富士通の内紛が表面化、醜悪な経営陣の動向が次々に明らかになっている。
病気を理由に、昨年9月25日、野副州旦前社長が退任。しかし、実際は「反社会的勢力(反社)」との関係を理由にした解任だったとして、野副氏が反乱を起こし、「法皇」と社内で呼ばれる秋草直之取締役相談役らの"策謀"を明らかにしていった。

双方の対立の経過や、情業員約18万人、売上高4兆7000億円の大企業にコーポレートガバナンスが働いていない実態については、すでにマスコミが大きく報じているので、ここではふれない。
今回とりあげたいのは、「反社」と指摘されたファンドの正体である。
富士通が問題にしているのは、英国投資ファンドのサンドリンガムキャピタルパートナーズリミテッドの房広治氏と、その子会社のサンドリンガム・プライベートバリューで代表を務める鳥井洋一氏である。
同社のニュースリリースでは、「当社が取引等の関係を持つことはふさわしくない」といい、野副氏解任の場では、監査役が野副氏に対し、「ファンドには反社会的勢力がついている」と、明言したという。
しかし、結論からいえば、外資を渡り歩いて金融技術を磨き、金融界でその名を知られた房、鳥井の両氏は「反社」ではない。
「レピュテーションリスクはある」
房氏は、UBS信託銀行会長、クレディスイスファーストボストン証券投資銀行本部長を経て、04年、サンドリンガムを設立した。
一方、鳥井氏は、日興証券、日興ソロモンスミスバーニー、クレディスイスファーストボストン証券、みずほ証券を経てサンドリンガム・プライベートバリューの代表となり、同時期、IT関連企業のYOZANのCFO(最高財務責任者)を務めている。
2人が「反社」ではないことは、野副氏解任の時にはわかっていたはずだ。
「サンドリンガムについて調べて欲しい」という富士通サイドの依頼を受けた大手証券幹部は、昨年5月の段階で、秋草相談役や法務本部長などに、こう報告している。
「武富士、YOZANに関係しているのでレピュテーションリスク(評価リスク=悪い評判が広がることによる危険)はある。付き合わないほうがいい」
つまり証券幹部は、武井保雄元会長が盗聴で刑事罰を受けるような消費者金融の武富士、ビジネスモデルが壊れて「増資マフィア」と呼ばれる人間が群がるYOZANのような会社に関与するサンドリンガムとは付き合わない方がいいといったのであり、「反社」と名指ししたわけではない。
房氏が、武富士に深く関与したのは事実である。房氏のもう一人のパートナーに川島亮太郎氏がいる。住友銀行、中央クーパースアンドブライトン国際税務事務所などを経て、95年武富士に入社、財務部次長を務め、99年に退社している。この頃、房氏はUBS信託銀行にいて武井氏のプライベートバンカーとして活躍した。
武井氏をめぐる騒動のなかに、1600億円の「贈与税逃れ」に関する裁判がある。武井夫妻は、オランダに投資会社を設立、武富士株をそこに移したうえで、その投資会社の株を香港在住の長男・俊樹氏に贈与した。「外―外」の贈与なので合法と判断したわけだが、裁判所は俊樹氏の居住実態が日本にあるとして課税処分をした。
このスキームに房、川島の両氏は関わった。2人はともに、00年クレディスイスファーストボストンに移籍、そこで一緒になったのが鳥井氏だった。
川島氏は同社でM&A本部長を務めたものの04年に退社、再び武富士に戻って取締役兼教務執行役員となり、05年に退社、房氏の仕事を手伝うようになって、サンドリンガムが傘下に置いていた旧ジャレコ・ホールディングス(現EMCOMホールディングス)で代表を務めていた。
刑事事件を引き起こす武井氏の品格や、節税スキームを原因に、房氏やサンドリンガムを批判するのはおかしい。ファンドは投資家のものであり、プライベートバンカーは顧客のために最善を尽くすのが務めである。
支払う税金は少しでも安いほうがいいと、サンドリンガムは拠点をタックスヘイブン(租税回避地)のケイマン島に置いているし、「外―外」の認められた租税回避スキームを用意した。むろん、武井氏が暴力団や企業舎弟といった「反社」ならともかく、上場企業のオーナーである。金融マンが顧客の人柄や性格まで気にしていたら務まらない。
YOZANにしてもそうだ。同社が多用するMSCB(修正条項付き転換社債)は、ライブドアがニッポン放送を買収する際に使って知られるようになったマネーゲーム的手法だ。証券界では発行会社と証券会社の欲望は満たしても、株主価値の向上につながらず、逆に1株当たりの価値を落とすと評判が悪い。
だが、違法ではなく、金融機関に見捨てられた上場企業の最後の資金調達手段である。そうした会社のCFOを鳥井氏が務めたとしても、レピュテーションリスクは負うとしても、「反社」ではない。
金融商品取引法違反の疑いも
そもそも会社は株主のものという観点から立てば、前社長の馘首という重要事実を、株主にも投資家にも知らせず、それどころか「病気のため」とウソのIR(投資家向け広報)をしていたとしたら、秋草氏ら経営陣は、偽計取引につながる金融商品取引法違反の疑いがある。
たとえ刑事罰にはあたらなくとも、相談役が中心となって偽の情報で社長を解任したとすれば、重大な会社統治の欠落で、株主代表訴訟を起こされても仕方がない。
一方、ファンドが投資家のものだとすれば、各国の税法、商法上の歪みを利用、利益を最大限にもたらすスキームを選択、実行するのは悪いことではない。もちろんMSCBを多用することからくるレピュテーションリスクはある。だがそれは、「投資家の為」という存在目的の前で解消される。
では、ファンドがマネーロンダリング機能を含めて「反社」に利用されることはないか。
疑わしきはある。例えば、川島氏が代表を務めた旧ジャレコ・ホールディングスである。一時、社長に倉田暁之氏が就任していた。この倉田氏の人脈に、旧グッドウィル・グループ(GWG)に絡むM&Aで100億円の利益をあげ、「謎の投資家」と呼ばれる緋田将士氏がいる。
倉田氏は、緋田氏の所有株を処理する過程で総会屋とつきあったし、GWG関連銘柄となった東邦グローバルアソシエイツ(GA)で社外監査役を務めていた。
倉田氏は「反社」ではない。ただ、GWGに絡むM&Aは脱税事件として東京地検特捜部が捜査している。その調べは東邦GAにまで及んでいる。
ファンドの「えげつなく儲ける」という"使命"は、時に行き過ぎを生む。したがってトコトン調べれば、武井氏の先や倉田氏の先に「反社」が登場しよう。だからといって、ファンドが「反社」なのではない。
むしろ、その危うさを利用した富士通経営陣の態度は、自らの行った「反市場的行為」と合わせ、十分に罪深いのである。



