週刊現代賢者の知恵

2016年02月15日(月) 週刊現代

はじめての「マイナス金利」
〜預金・年金・住宅ローン…今あなたがすべきこと
マネーの常識がひっくり返った!

日銀の黒田総裁が突如放ったマイナス金利というバズーカ砲には、メガバンクでさえ狼狽している 〔PHOTO〕gettyimages

お金の常識が変わった。

いったいどれだけが生き残っていられるのか。号砲を鳴らした黒田総裁でさえ、何が起きるかを読み切れていない。確実に言えるのは、国や銀行を信じればバカを見るということだ。


なぜお金に詳しい人はさっさと日本国債『変動10』に資産を移したのか

元本は確実に保証される

「私は30年にわたって国債・債券市場を見てきましたが、マイナス金利は初めての経験です。債券市場のベテランの間ですら、なにが起きるのかが読み切れなくなっている。大手金融機関も緊急ミーティングを開催し、対策を練り始めた。

これからは文字通り、誰も見たことのない世界に突入する。なにが起きてもおかしくないのです」(金融アナリストの久保田博幸氏)

おカネの常識が変わった。すぐに情報武装・生活防衛を始めないと、大損を被ることになる。

われわれがまず押さえておかなければいけないのは、預金危機の時代が幕開けしたということだ。

「マイナス金利をすでに導入済みの欧州で起きていることを見ると、企業や機関投資家の多くの大口預金金利がマイナスになっている。個人向けの預金では、さすがに預金者の『反乱』を怖れてマイナス金利にはなっていないが、ゼロ近くまで金利を下げたり、ATMなどの手数料を上げたりする動きが出ている」(東短リサーチ代表の加藤出氏)

銀行預金に預けていれば、元本保証のうえ金利がつくので「絶対安心」ではなくなるのが、マイナス金利時代の特徴だ。

「日本ではこれから個人向けの預金が実質的にマイナス金利になる可能性すらあります。銀行が一定額以上の預金者に対して『口座管理手数料』を取る動きに出かねないからです。振込手数料も増額される懸念がある。

これからの預金金利はゼロに近い金利に張り付く。それなのに、管理料や手数料が増額されれば、実質的にマイナス金利になってしまうわけです」(ファイナンシャルプランナーの紀平正幸氏)

実際、日本銀行がマイナス金利を決定した後、普通預金の金利を「0・001%」という超低金利にまで下げる銀行が出てきた。100万円を預けた場合、年間金利は10円。振り込みやATM利用で100円超の手数料を取られた途端、損をすることになる……。

預けていれば「減らない」のが銀行預金の最大の利点だったことを考えれば、資産の置き場として銀行預金は無意味になると言える。

「マイナス金利時代の資産運用は、利息を殖やすという観点ではなく、いかに減らさないかが重要になってきます」と、前川FP事務所アドバンス代表の前川貢氏は言う。

「特に年金以外に収入のない高齢者は資産を大きく減らすと生活に致命傷になりかねない。その意味で言うと、株も投資信託も為替も値下がりリスクからは逃れられない。そうして金融商品を消去法で考えていくと、マイナス金利時代に最強の運用先は一つに絞られてきます。個人向け国債『変動10』しか考えられない」

個人向け国債『変動10』というのは聞き慣れないかもしれないが、財務省が個人用に発行している国債の一つ。これまではあまり注目されてこなかったが、ここへきておカネのプロたちがこぞって推奨し始めている。

そもそも『変動10』とは、10年満期の変動金利の国債。1万円から購入でき、購入後は半年ごとにその時点での金利で利息がもらえる。なにより、元本が保証される。

「10年間持ち続ければ、10年後には元本がそのまま返ってくる。購入後1年が経過した後は中途解約ができますが、その場合も直近2回分の金利を返上すればいいだけ。つまり、いずれのケースでも元本は確実に保証される」(ファイナンシャルプランナーの藤川太氏)

実は金利にも「最低保証」がある。

「『変動10』の金利は、普通の10年モノ国債の平均金利に0・66を掛けたものが適用されますが、下限が0・05%に設定されている。今後はゼロに近い超低金利が続くことを考えれば、たとえ0・05%でも最低保証されているのは貴重です」(生活設計塾クルー代表の目黒政明氏)

『変動10』を100万円以上購入した客に、現金プレゼントのキャンペーンをしている証券会社も多い。それも、「100万円なら3000円」、「500万円なら2万円」という高水準である。

