週刊現代経済の死角

2015年06月29日(月) 週刊現代

戦争やる気満々安倍オフレコ発言ぜんぶ書く
「仮想敵国は中国」「橋下の本当の評価」「慰安婦問題は3億円あれば解決できる」
思い上がりと不安が入り混じった、なんと正直な告白

安保国会でヒートアップする総理〔PHOTO〕gettyimages

かつてない興奮と憂鬱のはざまで、総理の心はさながら上り下りを繰り返すジェットコースターのようだ。新聞やテレビが決して報じないところで、にわかには信じがたい言葉を連発していた。

あの橋下も驚いた

「国政進出、私は期待していますよ」

「(来年7月の)参院選には出ないということなら、衆参ダブルもありますから」

真剣な面持ちで身を乗り出す安倍晋三総理に、さすがの橋下徹・維新の党最高顧問も「いやあ……」と曖昧な笑みを浮かべるほかなかった。

今、日本一豪奢なホテルといわれる、虎ノ門ヒルズ高層階の「アンダーズ東京」。銀座、丸の内の夜景を一望する地上240mの個室に、安倍総理、菅義偉官房長官、橋下氏、そして松井一郎大阪府知事の4人だけが静かに座っていた。6月14日、日曜日の夜。番記者もシャットアウトした密室の会談は、3時間にも及んだ。

「もともとこの日は松井知事が単独で上京するから、菅さんと会おうという話だった。それが、橋下さんのたっての要請で『安倍・橋下会談を』ということになったんです。

橋下さんからは『安保法制、憲法改正で協力します』と。総理からは『橋下さんが国政に出るなら、バックアップする』と。そういう約束の場でした」(自民党閣僚経験者)

総理がそれほどオレを買っているとは。でも、あんなこと言って大丈夫か……。官邸との蜜月をアピールしようと目論んだ橋下氏にとっても、安倍総理の踏み込みぶりは想定外だったに違いない。

安倍総理の心身の状態は今、きわめて不安定になっている。上機嫌、饒舌で周囲を驚かせたかと思えば、官邸に詰めるスタッフに怒鳴り散らす。いきおい、危なっかしい「オフレコ発言」を頻発している。

総理がそれを言っちゃあ…

官邸記者クラブのキャップが集うオフレコの懇親会、いわゆる「オフ懇」。6月1日の午後7時すぎ、赤坂の老舗中華料理店「赤坂飯店」に到着した安倍総理は、乾杯してすぐ、注がれたビールを飲み干した。赤ワイン派の総理にしては珍しく、グイグイと杯を重ねてゆく。持病の潰瘍性大腸炎は大丈夫なのか。出席した記者たちが気を揉むほどの飲みっぷりである。

この日は、午後3時頃に町村信孝前衆院議長の訃報が飛び込んできたばかりで、夜には総理も目黒の町村邸を弔問に訪れる予定だった。町村氏は、安倍総理の出身派閥の元領袖。「今夜、本当にやるのかな」と記者たちは訝ったが、官邸からは夕方「予定通りで」という連絡が入った。

「町村さんは、お気の毒でしたね」

ひとりの記者が水を向ける。しかし安倍総理は、

「うん、そうだね」

「いい人だったよね」

と、まるで他人事のように返す。そして、無表情にいくつかの思い出話を語るのだった。

ところが、話題が安保のことに移ると、総理の口は一転してなめらかに回り始めた。自説をとうとうと述べたてて、こう周囲に同意を求める。

「野党の人は、何でオレに質問しないんだろうね」

「だいたい論点は出尽くしたでしょ。もう議論することなんかないのに」

「(民主党の)岡田(克也代表)さんなんて、いつも同じことばっかり言ってる。意味がないですよ」

「あんなのに答える必要はない。民主党はもう終わりだよ」……。

この4日前、総理は衆院平和安全法制特別委員会で、民主党の辻元清美議員に「早く質問しろよ」とヤジを飛ばし、党内外から猛批判を受けたばかりだった。安保のことはオレが一番分かっている。野党の連中がやっていることは、所詮揚げ足取りにすぎない……酔いのまわった総理は、そんな憤りに身を任せていたのだろうか。

さらに安倍総理は、こうも言った。話題が集団的自衛権のことにさしかかった時である。

「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの。だから、やる(法案を通す)と言ったらやる」

要するに安倍総理は、中国を自衛隊と米軍の「仮想敵国」だと考えている。この「誰もがうすうす感じているけれど、決して口にはしてはならないこと」を、あろうことか、当の総理が認めてしまった。まさか本当に、戦争をやる気なのか。

「総理、そろそろ……」

安倍総理の信頼を一身に集める側近・今井尚哉総理首席秘書官が耳打ちし、総理はやおら立ち上がって店を出て行った。

その足で安倍総理は、町村氏の自宅へ向かった。時刻はすでに夜9時前。やや赤らんだ顔で弔問に訪れた総理の姿に、遺族や派閥関係者は驚きを隠せなかった。

「町村さんと安倍総理の関係がかなり悪かったことは皆知ってるけど、さすがにあれはないな……」

後日、細田派(旧町村派)所属のある議員は、そう言って溜息をついた。

バレたら国際問題になる

再び政権の座について以来「安倍一強」と言われ続けた総理は今、言うなれば「思い上がりと不安のせめぎ合い」に苛まれている。心身のストレスの針はとっくに振り切れ、それが「唯我独尊」の言動となって表れているのである。

