磯山 友幸磯山友幸「経済ニュースの裏側」

2016年01月13日(水) 磯山 友幸

日本株急落は、海外投資家がこの国を見捨てるサインか?

[Photo]iStock

「日本の命運」を握る海外投資家

2016年は年明けから株安が続き、日経平均株価が戦後初めての6日連続安となった。2015年末の日経平均株価は1万9033円と、何とか1万9000円台に乗せて引けたが、年明けから売り先行となり、1月12日には1万7218円まで下げた。

中国・上海株の大幅な下げや中東での紛争激化、米国の利上げなど、地政学的リスクの増加によって、いわゆるリスク回避の動きが強まったことが、株価下落の大きな要因。

一方で、通貨はリスク回避によって円に資金が集まり、円高になっていることから、これも輸出銘柄などにはマイナスに働いている。海外の動揺は収まっておらず、なかなか日本株にも底入れ感が出て来ない。

今年1年の日本株の行方を占ううえで大きいのは、いつもの事ながら海外投資家の動向だ。東京市場では売買の6割以上を海外投資家が占めるようになっており、海外投資家が本格的に買い姿勢を強めないとなかなか株価は上昇しない。

2015年は海外投資家が7年ぶりに売り越した。東京証券取引所がまとめた投資部門別売買状況(東京・名古屋の一、二部合計)によると、売り越し額は2509億円。確かに数字上は売り越しには違いないが、金額はわずかで、正確には「売り買い拮抗」「様子見」だった。

安倍晋三内閣がアベノミクスを始めた2013年は、海外投資家は15兆1196億円を買い越した。日銀総裁が黒田東彦氏に交代、「異次元緩和」に踏み切るなど、政策転換が鮮明になった。アベノミクスで日本が変わるのではないか、という期待感が一気に強まったことで、海外投資家が日本株を一斉に買ったのだ。

2014年も海外投資家のアベノミクスへの期待は高かったが、買い越しは8526億円にとどまった。2015年はコーポレートガバナンス・コードの制定など、日本の企業経営の変化を政策が後押しする姿勢を鮮明にしたことで、海外投資家の評判は上々だったが、6月に上海株が急落して以降、日本株にも一気に売りが広がった。

6月末までの海外投資家の買い越し額は2兆6583億円だったから、それ以降の売りが大きかったことを示している。ちなみに日経平均株価の昨年の高値も6月の2万952円だった。

昨年後半の株価の下落と、海外投資家の「売り」は海外要因が主体だが、日本固有の事情がなかったわけではない。アベノミクスへの期待が剥げてきたのである。

揺らぐ「日本の信頼」

「日本企業は本当に変わるのか」――。年末に日本を訪れたヘッジファンドのエコノミストは、かねてから知り合いの財界人などを訪ねて、こう質問していた。アベノミクスが掲げたコーポレートガバナンスの強化が成果を上げれば、日本企業の収益性が改善され、株価の上昇にも弾みが付く。そう考えて投資してきたが、「やはり日本は変わらないのではないか」という疑念が強まっているのだという。

その大きな原因が東芝の不正会計問題。海外、とくに米国人の目には日本の金融当局の対応が「甘い」と映っている。

15年前、米国でもエンロンなどの不正会計が発覚し、経済界を揺るがす大事件に発展したが、当時の財務担当役員らは逮捕されて有罪となり投獄された。東芝には金融庁が課徴金を課したものの、幹部が刑事告発されるかどうかも未知数のままだ。

エンロン事件では、監査を担当していた大手会計事務所アーサーアンダーセンの責任が問われ、解体に追い込まれた。東芝問題では担当の新日本監査法人にも行政処分が下ったが、課徴金と新規業務の停止で済み、従来から手掛けている企業の監査業務については業務改善命令にとどまった。つまり、新日本は潰さないという温情の処分だったわけだ。

日本を代表する企業である東芝を舞台にした会計不正は、日本企業の透明性や、日本の監査制度の質を問うのに十分な問題だ。金融庁には「海外からはあまり東芝問題への批判は聞こえてこない」といった楽観的な声もあるが、実際はボディブローのように「日本の信頼」を揺るがしている。

安倍内閣が掲げた「コーポレートガバナンスの強化」も、結局は口だけではないのか、そんな疑問が海外投資家の間にジワリと広がっているのである。

一方で、株高によって、アベノミクスの恩恵を真っ先に感じているはずの個人投資家も、日本株の先行きに厳しい。2015年に個人投資家は4兆9995億円を売り越したのだ。

アベノミクス初年の2013年は8兆7508億円の売り越し、2014年は3兆6323億円の売り越しと続き、昨年2015年は前の年よりも大きく売り越した。株価が上昇したことで、長年保有してきた株式を売却している個人が少なくない。

本来は、アベノミクスで日本経済の先行きが明るいと感じれば、個人投資家は買い越してきそうなものだが、現実にはそうなっていない。個人投資家のアベノミクスへの見方は依然として厳しいとも言える。

日本は見捨てられるのか?

そんな中で2014年に続いて2015年も大きく買い越したのが、「信託銀行」勘定である。前の年の2兆7848億円に続いて、2兆75億円を買い越した。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などが売買した際、統計上はここに表れて来ることから、債券中心から株式中心に大きくシフトしているGPIFの年金資金が日本株の買い支えに大きな役割を果たしたと推測される。

もっとも、GPIFによる株価の買い支えについては、海外投資家でも評価が分かれる。短期志向のヘッジファンドなどは、GPIFや日本郵政グループからの株式市場への資金流入の動きを好意的にみているが、長期の運用を手掛ける海外の年金基金などは、むしろリスク要因とみている。

政策によって意図的に増やした株式投資は、逆に言えば政策によって意図的に減らされるリスクを抱える。まして日本は少子高齢化が著しく進んでいる国で、このままでは年金の取り崩しが大きくなっていくのは明らかだ。そうなれば、保有している株式を売却しなければならなくなる。

では、海外投資家がこのまま日本株を見捨てるのか、というとそうではない。2013年に買い越した十15兆円をまだまだ海外投資家は保有している。

世界のマーケットを見て、相対的に日本が安定的だということもあるし、加えて、アベノミクスによって日本企業の収益性が高まるのではないか、という期待も捨てていないからだ。もうアベノミクスは終わりだ、となれば一気に現物株の売り物が出て来るが、現実にはそうなっていない。

ポイントはそうした海外投資家に響く政策を打ち出し、目に見える成果を上げることだ。昨年秋のアベノミクス第二ステージ以降、改革歩調が鈍っているようにみえる。

こうした「変われない日本」と決別する姿勢を明確にすれば、再び海外投資家が日本株を大きく買い越す時は来るだろう。