週刊現代経済の死角

2012年08月29日(水) 週刊現代

創業100周年で経営危機、倒産危険度指数が上昇中 シャープは大丈夫なのか 万が一のとき、日本経済はどうなる?

サプライズ人事で社長に就任した奥田氏。得意の「現場主義」をいかせるか〔PHOTO〕gettyimages

 世界を代表するテレビメーカーが、危機に瀕している。工場や首都圏の営業拠点を売却するリストラ策に走っているが、新しい「稼ぎ頭」はまだ見つからない。残された時間は、多くない。

ハゲタカが狙っている

 莫大な資金を元手にコンマ秒単位のトレードを繰り広げ、億単位の儲けを一瞬のうちに稼ぎ出す巨大外資。彼らが日本の電機メーカー・シャープに密かに「売り」を仕掛けている。

 東京証券取引所が発表する空売り残高報告書に、その〝証拠〟がある。ドイツ銀行、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスが、シャープ株を大量に空売りしていることが直近の報告書に記載されているのだ。

 3社の空売り分を合わせるとシャープの発行済み株式数の3・7%以上で、〝裏大株主〟といっていいほどの大量の売り。外資各社はシャープの株が下がるほど儲けが膨らむことになる。彼らはいま、シャープの株価が下がるほうに〝ベット(賭け)〟している。

 それだけではない。さらにヤバい事態が進行している。値が高いほど〝倒産危険度〟が高くなるといわれるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の数値を見ると、シャープのそれが信じられないほどの急上昇を描いている。

「シャープのCDSは8月頭くらいから急騰し、一時は1600bp(ベーシス・ポイント)をつけました。いまは多少落ち着いて1200bp程度ですが、それでも多くの企業のCDSは200bp以下、ソニーなどが300bp程度なのに比べれば異常な数字といえます。これを見る限り、市場はシャープの破綻を連想し始めているともいえるでしょう。半導体大手のエルピーダメモリが破綻した際も直前にCDSが大幅に上昇しました」(フィスコのアナリストである小川佳紀氏)

 株価も下落を始めた。8月3日の東京株式市場で売り浴びせられると、〝ボーダー〟の200円を割り込み、一時ストップ安の187円まで値を下げたのだ。ちなみにシャープ株が200円を割るのは1975年1月以来。8月15日には再び164円まで急落下するなど、予断を許さない状況が続いている。

 一体、シャープに何が起きているのか。

 本誌はシャープの元副社長、常務、取締役などの幹部OBを中心に複数のシャープ関係者に取材を試みたが、一様に口が重い。「私に語る資格はない」と言うばかりでそれ以上一言も語ろうとしない者もいれば、露骨に居留守を使う者もいた。なにやら不穏な空気がシャープに漂っている。

「一刻の猶予も許されない」

 現在、シャープを率いるのは今年4月に抜擢された奥田隆司氏(59歳)。就任早々経営戦略を発表し、「中国での携帯電話事業の展開」「ロボット家電で新しい市場の開拓」などの改革案を打ち出したが、いまや「破綻説」が出るまで追い詰められている。

 8月2日に行われた四半期決算発表会見では、「業績悪化に歯止めがかからない」「一刻の猶予も許されない」と奥田社長は苦しい胸のうちを率直に漏らした。

 この日発表されたシャープの2012年4~6月期決算は市場関係者の予測を超えるひどい内容で、売上高は前年同期比で約3割減、最終損益にいたっては1384億円の赤字(前年同期は492億円の赤字)。同時に奥田社長は'13年3月期の連結業績予想を2500億円の赤字になると大幅に下方修正したうえ、従業員の約1割にあたる5000人規模の人員削減を行うことも明かした。

「4月末に業績予想を300億円の赤字としていたから、たった3ヵ月で2000億円が消えてなくなったということです。さらに同社が大規模な人員削減を断行するのも、無配に転じるのも実に62年ぶりです」(全国紙経済部記者)

 奥田社長自身が「今リストラをやらないと将来の成長はない」と言うように、聖域にメスを入れなければいけないほどの危機にある。

 数年前までは『アクオス』ブランドで液晶テレビを売りに売りまくり、「液晶一本足打法」で決算も絶好調だった。勢いに乗って巨額資金をつぎ込んで最新鋭の液晶パネル製造工場も作ったが、工場が完成した頃には液晶テレビの世界的な価格暴落が起きていた。