事実、官邸では連日の国会審議の合間に、安倍総理の怒声が飛んでいる。

「どうにかならないのか!」

「何でもマジメに答えりゃいいってもんじゃない」

「ホントに、バカ正直だから困る」

この「安保国会」で野党がとっている戦略は、総理の足元をひたすら狙い撃つというもの。答弁がヘタな中谷元防衛大臣を徹底的に追及し、しどろもどろになったところで、ようやく安倍総理に振る。そうすれば、大将である総理は前衛が犯した答弁のミスを一手に引き受けざるを得ない。

ヘトヘトになった総理は、官邸に引き上げると、側近たちに向かって前述のように怒鳴っているというわけだ。「バカ正直」とはむろん、中谷氏のことである。自民党衆院議員が言う。

「野党のやり方はこたえていますよ。そもそも、身内から見ても自民党の安保法案はかなり無理筋。しかも、8月まで会期を延長すると言ったって、8月15日の『戦後70年談話』発表の時に国会が開いていたら、それこそ野党から猛攻撃に遭って収拾がつかなくなってしまう。ここは焦らずに、一度引いて仕切り直したほうがいいという声も党内では出始めています」

しかし、それでも安倍総理は「夏が終わるまでに押し切る」という構えを崩そうとしない。その理由を「ここにきて、またしても体調が悪化しているからだ」と明かすのは、ある自民党関係者だ。

「長年の悲願である憲法改正までたどり着けないのではないか、という懸念が総理の中で出てきているんですよ。

ここ最近官邸でよく言われているのは、トイレの回数がやたら増えている。30分に1回行く日も珍しくなくて、そんな時は『ちょっとヤバいね』と噂になっているんです。精神的にもかなり疲れていますからね」

内閣支持率はじりじりと下がり、第二次安倍政権が発足してから最低の41%となった(6月12~14日、NNNテレビによる世論調査)。このまま突き進んで、本当にうまくいくのか。不安が募れば募るほど、総理が漏らす「オフレコ発言」は過激になってゆく。

6月16日、TPP関連法案の採決で紛糾する米議会の混乱を見ていわく—。

「まったく、アメリカは何やってんだ! オバマは何やってんだ!」

21日には、翌22日の日韓国交正常化50周年を機に韓国の尹炳世外相が来日、岸田文雄外相と会談した。その直前、日韓関係について「ホンネ」を吐露していわく—。

「ほら、待ってれば韓国のほうからアプローチしてくるんだよ」

「従軍慰安婦問題は3億円あれば解決できるんだ。でも、カネの問題じゃないからなあ」

海外のメディアで報じられれば、ほとんど外交問題モノの放言ばかりである。こうした「オフレコ発言」が一向に報じられないところを見る限り、大新聞とテレビ局をガッチリ握る安倍官邸の優秀な「危機管理」は、しっかり機能しているらしい。

この夏を何とか乗り切れば、9月下旬には自民党総裁選が待っている。党内では「まったくの無風。このままいけば、安倍さんの無投票再選になる」(ベテラン議員)という見方が大勢だ。

しかし一方で、「ポスト安倍」を意識した動きが水面下では加速しつつある。

安倍総理が最も警戒する存在が、二階俊博総務会長であることは、永田町では衆目の一致するところである。5月下旬に3000人を引き連れて北京を訪れ、習近平・中国国家主席と面会したことは記憶に新しい。

「二階氏はいち早く『安倍再選支持』を表明し、大阪都構想の住民投票が行われる前日の5月16日には、見返りとして総理に地元・和歌山の高野山まで足を延ばさせました。

しかしその一方、安倍政権下ですっかり弱体化した石原派を、自身の二階派に取り込もうとしていて、『石原(伸晃前環境相)氏をポスト安倍の候補に担ぐ』とも示唆している。表立って総理に反抗はしませんが、牽制も忘れていない」(全国紙政治部デスク)

「後継指名」も飛び出した

対する安倍総理は、「次は稲田(朋美政調会長)」とほのめかしている。9月の人事で稲田氏を幹事長に据え、「女性初の総理大臣」へ道筋をつける。総理の器じゃない? そんなことは気にしなくていい。オレが後見人になれば、安倍政権が事実上続くのだから……。それが総理の目算だ。安倍総理と二階氏は「どちらが院政を敷くか」をめぐって、すでにバトルを始めているというわけだ。

面白くないのは、菅官房長官である。菅氏としては、身動きのとれない官房長官ポストは卒業して、党の実権を握る幹事長職に就きたい。しかし、あまりにも菅氏は安倍総理に尽くしすぎた嫌いがある。

「沖縄の普天間基地問題に、負け続けの地方選と、菅さんは『オレは地雷を踏んでも頑張っているのに』と思っている。ただ、頑張りすぎたせいで代わりがいない。このまま務めあげて、総理と一緒に退場するしかない」(前出と別の自民党関係者)

菅氏を解放しようとしない安倍総理の内心には、「菅ちゃんに幹事長をやらせると、どう転ぶか分からない」という警戒もある。何といっても菅氏は、政局のたびに変わり身を重ねて、政界を渡り歩いてきた人物なのだ。

その点を踏まえると、冒頭の安倍・菅・橋下・松井の「四者会談」には、安倍総理と菅氏の間で異なる意味合いを帯びていたことが分かる。

「橋下氏と個人的な結びつきがあるのは、総理ではなく菅氏です。橋下氏を抱き込むことに成功すれば、菅氏の立場は強くなる。安倍総理は、あくまで橋下氏を自分の駒として利用できると踏んでいるようですが……」(前出・全国紙政治部デスク)

第3コーナーをまわった安倍政権。ここから先、何が待ち受けているのか……。安倍総理の言動には、その心のうちの高揚と不安が、如実に表れている。

「週刊現代」2015年7月4日号より


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