめるのは、'14年、著書『21世紀の資本』が日本を含め世界中でベストセラーとなった、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏である。

ピケティ氏は、同書の中で「資本主義社会では、長い目で見ると、格差がどんどん広がってゆく」「20世紀は、戦争などの影響でたまたま格差が小さくなっただけ」と、科学的裏付けをもとに主張し、大反響を呼んだ。

「彼らのような大富豪の資産は、世襲による相続分や、金融資産もかなりの部分を占めています。

ビル・ゲイツ氏やアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏のように、一般家庭に生まれ、何か新しいものを生み出して一代で大金持ちになった人は、まだいいでしょう。

例えば世界2位のスリム氏は携帯電話を作っているわけではなく、国営電話セクターの民営化で巨万の富を得た人物です。また、ヨーロッパ屈指の大金持ちであるフランスのリリアンヌ・ベタンクールは、化粧品会社『ロレアル』創業者の娘というだけで、経営者としての実績はまったくありません。こんな状況は、あまりにも不公平だと思います」(前出・ピケティ氏)

ビル・ゲイツだけで1億人分

ゲイツ氏ら世界のトップ中のトップが持つ資産額は、ギリシャやデンマークの国家予算にも匹敵する。夏には貸出料が週5億円のクルーザーに乗り、家族とバカンスを楽しむゲイツ氏は、現在軽井沢に要塞のような「別荘」を建設している。

また、総資産2兆6000億円を誇る世界34位の富豪・サウジアラビアのアルワリード・ビン・タラール王子は、一機あたり400億円の最新鋭旅客機・エアバスA380の内部を一流ホテルのように改装し、プライベート・ジェットとして使っている。

さらに東京・渋谷にある柳井氏の自宅は、周囲に高さ4m近い塀がぐるりと巡らされ、中にはテニスコートもあるという、まさに「城」だ。

彼ら大富豪が、スーパーで買い物でもするような感覚で数千万円、数億円を使える一方で、世界には1日100円足らずの生活費で暮らす極貧層が約12億人、200円以下で暮らす人がおよそ30億人いる。全人類の半分近くは、雀の涙のような収入で何とか糊口をしのいでいるのだ。

ゲイツ氏の全財産を使えば、単純計算で日本国民よりも多い、1億3000万人の貧困層を1年間養うことができる。だからといって、当然ながら、彼の命に貧しい人々の1億倍の価値があるわけではない。それに、ゲイツ氏に普通のサラリーマンの何百万倍も能力があるとは考えづらい。

はたして、一人の人物が億単位の人を養えるほどの大金を手にすることに、妥当性はあるのか。著書『これからの「正義」の話をしよう』がベストセラーになった、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が言う。

「普通に考えれば、数千億円、数兆円という富を一人の大富豪が独占することには、意味がありません。到底使い切れないですからね。せいぜい数十億円もあれば、一人の人間が満足できないということはないはずです」

'10年に来日して東京大学で授業を行った際、サンデル氏は学生に「イチロー選手の年俸はオバマ大統領の年俸の42倍(当時)だが、これは妥当か否か」という問いを出し、大激論となった。

影響力や責任の重さを考えれば、オバマ大統領の年俸はイチローより高くてもおかしくないだろう。しかし実際には、人は必ずしも世の中への貢献に見合った報酬がもらえるわけではないし、生まれた瞬間に莫大な資産を相続する者もいる。大企業の創業者ともなれば、自分の報酬額を自分で決めることさえできる。

日本もすでに超格差社会

その一方で、働けど働けど貧しいままの人は、世界中に数知れない。

「『カネを持っている』ということが、『休暇のあいだに贅沢をしたり、豪華なヨットや自家用飛行機を持つ権利がある』ということだけを意味するのであれば、あまり大した問題ではないでしょう。

でも実際には、高度な教育、手厚い医療、安全な暮らしといったものも、金持ちほど手に入れやすいわけです。政治権力への影響力もカネ次第です。事実、大富豪がやると決めた戦争で、今も庶民や貧困層が死んでいる」(前出・サンデル氏)

サンデル氏が教えるハーバード大学でも、学生の親の平均年収は約5000万円。金持ちの子は最高の教育を受けてエリートになり、ますます富と権力を得る。貧乏人の一族は、何代経っても貧乏なまま。今や、それが米国の常識だ。

