週刊現代経済の死角

2014年03月24日(月) 週刊現代

栄光はあまりに短く、儚かった 小保方晴子さんは、これからどうなるのか?

科学の常識を覆す夢のSTAP細胞に、世界中から疑いの目が向けられている。次々に発覚する不正で、その存在にすら疑義が呈されるなか、「産みの親」である小保方晴子さんはなにを思うのか—。

科学者としてはアウト

「小保方晴子さんのSTAP細胞に関する論文は、あまりにも欠陥が多すぎます。これだけコピペ(コピー&ペースト)や画像の盗用が取り沙汰される以上、彼女の研究者としての資質を疑わざるを得ない。

もしSTAP細胞そのものが捏造のうえで成り立っているものだと明らかになれば、これは日本の科学史上最大のスキャンダルになります。今ですら小保方さんは科学者として生きていくのが非常に難しい状況なのに、捏造となれば彼女の研究者生命は完全に断たれることになります」

そう語るのは、東京大学医科学研究所特任教授の上昌広氏だ。

小保方さんと彼女が発見したSTAP細胞に向けられた疑惑の色が、日増しに濃くなっている。あらゆる場面に応用できる夢の万能細胞—。1月28日の華々しい記者会見からわずか2ヵ月足らずで、賞賛と感嘆の声は、疑念と失望の声へと変わりつつある。

本誌はこれまでも、小保方さんらが科学誌『ネイチャー』に投稿した論文のなかに、十数行にわたり海外論文からのコピペがあったことなどを指摘してきた。しかしその後も、にわかには信じ難い疑惑が、次々と持ち上がっている。

そのひとつが、博士論文にまで浮上したコピペ問題。小保方さんが3年前、早稲田大学大学院在学中に書いた博士論文の全108ページのうち、およそ20ページにわたって、米国立保健研究所(NIH)サイト内の「幹細胞の基礎」という文章がコピペされていたのだ。

「博士論文は、その道に人生を捧げる覚悟をした者が、一人前の研究者になるための関門として精魂込めて書き上げるもの。製本された論文は国立国会図書館などにも収蔵されます。

その論文で、他の文書を20ページにわたってほぼ剽窃するなど、前代未聞です。これだけで彼女は学会から永久追放ものであり、同時に、こんな杜撰な論文を通していた早稲田大学と、その指導教官の責任も問われることになる」(分子生物学者の一人)

この博士論文については、中で使われている画像4点が、今年1月に『ネイチャー』に掲載されたSTAP論文に流用されているとの疑惑も持ち上がった。「実験内容が違うのに画像が同じ」という耳を疑うような疑惑で、「本当にまともな実験をしていたのか?」という疑問すら浮上してくる。

前出の上氏が語る。

「画像の流用は完全に故意でしょう。同じ論文内での画像の取り違えならともかく、博士論文の画像を『ネイチャー』論文に使うというのは、意図的でなければ起こりようがないことですから。彼女は不正を自覚しながら、画像を流用したと考えるのが自然です」

「日本」の信用問題に発展

理化学研究所は3月5日、STAP細胞の作成手順を解説する「プロトコル」を公表したが、逆にそれも他の研究者らを失望させた。『ネイチャー』論文でSTAP細胞の発現に必要とされていた現象が、プロトコルでは「確認できなかった」と書かれていたのだ。自らが書いた論文の正当性を、自ら否定したわけで、専門家ならずとも、「一体何がしたいのか分からない」と声をあげたくなる。

事ここに至って、小保方さんの共同研究者で、『ネイチャー』論文の共著者でもある山梨大学の若山照彦教授も、ついに匙を投げた。

「(小保方さんを)信じている」と、彼女を庇ってきた若山氏が、「STAP細胞の存在に確信が持てなくなった。論文を撤回すべきだ」と呼びかけたのだ。

京都大学iPS細胞研究所特定准教授の八代嘉美氏はこう語る。

「この問題は今後、より大きな影響を及ぼすと思います。小保方さんのように、『ネイチャー』の同じ号のなかに同じ著者の論文が2つ入るというのは、そうそうあることではない。『ネイチャー』側もSTAP細胞の論文はそれだけインパクトのある、センセーショナルな記事だと判断していたということを意味しています。もし、それほど注目されていた2本の論文に、取り下げや大きな修正が加わればどうなるか。もはや理研どころか、日本という国の信用問題にまで発展する可能性があります」

