「自分のためだけに、こんなことをするわけないじゃないですか!」
3月6日早朝、富士通の前社長、野副州旦氏(のぞえ・くにあき/62歳)は本誌の直撃取材に対し、声を震わせながらこう語った。
古巣との騒動が発覚した週末、自宅近くで犬の散歩をする野副氏。富士通再建の立て役者の一人と言われる〔PHOTO〕岡内正敏 富士通で前代未聞のお家騒動が勃発した。昨年9月に辞任した野副前社長が、辞任から5ヵ月経った今年2月に、自身の社長辞任の取り消しを求める内容証明を富士通に送りつけていたことが発覚したのだ。
富士通は東証一部上場企業。社長の進退は取締役会の承認を経て正式決定されていたはずだ。
しかしながら野副氏は、「密室で詐欺と脅迫により、事実上解任された」と訴え、社長辞任の取り消しを求めたのである。
古巣相手にケンカを始めた野副氏とは、いったいどのような人物なのか。全国紙経済部デスクが解説する。
「野副氏は'08年6月に社長に就任するや、ハードディスク事業を東芝へ、磁気ディスク事業を昭和電工に売却するなど、大胆な構造改革を手がけました。
その改革は、短期間で富士通を高収益体制の会社へ変えたと評価が高かったのですが、昨年9月に突然、『病気療養』という理由で辞任したのです。
しかし、野副氏が病気だった気配はなく、野副氏本人が辞任について語ることもなかったため、『内部抗争が原因ではないか』などと当時から様々な憶測を呼んでいました」
今回、野副氏が富士通側に突きつけた主張は下記の通りだ―。
昨年9月25日、取締役会が開かれる30分前に野副氏は、会議室に呼び出された。そこにいたのは、同社の最高実力者と言われている秋草直之取締役相談役、間塚道義会長、顧問弁護士ら数名。そこで秋草相談役らは、当時、野副氏が進めていた子会社「ニフティ」の売却問題について追及し始めた。
秋草相談役らは、この交渉に関係していたAファンドが『反社会的勢力であり、付き合いがあるのは問題だ』と指摘。野副氏は「Aファンドは反社会的勢力ではないし、親しい関係ではない」と反論したが、1時間にわたり「辞任しないと、会社が上場廃止になる」と脅されたため、渋々辞任に応じたという。
野副氏の主張が事実ならば、社長の辞任という重大事項が取締役会の意思決定を経ずに密室で決められたということになる。それは上場企業としてのコーポレートガバナンスが機能していなかったことになる。
それにしても野副氏はなぜ、辞任から5ヵ月も経過した今、造反したのか。本誌の直撃に「詳しくは語れない」と話した野副氏に代わって、代理人を務める畑敬弁護士がその真意について話した。
「野副氏が求めているのは、経営への復帰ではなく、名誉回復です。辞任後、社内では『野副は反社会的勢力と付き合いがあった』と噂されています。しかし、それが何の根拠もないものだということが今年2月に判明した。
だからこのタイミングになったのです。富士通もそのファンドについて調査したと主張していますが、是非その報告書を見せて欲しい。そもそもそのファンドの代表者は、富士通の代々の経営者たちも過去に付き合いのあった人物です。野副氏の具体的な要望は、臨時取締役会を開催し、弁明の機会を設けてもらうことです。
それが実現すれば、富士通のコーポレートガバナンス機能の回復にもつながるからです」
畑弁護士は、この先、訴訟に発展する可能性を否定はしなかった。
一方、富士通側は、野副氏の造反が明らかになった直後の3月6日、「信頼関係が損なわれた」という理由で野副氏を相談役から解任するとともに、「一部報道について」という文書を自社HP上に公表した。
それによれば、富士通は辞任前にも野副氏に対し、Aファンドとの付き合いについて注意していたが(畑弁護士は「そのような事実はない」と否定)、野副氏が改めなかったため、話し合いの場を持ち、本人が納得した上で正当な手続きを経て辞任に至った―としている。
また、富士通は同書で、野副氏の辞任の理由を、昨年正式に発表していた「病気療養のため」から、「取引などの関係を持つことはふさわしくない企業と関係を続けたため」と訂正した。これはまさに、売られたケンカを買った格好である。
富士通は本誌の取材に対し、「今後、この件について取締役会を開催する予定はありません」(広報IR室)と、野副氏の要望を受け入れるつもりはないことを明らかにした。ある富士通社員は、今回の騒動についてこう話す。
「元々、野副さんは秋草さんの後ろ盾で社長になれた人だったが、いつの間にか、秋草さんの意のままに動かなくなった。特にニフティは秋草さんたちが手がけ、育てた事業であり、野副さんが画策した売却が気に食わなかったのでしょう」
ジャーナリストの須田慎一郎氏は、今回の富士通の対応について首を傾げる。
「野副氏は、富士通で事実上の院政を敷いていると言われる秋草相談役と刺し違える覚悟なのでしょう。それより問題なのは、昨年の野副社長の辞任理由について、『野副前社長は反社会的勢力と付き合いがあったから』と、訂正をしたことです。これは昨年の辞任理由が虚偽の発表だったことを自ら認めたようなもの。富士通の今回の対応は、上場企業にあるまじき行為と言えるでしょう」
富士通と野副氏の対立が訴訟に発展し、長期化するのではないかと、投資家の間では富士通の経営を不安視する声も出始めている。富士通はお家騒動で揺らいだ信用をどのような形で取り戻すのか。



