田村 耕太郎田村耕太郎「シンガポール発 ASEAN6億人市場が世界を動かす!」

2012年06月18日(月) 田村 耕太郎

日本人の英語下手の原因は発音教育の軽視にある。日本の発音教育改革に挑むイフ学語学院の「中野メソッド」

累計250名のハーバード大合格者を出した英語教育とは・・・〔PHOTO〕gettyimages

「日本人の英語下手の本当の原因は発音教育の軽視にある」

 こう語るのは私のアメリカ留学をサポートをしてくださった大手留学予備校「イフ学語学院」の中野正夫学院長である。今回は英語教育の中でも発音教育について少し掘り下げてみたい。

 イフ学語学院の実績は目を見張るものがある。海外留学指導実績は日本最長33年。ハーバード大学合格者数は最多の累計250名。この予備校の設立者、中野正夫氏の経歴もユニークだ。鹿児島ラサール中学高校卒業後、東大や早慶ではなく、中野氏が目指したのはアメリカ留学。今でこそラサールや灘高のような進学校で「東大よりハーバード」という気運は静かに盛り上がりつつあるが、当時は「東大一直線」の時代である。非常に珍しがられたのではないか。

 中野氏は高校卒業後、単身渡米。セントスカラスティカ大学で心理学、ミネソタ大学で数学を学び、サンフランシスコ州立大学では都市学を専攻して卒業。ミネソタ大学在学中よりイフ外語学院設立準備を始め、サンフランシスコ州立大学在学中にイフ外語学院を設立してしまった起業家である。

 日本の発音教育のひどさを嘆く中野学院長に率直に聞いてみた。

発音は国際社会における最重要ポイント

---日本の英語教育では発音がますます軽視されているように感じます。訛りやアクセントを気にせず話そう、との気運です。いかが思われますか?

イフ外語学院/中野学院長

 初心者はそれで充分だと思います。しかし、英語を教える立場になろうという人は当然、そうはいかないでしょう。また、国家や企業の代表として、英語で話す機会のある方も、発音は自分だけの問題ではなく国家や企業の品格を判定されるは要素である、ということを認識すべきです。

 そもそも日本語は「50音」というくらい、発音のバリエーションが少なく、日本人は複雑な音を聞き分けて話す能力が劣っています。インド人の名前を見てもらえばわかるように、インドでは子音が複雑に混ざり合った音が無数にあります。だからインド人は英語くらいの発音バリエーションならすぐに対応してしまいます。

 われわれはインド英語を訛りの強い英語だと思っていますが、われわれが気づいていないだけで、彼らの方がはるかに正確な音に近い発音を行っています。中国語も韓国語も発音のバリエーションが日本語より複雑で多様です。だから彼らの方が聞き分け能力や発音能力が高いのです。

---なぜ発音が大事なのでしょう。スピーキングだけの問題でしょうか?

 簡単なことです。日本にいる外国人で日本語が流暢な人に出会うと、感服しますよね。また、尊敬の念と共に、そこまで日本語に精通してくれた努力に対して感謝の念さえ覚えます。他国言語の発音を極めるということは、その国の文化に対する最大のリスぺクトですよ。

 発音が下手であるということは、その国の言語にも文化にもさほど興味がなく、努力もしていないということです。実際に努力していませんけれどね。そして海外で商売をする人や、国家を代表する人の発音が下手ならば、最初から、他国の文化への真摯な敬意を払わない相手だと判定されるわけです。多くの日本人は実際に大きな努力を伴うほど他国文化に敬意を払っていないので、仕方ないのかもしれませんが。

 発音は、国際社会において、その人物の文化、教育、知性、見識、教養の全てが瞬時に判断されてしまう最重要ポイントだとの認識が必要だと思っています。このように考える日本人は私だけかもしれませんが。

 もう一つ大事なのは、正確な発音ができない言葉は聞き取れないということです。日本人がヒアリングを苦手とする原因は、発音の軽視にあると思います。正しい発音で話せるようになれば、自然と聴き取り能力も向上してくるのです。

発音の訓練に興味を持っていない英語教師

---ほんの10数年前までは日本といい勝負だった中国・韓国の英語力が急上昇しています。なにが日本との差でしょうか?