理研には、年間約850億円の国費が投入されている。巨額の税金を使うことが許されるのは、そこにいる研究者たちが日本を代表する頭脳の持ち主であり、彼らの研究成果が、科学の発展を通じて国民生活の向上につながると期待されているからだ。

その研究費を使って、小保方さんらはSTAP細胞の発見を大々的に発表。会見で「夢の若返りが実現できるかも」などと自画自賛した。理研もプレスリリースで「従来よりも簡単に、短時間で作成できる万能細胞」だと、メリットの大きさを全世界に喧伝した。

難病や不治の病に苦しむ人々は希望を持っただろう。そんな夢の細胞ができたなら、自分や家族が救われる日が来るかもしれない。

ところが、もしもそれらが不正の末の「幻」だったとしたら—?STAP細胞関係者らは、こうした人々の期待を、最悪の形で裏切ることになる。小保方さんらに、そんな自覚と覚悟は、どれほどあったのか。

3月13日現在、『ネイチャー』論文は撤回の方向へ向かいつつある。なぜこんなことが起きたのか。今回の件は、小保方晴子さんという研究者が一人でしでかしたものではない。彼女の指導役でもあった周囲の有名研究者たちの責任も、重大と言わざるを得ない。

STAP論文の筆頭著者は小保方さんだが、そこには共著者として、理研サイドでは副センター長の笹井芳樹氏、プロトコルを出し直した丹羽仁史氏、前出の若山照彦・山梨大学教授らの名前がある。その他にも、ハーバード大学医学部のチャールズ・バカンティ教授、同大附属病院助教の小島宏司氏、東京女子医科大学の岡野光夫(アベノミクス再生医療等基準検討委員会座長)、大和雅之両教授など、その筋の錚々たる研究者たちの名前が連なっている。

共同著者の処分も

このうち、疑惑が燃え広がる中で、その責任が大きく問われることになったのが理研幹部の笹井氏だ。同氏は再生医療分野の紛れもない第一人者で、ES細胞から人間の網膜を作ることに成功し、世界的な名声を誇るトップランナーだ。

「それほどの人材が小保方さんの指導にあたっていながら、なぜこんな杜撰な論文を発表してしまったのか、実に不可解です。一部では、論文の根幹部分は笹井氏が執筆を担ったとも言われている。小保方さんは笹井氏の引きで、ほとんど業績もないまま、たった2年で理研のユニットリーダーになりました。その人事の経緯や特別な人間関係も含め、不適切な点がなかったか疑問の声が内部でも上がっています」(理研関係者)

数々の疑惑に対し、現在のところ前出の若山氏を除く関係者は一切、自らの口で説明や釈明を行っていない。本誌が行った取材にも、関係者は誰一人、答える気はないようだった。

渦中の笹井氏は3月11日、優れた業績をあげた研究者に贈られる、上原記念生命科学財団の2013年度「上原賞」に選ばれ、贈呈式に出席。STAP細胞疑惑が大炎上中にもかかわらず、何事もなく2000万円の褒賞金を受け取った。本誌は笹井氏に今回の騒動についての見解を求めたが、一切ノーコメントのままその場を立ち去った。

また、大学院時代の小保方さんの恩師である大和氏は、疑惑浮上前後にツイッターの更新を止め、その動向が注目されていたが、「心労からか、脳梗塞を起こして都内の病院に入院中」(都内大学に所属する研究者)とのことで、問題の確認作業ができない状況だという。

とんでもないことが起きているのに、誰もが口を閉ざし、何も説明しようとしない。首を傾げざるを得ない不可解な状況があまりに多すぎる。

論文の不正などに詳しく、理研の内部事情もよく知る、大学教授の一人はこう話す。

「理研に今現在いる多くの研究者たちは、死ぬまで理研にいようとは思っていません。予算が大きく施設が充実しているのは確かですが、いつか大学や他の研究機関に引き抜いてもらいたいと思っている研究者が大半です。しかし、そのためには業績をあげて、他の人よりも目立つ必要がある。

そういう事情があって、理研内にはコピペや捏造が起きやすい状況があることは否定できません。ひとつひとつは小さなものでも、誰も気づかないままそれが見逃され、責任の所在もはっきりしないままどんどん積み重なった結果、やがて今回のような大事件が発覚することになります」