「もちろん、将来的に金利上昇局面が来た場合、『変動10』は相場に沿って金利が上がる。上昇局面にも乗れるメリットがある」(前出・目黒氏)

『変動10』は毎月、新規で発売される。おカネに詳しい人はすでに気付いて、大切な「虎の子」を移し始めている。

もう5年後にはもらえないかもしれない。年金は「繰り上げ」でもらえ

まちがいなく破綻する

「今回のマイナス金利政策の導入で、年金の運用が困難になる危険性があります。

国民の年金積立金およそ140兆円の巨額資産を預かって運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、資金の約35%を日本国債に充てています。その利回りが低下するわけですから、目標の運用利回りを達成するためには、国内外の株式や外国債券でよりリスクの高い運用が必要になる。

しかし、それだけのリスクに見合ったリターンが見込めるかどうか、甚だ疑問です。その中で、国債の利回り低下は確実に起こります。年金の運用リスクがこれまで以上に高まることは間違いないでしょう」(日本リサーチ総合研究所主任研究員・藤原裕之氏)

実際に、GPIFが今年度の第2四半期で7兆8899億円の損失を出したのは周知のとおり。今年に入ってからの日経平均株価の下落で、一説には16兆円を溶かしたとも言われる。

安倍政権下で株価下支えのために、国内株式での運用比率を12%から25%へと倍増させた「リスクを取る」運用が裏目に出た格好だ。

運用の失敗は年金財政を傷ませる。厚生労働省が一昨年に行った検証では、「最悪のケース」を想定すると、今から35年後の'51年に年金積立金が枯渇し、年金財政が破綻すると試算している。

しかも、この想定はいささか楽観的だ。試算では、厚労省は長期的な経済の見通しを「物価上昇率0・6%、実質賃金上昇率0・7%」と想定している。

しかし、日銀の黒田東彦総裁は2%の物価目標を掲げるが達成の見通しが立たず、現在は0・5%程度と言われる。実質賃金も、直近の調査では0・4%減少と、上昇の気配がない。

つまり、現在の経済状況の延長線上で考えるなら、年金財政は'51年を待たずに必ず破綻する。藤原氏が言うように、その時計の針をさらに早めるのが、「マイナス金利政策」ということだ。

だったら、年金は早めにもらってしまえ。経済評論家の森永卓郎氏は筋金入りの「繰り上げ受給」論者だ。その森永氏が言う。

「今のままでは将来的に受け取れる年金額が今よりも減る可能性が極めて高い。最悪のケースは、年金の支給が70歳になることです。

70歳まで働ける勤め先があって、かつ元気に働ければまだいいですが、そうでなければ10年間も無収入状態になります。そのときに悔やまないためにも、年金はもらえる年齢になったら、すぐにもらうことを私はおすすめします」

手続きはすごくカンタン

今年の4月以降に55歳になる男性は、老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金の受給がともに65歳からになる初めての世代だ。

だが、年金は受給開始を繰り上げて60歳からもらうことが可能だ。

手続きは簡単。60歳になる誕生日の3ヵ月前に日本年金機構から「裁定請求書」という書類が送られてくる。年金をもらうにはこの書類に必要事項を記入して、提出しなければならない。

繰り上げ受給をする場合は、年金事務所で「繰り上げ請求書」をもらってきて署名をし、「裁定請求書」とともに提出すればいい。

森永氏が続ける。

「日本人男性の平均的な『健康寿命』(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は71歳です。年金をもらい始めても、すぐに病院行きになる可能性がある。これではなんのために年金をコツコツ払ってきたのかわかりません。

だったら60歳から受け取って、自分の好きなことに使う暮らしのほうが豊かな人生に決まっていると私は思います。

受け取りを確定してしまえば、ある意味で『既得権益』になりますから、仮に制度自体が70歳に後ろ倒しになったとしても、すでに受給が始まっているものに手を付けることはありえません。自分の持っている権利を確定させるためにも、できるだけ早く年金をもらうべきでしょう」

繰り上げると年金額が減らされることには注意が必要だ。年金は1ヵ月繰り上げるごとに、0・5%減額される。

65歳から受給開始の年金を5年間(60ヵ月)早めて、60歳から受け取ると、30%の減額となる。また、一度繰り上げ受給を選択すると、元に戻すことはできない。

厚労省が発表しているモデルケースだと、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金月額は22万1504円('16年度)。通常より5年前倒しにした場合の月額は15万5053円、年額は186万636円になる。

