市川 裕康市川裕康「デジタル・キュレーション」

2015年01月06日(火) 市川 裕康

メディアとジャーナリズムの現在・未来に関するあらゆる論点が盛り込まれた新著『Geeks Bearing Gifts』が提唱する「ソーシャルジャーナリズム」とは?

12月上旬にTow-Knight Innovation Award & Summitイベントに登壇した米国ニューヨーク市立大学大学院ジェフ・ジャービス教授(Youtube動画より)

「メディア・ジャーナリズムの未来」というテーマについて、2014年も国内外において数多くの議論や試行錯誤がおこなわれましたが、2015年を迎え、ますますその勢いは加速していくことと思います。正月休みに偶然手にした書籍『Geeks Bearing Gifts: Imagining New Futures for News』を一気に読み、その思いがますます強いものになりました。

『Geeks Bearing Gifts』とはどんな本か?

『Geeks Bearing Gifts』とは少し分かりにくいタイトルですが、ギリシャ神話の「トロイの木馬」に基づいた英語の諺「Beware of Greeks bearing gifts」(油断ならない贈り物(トロイの木馬)をするギリシャ人(に注意しろ)。さらに「親切そうに見える人の裏切りに気を付けなさい」という文脈で使われる言葉)に由来します。

「Greeks」(ギリシャ人)を最先端の技術を持つ「Geeks」(ギーク/オタク)に置き換え、隠喩的に「インターネットなどのテクノロジーによりイノベーションをもたらし、無料で使えるウェブサービスなどを提供する「ギーク」たちによって、従来のビジネスモデルを破壊されかねない(すでにされつつある)ので注意せよ」というような意味が込められているのだと思います。また、このようなギークたちとどのように向き合うべきか、という問題提起をも投げかけています。

2014年11月に出版されたこの本の著者はニューヨーク市立大学大学院(CUNY)ジャーナリズム学科で「起業ジャーナリズム(Entrepreneurial Journalism)」のプログラムのディレクターを務めるジェフ・ジャービス教授です。彼の運営するブログサイト「バズマシーン」や『パブリック~開かれたネットの価値を最大化せよ』などの書籍を通じ、昨今のメディア・ジャーナリズムを巡るイノベーションについての論客としても知られている注目の人物です。

今回の書籍が重要であると感じ、ご紹介したいと思った理由が2つあります。

ひとつめの理由は、この約230ページの書籍の中に、近年あらゆる場所で議論されているメディア・ジャーナリズムにまつわる論点が余すことなく紹介されていて、それぞれについて詳細なデータ、そして具体的かつ先端的な成功・失敗事例が豊富に紹介されている点です。目次を眺めるだけでもその多様なテーマについての議論の方向性を伺うことができます。また、著者独自の率直な意見、予測も随所に盛り込まれています。

同書目次より(以下、筆者による簡易翻訳)

【はじめに】
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/new-relationships-forms-and-models-for-news-92ef9fd4758b

【1章:関係性(Relationship)】
1. マスメディアの終焉
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/no-mas-mass-media-b8a2c240d718
2.「コンテンツ」対「サービスとしてのジャーナリズム」
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/content-vs-service-70fa604146a
3. プラットフォームとしてのニュース
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/news-as-platform-f453581f6194
4. エコシステムとネットワーク
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/ecosystems-and-networks-92ccf15ef52e
5. エンゲージメント、コラボレーション、メンバーシップ
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/engagement-collaboration-and-membership-9a2248e2d77b
6. オーガナイザー、アドボケート(社会活動家)、教育者としてのジャーナリスト
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/journalist-as-organizer-advocate-and-educator-7aa720b8bed6

【2章:フォーム】
7. 従来の記事の死、息の長い新しい「記事」へ
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/the-article-is-dead-long-live-the-article-1d2bad3bf09a
8. プロダクトよりもプロセス~ニュースの流れに価値を与えること
9. キュレーション

https://medium.com/geeks-bearing-gifts/curation-457444334168
10. ニュースとしてのデータ
https://medium.com/geeks-bearing-gifts/data-as-news-7897c357cf6e
11. モバイル=ローカル=私~コンテンツよりコンテキスト
12. テレビニュースの再構築
13. 未開の新技術


【3章:モデル(ビジネスモデル)】
14. ここまでの話のまとめ
15. デジタル・ファーストとその後
16. 効率性・最終的な形(Final Cut)
17. ニュース・エコシステムを築く積石としてのビートビジネス(小規模、ニッチ型サイト)
18. ビジネス・エコシステム
19. 広告、マスメディアの神話、関係性に重きを置いた戦略
20. ネイティブ広告~敵か味方か
21. ペイウォール
22. パトロネージ(寄付など)
23. 情報に対する価格のパラドクス
24. リンクエコノミーと著作権について
25. メトリクス(指標)
26. 資本~未来への投資


【あとがき】
ジャーナリズム教育について

なお、ジャービス氏本人はそもそも「メディア・ジャーナリズムの未来」は自分を含めどうなるか誰も分からないし、予測をすることで将来の可能性を狭めたくないので、あくまでも自分なりの見解をまとめる目的で本書を執筆したと語っています。