 それは、中国も韓国も社会体制として、国際化に邁進しているからです。日本はすっかり国際市場を奪われましたね。中国や韓国では、発音力が伴うコミュニケーション力が最重要として教育が進められています。日本では英語教師自身が発音軽視ですから、人材面で勝てるわけがないですね。

 発音が通じていなことさえ判らない日本人が多いわけですから、国際ビジネスの最前線でしのぎを削るのは不可能に近いのです。圧倒的な技術力があれば勝てるかもしれませんが、技術が平準化した分野では連敗に次ぐ連敗です。何とか通じるだけで、発音がいい加減な英語は、実はネイティブにバカにされています。少なくとも敬意は持たれていないでしょう。

「綺麗な英語を話せても、内容がないスピーチは受けない」という人がいますが、シリコンバレーで起業した私の教え子が「国際会議では発音が上手い奴がスターになれる。発音が上手いだけで華になれる」といっています。公の場でこそ「発音」は大事なのです。

---日本の発音教育が低迷している理由はなんでしょうか?

 ずばり、英語教師が発音の訓練に興味を持っていないこと。それでも何とかなる大学受験体制です。

 逆に帰国子女やネイティブによる教育も今ひとつです。いくら英語の発音が上手くても、日本語の正確な発音ができません。なので、日本語発音のどこをどう直すべきか彼らにはわからないし、日本人にそこを教えることもできません。

 私は日本の高校を出てから直接アメリカの学部に入りました。相部屋の寮で、ネイティブのルームメイトたちが本気で話していることが全くわかりませんでした。それから40年近くかけて、純日本人発音を持つものが、ネイティブの発音を手に入れるにはどうすればよいのかひたすら考えて分析し、ノウハウを積み重ねてきました。こういう経験をもとに、発音の大切さに気が付いてしっかりと研究してきた人がいないのです。

---発音教育に力を入れておられる理由は何ですか?

 発音が英語の中で最重要と考え、それをネイティブ並みに上達させることを実践している方が、私以外にほとんどいないからです。日本人にとって最大の難関であるスピーキングとヒアリングを同時に向上させ、大事な国際舞台でも通じる英語にするには、まず発音を矯正するしかないのです。

日本人の発音は明治維新以来進歩していない

---中野先生メソッドがユニークな点はどこですか?

イフ外語学院/中野学院長

 音を聞いただけでは、その音を発音できるようにはなりません。「聞き流すだけ~」という教材もありますが、それはそれで効果はあるのでしょうが、本格的に矯正するためにはもっときめ細かい対応をコツコツとやっていかねばなりません。

 私のメソッドの特色は、個人別に、その方の訛りの原因になっている舌の位置の設定、舌の形状の設定、顎の位置の設定を数ミリ単位で修正し、さらに舌と顎の動作とスピードの修正を、本来口内で見えない部分までアドバイスする点にあります。個々人の音が、何が原因で訛っているのか、瞬時に判定し、瞬時に修正していきます。

---中野メソッドの広がりをどう感じますか? どういう戦略で広げていかれますか?

 私は、ビジネスマンではなく、むしろクリエイターですので、実際の今の授業の一部をスマホアプリとしてリリースすることぐらいしか念頭にないですね。これはすでに着手しています。日本人の発音は明治維新の開国以来、何ら進歩していません。しかし私の生徒は普通にネイティブ並みの発音になります。このメソッドが多くの日本人に広がらないのであれば、それが日本の運命としか言いようがないですね。

---海外では日本人の英語発音はどのように受け止められているのでしょうか?

 努力して聞いてあげなければならない、という憐みの心ですね。それと、下手だと言って傷つけてはまずい、という慈悲の心で見守られています。ありがたいことです。発音の上手い中国人や韓国人には、日本人に対する憐みの代わりに、敬意を払っています。

 

「インド英語の方がはるかに正確な発音をしていて、それを聞き分けられないほど日本人の"英語耳"が未熟である」との意見には「ハッ」とさせられた。私も海外で「訛りが強く聞こえるインド英語は英米人ネイティブに聞き返されることは殆どなく、逆にきれいな発音をしたつもりの日本人英語の方が『今なんて言った?』と聞き返されることが多い」ことを思い出した。

 複雑な発音を持つ母国語に鍛えられた耳を持つインド人に比して、われわれ日本人は外国語の習得においてヒアリングでもスピーキングでもハンディを負っている。「発音できない言葉は聞き取れない」との指摘もストンと腑に落ちた。純粋日本人として、日本の留学生がまだ珍しかった頃、正規の学部入学を経て、ネイティブたちに囲まれながら発音の重要さに気づき、その後40年近く徹底して発音を矯正してきた中野先生の実績は、まさに"日本一"と言っても過言ではないと思う。

 発音教育の改革を目指す中野先生の挑戦が注目される。それとともに我々も発音矯正にもっと労力を注ぎ込むべきではなかろうか。