 気づけば売っても売っても儲からない製品と巨大な工場、そして借金だけが残った。今春、最新鋭工場の稼働率はついに30%にまで落ち、工場労働者たちの仕事は激減した。稼働率が3割ということは、単純計算で10日のうち7日が休みという異常事態である。

 売り上げ減に歯止めがかからない状況になっており、今年4~6月期のテレビ販売台数は昨年比でなんと半減。かつて世界一を誇った技術力でも、韓国・中国勢に遅れを取っている。

「いまやシャープの液晶テレビは、海外で韓国サムスン製品の3割引きでしか売れません。過剰設備、過剰人員、過剰負債の三重苦に悩まされている。経営者たちが現実を直視せず、楽観にすぎたツケが回ってきているのです」(早稲田大学教授の遠藤功氏)

 追い詰められたシャープは資本提携に活路を見出そうとする。今年3月に台湾の巨大企業・鴻海精密工業との資本・業務提携を発表。これによって資本増強したうえ、製品を鴻海に引き取ってもらうことで工場の稼働率を上げようとしたのだ。

 もはや「技術流出」などなりふりかまっていられないという決断だった。この提携をまとめたのは、町田勝彦・前会長と郭台銘・董事長の「トップ交渉」だったという。

 これで一息ついたと思われたが、8月になって不穏な空気が立ち込める。

 鴻海との提携の主な内容は

「(1)鴻海がシャープの株式を一株550円で約9・9%取得する」
「(2)最新鋭のシャープ堺工場に鴻海グループトップの郭台銘氏が個人で660億円出資し、共同運営とする」
「(3)堺工場で作る液晶パネルの半分を鴻海が引き取る」というもの。


(2)についてはすでに出資が完了、(3)もこの7月からスタートした模様だが、(1)については条件見直し交渉に入っているのだ。

「出資金は2013年3月までに振り込むことになっていたが、いまだ一円も支払われていない。提携が発表された3月には500円台だった株価が100円台に落ちたことで、条件見直しが必至になったからです」(前出・記者)

決断が遅すぎる!

 さらに事態を混乱させたのは、郭氏側が8月3日に「出資条件の見直しで合意した」と公表したのに対して、シャープ側が「そうした事実はない」とこれを否定したこと。これで「交渉決裂か」とマーケットに疑心暗鬼が走り、株の投げ売りを助長した。

 どうしてシャープは否定したのか、事の真相は---。テレビや新聞はほとんど報じていないが、実は郭氏自身が地元メディアに赤裸々に語っている。台北科技市場研究(TMR)代表の大槻智洋氏がこう言う。

「郭氏が台湾のニュース専門チャンネル『東森新聞』や台湾紙『聯合晩報』の取材に対して語った内容によれば、8月3日にシャープの片山幹雄会長、町田前会長など幹部20名ほどが参加する会議が都内で開かれ、郭氏も出席。シャープの町田前会長から『1~2年後に(出資する際の)株価を改めて算定して、投資してもよい』という話が出たため、郭氏は条件見直しに関する公告をその日のうちに台湾証券取引所に出した。

 しかし、シャープの奥田社長は都合がつかず大阪にいたのでその会議に出席していなかった。公告発表は同日17時過ぎで、シャープの幹部たちが大阪に戻ったのは夜10時過ぎ。公告が出るまでに奥田氏に連絡がいかなかった可能性がある。シャープ側が否定した背景にはそういう事情があったというのです」

 郭氏の発言が事の真相だとすれば、シャープの情報伝達がうまくいっていなかったことが一連の騒動の舞台裏ということになる。郭氏はそれでも「共存共栄の関係を築ける」と提携に前向きな発言をしているというが、心中は穏やかではないはずだ。前出・大槻氏が続けて言う。

「郭氏は日本人を好きだと公言する親日家で、いままでFoxconn(鴻海のグローバル名)はシャープに対して特別扱いといえるほど友好的な態度で交渉に臨んできました。今回の提携においては、シャープが持つ研究開発や製品企画など〝上流工程〟の能力を吸収したいという思いも強く持っているが、シャープ側から相応の〝見返り〟が一向に出てこない。たとえばFoxconnはテレビ事業だけでなく、太陽電池ビジネスでもシャープの技術を活かした新商品を作りたいと考えているのに、シャープ側はどんな協力関係を築いていくのかの意思決定ができていません。