なによりこうした書籍をきっかけに多くの人が自分なりの新しいアイデアや議論を広げていくことでコラボレーションが生まれ、よりよいメディア・ジャーナリズムの未来が生まれていくことを願っている、と本書の中でも強調しています。

多くの人による議論を促すため、著者は現在、書籍コンテンツを少しずつ無料でブログプラットフォーム「Medium」上に公開しており、いずれすべてのテキストがウェブ上で閲覧可能になります(1月5日時点で公開されているものは上記目次のリンクから閲覧可能です)。

*今回の書籍で指摘されていることのいくつかは昨年春に公開された平和博氏による以下の記事で詳細に紹介されているのでぜひ併せてご覧ください。
「ニュースはコンテンツでなくサービス」ジェフ・ジャービスの処方箋 | 平 和博氏- (ハフィントン・ポスト 4/30/2014)

2015年1月、大学院の学位プログラムとして初めて設置される「ソーシャルジャーナリズム」とは?

今回、本書をご紹介したかったもうひとつの理由は2015年1月にニューヨーク市立大学大学院で新しく開講される学位プログラム「ソーシャルジャーナリズム」に強く興味をもったからです。

書籍の中でも繰り返し「マスメディアの終焉」を訴え、個人やコミュニティの社会的な個別の課題に耳を傾けることで地域のニーズを探り、ジャーナリズムはより社会活動家的な「コミュニティ・オーガナイザー」や権利侵害に立ち向かうアドボカシー(権利擁護活動)の役割を果たすべき、と主張し生まれた肝いりのプログラムです。

「ソーシャルジャーナリズム」の学位プログラムが設立された背景は昨年春にジャービス氏により投稿されたブログ記事(「Social Journalism ― Whither news?」)で紹介されていますが、まもなく開講を迎えるということですでに同プログラムのホームページには中心となるテーマやコアとなるカリキュラムがくわしく記載されています。

〈 ソーシャルジャーナリズムとは単にコンテンツを作成してスペースを埋めるというものではない。今日活躍するジャーナリストとしてソーシャルメディアの各種ツールを理解・習得することは大切と思うものの、単にソーシャルメディアを活用するという類のものでもない。ソーシャルジャーナリズムはまずなによりも「傾聴」から始まる。

コミュニティが地域に根付いたものであれ、共通のテーマにより形成されるものであれ、ソーシャルジャーナリストは単にページビューやクリック数などの指標を高めることを目指すのではなく、そのコミュニティと関係を構築し、彼らが目に見えるインパクトをもたらすことを支援することにある。

それらのことを実現するためにはストーリーを書くという作業が含まれる場合もあれば、洗練されたデータを活用したり、人々を互いに結びつける支援をしたり、コミュニティを組織し行動を起こすことを支援することも含まれる。

またプログラムはそれらニュース組織を財政的に持続可能なものにするためのインターンシップの機会を含むビジネスのトレーニングも含まれている。 〉

同プログラムはビジネス系SNSサービス「Linkedin(リンクトイン)」創業者兼会長でありベンチャーキャピタリストでもあるリード・ホフマン氏と新しいメディアイノベーション分野への支援で著名なナイト財団からの財政的支援で実現が可能になり、授業にはニューヨークの中心に位置するキャンパスの地の利を活かし、第一線で活躍する起業家、ジャーナリスト、コミュニティ・オーガナイザーなども数多くゲストスピーカーとして参加するとのことです。

2015年、そしてそれ以降のメディアのあり方を占い、また実践として日々ジャーナリズムに従事している方にとってはとても示唆に富む内容になるのではないかと思います。こうした良質な議論、ディスカッション、アイデア交換の場所や機会は今後日本でもきっと増えていくことと信じています。

たとえば、今月1月24日(土)には「日本ジャーナリスト教育センター」主催によるイベント「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」が予定されています。「次世代を切り開くジャーナリズム作品」の作り手と受け手が交流し、情報を発信することの大切さ、楽しさを共有する場を目指すとのことです。

また、1月26日(月)には、コミュニティを運営している人にスポットライトをあて、効果的なノウハウ・コツの共有などを通じてコミュニティ運営者を支援することを目的に作られたユニークな記念日(Community Manager Appreciation Day)にちなんだ世界的なミートアップイベントの東京版が開催予定です(私自身も主催者の一人として参画しています)。

『Geeks Bearing Gifts: Imagining New Futures for News』の記事が今後順次公開されていくということで、ご興味ある方がいらしたら読書会のようなものも企画してみたいと考えています。

最後に、ジェフ・ジャービス氏による『Geeks Bearing Gifts: Imagining New Futures for News』を16分ほどで要約しているプレゼンテーション動画があるので、こちらをぜひご覧ください。2015年、メディア・ジャーナリズムに関する議論のきっかけの一つとして何かのヒントがもたらされること、そして本稿をきっかけにより多様なディスカッションがますます広がることを願っています。

本記事に関するご意見、ご質問などは筆者ホームページ(www.socialcompany.org)、或いはツイッター(@socialcomapany)を通じて是非お気軽にお寄せください。