理研では成果主義が導入されており、とくに若手研究者は、1~2年という短いスパンで成果をあげることが求められ、強いプレッシャーがかかるという。

「内部ではいつも『花火(業績)をあげろ』などと言われます。研究成果が出なければクビ。だから無理にでも大きな花火を打ち上げ、実績をアピールしなければなりません。お互い様の部分もあり、そのため、身内のチェックが甘くなっていることも否定はできない」(理研の元研究者)

前出の大学教授が、こう続ける。

「実は理研のHPでは、しょっちゅう『世紀の大発見』の発表が行われている。あれは政府やマスコミに向けたパフォーマンス。理研は、お役所なんです。彼らが考えているのは、本筋の研究成果ではなく、むしろ『いかに上手く資金を引っ張って来るか』ということ。それが行き過ぎた場合、小保方さんのような、ある種のトリックスターを生み出してしまうことになる」

一方でそんな体制的な問題以外に、同じ分野で山中伸弥・京都大学教授がiPS細胞の開発でノーベル賞を受賞したことで、関係者に「焦り」があったという指摘も出ている。

「たとえば笹井氏はES細胞研究の第一人者ですが、山中教授のiPS細胞に、再生医療研究のお株を奪われてしまいました。iPS研究は2014年度には年間約150億円もの予算がつけられるほど再生医療分野の『目玉』となっている。こうした中で、非iPS派の研究者たちの中には、インパクトのある大発見をしなければ、自分たちの研究が尻すぼみになってしまうという恐怖があった可能性があります。そうでもなければ、あそこまでデタラメな論文に、高名な研究者たちがいとも簡単に飛びついてしまった理由がつかない」(別の理研関係者)

理研は当面、小保方さんらを含む当事者を矢面に立たせることはせず、さらなる「調査」を続ける構えだ。だが、STAP細胞の真偽にかかわらず、度重なる論文の不正発覚という時点で、笹井氏ら小保方論文の共同著者や、彼女の博士論文をノーチェックでスルーした早稲田大学の教授陣らは、今後厳正な処分を受けざるを得ない状況にある。

さらに生物学会のベテラン研究者はこう語る。

「これ以上の恥の上塗りは、とりかえしのつかないほど日本科学界の信頼を失墜させる。けじめをつけるためには、笹井氏らだけでなく、理研の理事長であるノーベル賞受賞者の野依良治氏も表に出てきて、きちんと世界に向かって釈明しなければならない。そうでなければ事態収拾はありえないでしょう」

職を失い、借金が残る可能性

そうした際には当然、この大スキャンダルの中心、小保方さんによる説明も必要だろう。周囲の関与や不透明な経緯があったとはいえ、論文の「ファースト・オーサー」(筆頭著者)は、紛れもなく彼女だからだ。

小保方さんには今後、どのような処分が下るのか。前出の上氏が語る。

「論文の問題で、小保方さんは、博士号の学位を取り消されると思います。理研研究者には博士号が必要ですから、必然的に職も失うことになります」

理研ユニットリーダーを務めていた小保方さんの年収は、800万~1000万円程度と推定される。クビになればそれがすべてパーになり、新たな職を探さねばならない。

さらに小保方さんは博士課程の3年間、日本学術振興会から特別研究員として月20万円の研究費が支給されていた事実が指摘されている。学術振興会に問い合わせたところ、もし博士号が剥奪されれば「研究費の不正使用として計720万円の返還を要求する可能性もある」という。つまり、職を失うだけでなく、借金を背負うことになる恐れもあるわけだ。前出・ベテラン研究者は、こう話した。

「ここまで信頼を失ってしまうと、残念ながら、小保方さんはもはや研究者を続けていくことはできません。共同研究など怖くて誰もできませんし、仮に彼女が単独で新論文を発表しても、誰も相手にしない。大逆転があるとすれば、何らかの『奇跡』が起きて、STAP細胞の存在自体が証明されること。そうであって欲しいとは思いますが……」

たとえ姿を現さなくとも、汚名だけは科学界に永久に残ってしまう。釈明の余地がわずかでもあるなら、一刻も早く小保方さんの声を直接聞かせてほしい。

「週刊現代」2014年3月29日号より