 Foxconnの商品開発担当者が私に『シャープ担当にはなりたくない』と言うほど、シャープ側の対応は遅い。今後もシャープが具体的な〝見返り〟を提示できないとすれば、提携関係が解消になる可能性も出てくる」

 いまや世界の名だたる企業はトップ外交を繰り広げ、即断即決でビジネスを進めている。プライベートジェットで世界を飛び回る郭氏は、シャープのスピード感のなさに苛立ちを強めているに違いない。

3万人の雇用は守られるのか

 シャープの奥田社長は今後の「経営改善対策」として「大口顧客受注を増やして工場の稼働率を上げる」「本社をスリム化して経営スピードを速める」などと掲げているが、「甘い需要予測でマーケットを欺いてきた経営幹部の言葉はもう信じない」(外資系証券幹部)と市場は売り攻勢を止めようとしない。今度は大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズがシャープの長期格付けをトリプルBに引き下げ、同ムーディーズ・ジャパンも短期格付けを1段階引き下げた。

ムーディーズが出したレポートを読んで仰天しました。シャープの短期債務はこの3ヵ月間で約1000億円も増えて7000億円にまで膨らんでいます。さらに2013年9月に2000億円の社債の償還が必要になるが、この6月末時点の現預金が2177億円しかないという。

 

 逐次投資を重ねて遅れを取った挙げ句に、乾坤一擲の巨額投資が失敗。その結果として資金繰りが厳しくなっているというのは、まさに日本経済の縮図のような財務状況といえる。これでは新しいことを始めようにもカネがなく、それがまたビジネス上で遅れを取るという悪循環に嵌りかねない」(ビジネス・ブレークスルー大学教授の田代秀敏氏)

 現実味を帯びてきたシャープの「敗戦」。「いまシャープに必要なのは三つのことだ」と言うのはBNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈氏。

「一つはどんな条件になっても鴻海との提携をまとめること。二つ目には市場が納得するリストラ策を発表すること。三つ目はメインバンクを中心にしたバックアップ体制が明らかになること。メインバンクはみずほと三菱東京UFJで、彼らは1000億円規模の資金をシャープに入れており、これが不良債権化するのは彼らにとっても好ましくないはず。この三つがクリアできれば、シャープがいますぐ破綻する理由は見当たらない」

 逆に言えば、一つでも打つ手が遅れれば、いよいよ待ったなしになるということだ。しかも仮にこれらが実現できたとしても、時間稼ぎの〝対症療法〟でしかない。中国などの新興市場を新たに開拓したり、価格競争に陥らない新商品でヒットを飛ばすなど、「新たな稼ぎ頭」を作れなければ、危機から脱することはできないからだ。

「新興市場開拓や新商品開発に失敗すれば、中国企業などへ身売りするほかないでしょう。そうなった場合、乗り込んできた外国人社長がドラスティックなリストラを始めるのは確実で、工場近辺の地方経済も地盤沈下する。日本のハイテクメーカーの敗戦は心理的にも多大な影響がある。NECやソニーも他人事ではないでしょう。日産にルノーからカルロス・ゴーンが来て大鉈を振るったように、少なからぬショックが日本経済に走ることになる」(前出・外資系証券幹部)

 仮にシャープが万が一のことになった場合、何が起こるのか。みずほや三菱東京にとって1000億円の融資が不良債権化するのは痛手ではあっても、銀行経営の危機に直結する額ではない。会社更生法の適用となれば、国内従業員3万人が全員解雇されることもない。日本経済に与える最も大きな影響は、「あのシャープが」という心理的ショックとなるだろう。

 創業者・早川徳次が東京市本所区(現・江東区)の下町で金属加工業を始めたのが1912年。今年は創業100周年を華々しく飾るはずだったのに、見てきたような経営危機に堕ちてしまった。

 ただ企業のDNAはまだ死んでいないはずだ。家庭用ビデオカメラ業界に旋風を巻き起こした『液晶ビューカム』、ビジネスマンが店頭に殺到して大ヒット商品となった『ザウルス』、世界の亀山モデルと絶賛された『アクオス』---。そのヒット史を振り返れば、世を驚かせ人々をワクワクさせた商品群が並ぶ。ソニー、パナソニックという二大巨頭に規模こそ劣れど、キラリと光る存在感を放ってきたのがシャープだった。

 いま、シャープの起死回生の一手に、日本中が注目している。

「週刊現代」2012年9月1日号より