金持ちと貧乏人の格差が、日に日に大きくなってゆく。すでに日本も、そんな「超格差社会」へ突入していると、前出のピケティ氏は警告する。

「日本の場合、少子化で人口が減っていることが大問題です。子供の数が少ないということは、これからは相続のとき、一人の子供に多額の資産が集中するということ。当然ながら、金持ち一族に生まれた子と、庶民の家に生まれた子では圧倒的な差が出てきてしまう。

出生率を上げない限り、日本国内の格差は今後、広がり続けます」

日本では今、上位1%の富裕層が、国富のおよそ1割を持つようになった。豊かな「1億総中流社会」が終わりつつあることは、国民も気づいている。何かと外国人を非難したり、かと思えば「日本はやっぱりすごい」と自画自賛したりする近年の風潮にも、もうすぐ「繁栄の終わり」がやってくるという心細さがかかわっているのだろう。

不安を紛らわそうとするように、日本政府は「トリクルダウン(富の浸透)が起きるから、心配はいらない」と連呼してきた。グラスタワーのてっぺんに注がれたシャンパンは、グラスのふちから溢れ出し、やがて最下層まで流れ落ちる。同じように、大企業が潤えばカネは末端まで行きわたり、庶民も豊かになる、と。

だが、アベノミクスの主唱者の一人、元経済財政担当相の竹中平蔵氏が、この年明けに突如「トリクルダウンはない」と発言。安倍総理以下、政権幹部もトリクルダウンを否定するようになり、国民を唖然とさせた。

ノーベル経済学賞受賞者の、ポール・クルーグマン氏が解説する。

「トリクルダウン説を支持する保守派の政治家や学者は、『富裕層の税金を軽くして、貧困層への福祉は削るべきだ』『さもないと、富裕層は働くのがバカバカしくなり、経済全体の成長が妨げられる』と主張してきました。

しかし、時が経つにつれて、トリクルダウンなど起きないということが次第に明らかになってきています。かくなる上は、高額所得者に重税を課し、その税収を貧困層支援に回すしか手はありません」

例えば、今春から所得の低い65歳以上の高齢者に配られる「臨時福祉給付金」は、予算額およそ3600億円。これで1250万人に一律3万円を支給できるというのだから、柳井氏が持つ2兆3000億円のうち、何分の1かだけでも召し上げて国民のために使うことができたなら、救われる人もいそうなものだ。

カネを転がすだけの人たち

とはいえ、相続で億万長者になった富豪ならまだしも、柳井氏のように、自らの才覚で富を築いた人物からウン千億円も巻き上げるのは、少し理不尽な気もする。日本の格差研究の第一人者で、京都大学名誉教授の橘木俊詔氏が指摘する。

「私は、自力で成功した経営者は世の中に貢献しているから、たくさんもらう資格があると思います。彼らは大きな会社を作り、何万人という雇用を生んでいますからね。

ただ、日本では所得税の最高税率が下がり続けています。30年前は最高で70%取られていたのが、今は45%。金持ちが税金を払うことを嫌がり、政府も彼らの言い分を認めているのです。

海外の富豪のように寄付をするなど、儲けた分だけ社会に還元するという文化が根付いていないことが、日本の金持ちの最大の問題点でしょう」

いつからか、日本人の間でも常識となった「自己責任」という考え方。これはつまり、「オレが手に入れたカネは、オレの才能のおかげだから、独占して当然だ」という論理の裏返しである。

しかし、どんな億万長者も、その事業にカネを払ってくれる庶民がいるから暮らしてゆける。それに、汗水流して働かず、他人のカネを転がして大金を得ているような人々は、本当に世の中を豊かにしていると言えるのか。格差・貧困研究が専門で、昨年度のノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン氏も言う。

「大富豪といえども、全員が自分の力だけで地位を築いたわけでは決してありません。たまたま金持ちの家に生まれた人もいる。単に運がよかっただけの人もいる。逆に、彼らに劣らぬ才能を持っていたのに、環境やチャンスに恵まれなかったために、消えていった人もたくさんいます。

このまま格差が拡大し続け、すでに地位を得た富裕層だけが世の中のルールを作るようになるのは、非常に危険です」

ごく少数の人々が、圧倒的な富と力を独占している——世界を覆うテロの恐怖も、そんな庶民の怒りが形を変えて噴出したものだとも言える。

少なくとも、この「異常な社会」がまだまだ続くことは、目の背けようのない事実である。

「週刊現代」2016年2月27日号より