繰り上げ受給と5年遅れの通常受給で受け取る年金の累計額を比較すると、16年8ヵ月までは前者が多い。つまり、76歳8ヵ月までは、繰り上げ受給のほうが通常の受給よりおトクなのだ。

年金が破綻し、大幅減額となる日は近づいている。早くもらうか、満額になるのを待つか——どちらが賢明な判断か、考えたほうがいい。

住宅ローンは即、借り換えて300万円得する

これぞ低金利のメリット

新興系の銀行がおススメ

マイナス金利の影響が、確実に家計に影響する分野がある。住宅ローンだ。「人生で最も高い買い物」である不動産を買うためのローン金利は、わずかな金利差でも長期的に見れば雪だるま式に大きな支払額の差になる。ファイナンシャル・プランナーの井戸美枝氏が語る。

「日本の政策金利においてマイナス金利の導入は初めてのことなので、その影響がどのようなものになるのか、まだはっきりはわかりません。ただ一つわかっているのは、一般の人々にとって、いちばん確実にプラスの影響があるのが、住宅ローンの金利が安くなるということです」

数年後に住宅を買おうと考えている人は、少し時期を前倒しにして購入に踏み切っていいだろう。

そして、すでに住宅を購入してローンを組んでしまった人は、借り換えのメリットがある可能性が高い。

例えば、三菱東京UFJ銀行の最優遇金利は、'11年には「10年固定型」で2%を超えていた。それが直近では1%を割り込みそうな勢いだ。すでに三井住友信託銀行の「10年固定型」は最優遇金利で0・7%まで下げている。5年以上前にローンを組んだ人は、1%前後も金利が下がっていることだろう。まさにローン借り換えの千載一遇、一期一会のチャンス到来である。

ローンの借り換えにあたってまず注意したいのは、諸々の手数料がかかるという点だ。銀行に払う手数料の他に、登記を書き換えるための登録免許税、司法書士報酬、元本に対する保証料(借りている額によって大きく異なる)などだ。銀行や借り手の条件によってまちまちだが、3000万円を借り換えた場合、約100万円の費用が発生する。

それでも「残高が3000万円以上ある場合や返済期間が20年以上ある場合には検討する価値が充分にある」と語るのは、不動産ジャーナリストの榊淳司氏だ。

「まずは、現在、自分の借りている銀行とは違う銀行に問い合わせて、借り換えのメリットがあるのか、見積もりを取ってもらうといいでしょう。マイナス金利の状況下で、多くの銀行が新しい借り手を探すのに必死ですから、積極的に応じてくれるはずです。

三菱やみずほといったメガバンクよりも、イオン銀行、じぶん銀行、ソニー銀行、住信SBIネット銀行といった新興系の銀行のほうが金利が安くてお得ですね。『そんな銀行は信用できない』と思う人もいるかもしれませんが、向こうはおカネを貸してくれる側で、信用が問われるのは借り手である客の側です。何の問題もありません」

イオン銀行などの金利が低く抑えられているのは、必ずしも銀行の信用度が低いからではない。メガバンクは一等地に店舗を構え、多くの人員を抱えており、社員の給料も高い。一方、インターネットを主たる販売窓口とするような新興系の銀行は、そうした費用がかからないため、金利も低く設定できるのだ。

新しい銀行に見積もりを取ってもらって、確実に返済額が減ることがわかれば、そのまま乗り換えてもいいし、現在ローンを組んでいる銀行に見積書を持ち込んでもいい。ローンを他行に持っていかれるのは大きな損失になるので、現在の金利から可能な限り引き下げてくれるだろう。

では、実際にどれくらいローンの負担が軽くなるのかシミュレーションしてみよう。

5年前に固定金利3%で借りたローンの残額が2500万円、支払期間が25年残っていたとする。返済の総額を計算すると、利子を含めて約3550万円になる。

これを同じく25年の支払いで2%の固定金利のローンに切り替えることができたらどうなるか。支払総額は約3180万円となり、370万円もの差が生まれることになる。月々のローン支払いに換算して、約1万3000円も安くなる。

借り換えの手数料を70万~80万円程度と見積もったとしても、300万円がまるまるオトクになるというのだから、これほどメリットの大きい財テクは滅多にお目にかかれない。ローン残高の大きい人は今すぐ行動したほうがいい。

「週刊現代」2016年2月20日号より