週刊現代経済の死角

2012年02月28日(火) 週刊現代

受給者急増中!偽装離婚に不正受給、年金より生活保護の方がおいしい「生活保護大国」ニッポンの大爆発

 現在、総額3兆7000億円にのぼる生活保護費は、あと20年もすれば20兆円近くに達する可能性があるという。年金より先に、日本の財政は生活保護によって破綻することになるかもしれない。

月に25万円

 年収は1000万円を超え、ワゴン車2台を保有。全国を飛び回って商売をするなど、体力も気力も充実している---平均以上の生活を送るこの男には、さらに月30万円近い副収入があった。生活保護である。

 今月7日、大阪府警は約6年半に亘り生活保護費約3200万円を不正受給していたとして、49歳の露天商の男を逮捕した。

「男は全国の祭りやイベントを飛び回って、月100万円以上を稼ぎ出しとった。それやのに、保健福祉センターを訪れて『俺は病気で働けないんや』とウソをついて生活保護を受けていた。容疑は認めたが、『もらえるものはなんでももらえ、と思っていた』と開きなおっとるもんやから、呆れるばかりや」(大阪府警関係者)

 高齢化の急速な進行、ワーキングプアの増加、そして不正受給の増加---。いま、生活保護制度は爆発寸前の段階にあり、年金制度と同様、いつ破綻してもおかしくない状態にある。

 昨年11月、生活保護を受給している人の数が全国で207万人を突破し、過去最多を更新した。受給世帯数も150万7940世帯と、同じく過去最多となっている。厚労省の官僚が、その背景を説明する。

「昨年7月時点の受給者の数は205万人だったのですが、それがわずか4ヵ月で2万人も増えた。東日本大震災の影響で失業した方々が、生活保護を一斉に申請したこともありますが、根本的にはリーマンショック以来続く不景気で非正規雇用者が増加したこと、また、年金を受け取れない、あるいは年金だけでは暮らせない高齢者が増加したことが、大きな要因です」

 受給者の急増に伴い、国家と地方自治体の予算に占める生活保護費の割合も大きくなる一方だ。

 '10年度に支払われた生活保護費の総額は3兆3000億円だったが、政府は'12年度の当初予算案で、「生活保護費支給のために、約3兆7000億円の予算が必要」と提示している。2年で4000億円の増加である。

 生活保護の問題に取り組む、民主党の梅村聡参議院議員が解説する。

「現状で3兆円超えというのも恐ろしい数字ですが、日本では、無年金者、国民年金しか受け取れない高齢者、失業者がさらに増えていくことはほぼ確実です」

 そもそも生活保護とは、「生活に困窮する人に対し、健康で文化的な最低限の生活を保障する」ために支給されるものである。

 自治体によって定められている「最低生活費」よりも収入が低い、あるいはまったく収入がない場合、その最低生活費を支給してもらえる、というものだ。

 たとえば東京都の場合、一人暮らしなら最低生活費は15万円前後。夫婦と子どもの3人暮らしの場合、25万円前後が支給されることになる。

 生活保護を申請するにあたり、「預貯金は最低生活費の半分まで」「車は原則的に認められない」「ローンが完済していない不動産は売却すること」「生命保険は現金化すること」などの条件があるが、これさえクリアーしてしまえば、ほとんどの人が生活保護を受給できる。本当に生活が苦しい人の「最後のセーフティネット」として、生活保護は機能してきた。

ぬけ穴だらけ

 だが、長引く不景気と高齢化により、生活保護というシステムに軋みが生じているのだ。

「いまの日本では身寄りのない単身高齢者の割合が増えてきていますが、こうした人たちは年金が少ないため、生活保護に頼らざるを得ない。さらに就職氷河期世代に限らず、現在労働者の4割が非正規労働者となっています。彼らのうちの何割かが生活保護を受給する可能性を考慮すると、年金と同じく生活保護制度も破綻することになるでしょうね」(BRICs経済研究所・門倉貴史代表)

 現に、地方自治体レベルでは、すでに生活保護費に財政が圧迫され、「このままではわが町がつぶれてしまう」と悲鳴を上げているところが現れている。地方自治に詳しい、静岡大学の川瀬憲子教授が説明する。

「静岡県内をみると、特に下田、伊豆、熱海の生活保護率が上昇しています。近年の不況に加えて、昨年の東日本大震災の影響で観光客が激減し、職を失った観光業者が急増したことが原因です。伊東市の場合、市財政の約4割弱を民生費(生活保護費も含まれる)が占めています」

 今後、生活保護受給者はどれくらいまで増え、どれくらいまで支給額は増えるのか。総合研究開発機構(NIRA)は、こんな衝撃的な試算を公開している。

〈就職氷河期が社会に与える影響の大きさについて、老後の生活保護給付の潜在的支出額を試算した。仮に就職氷河期に増加した、非正規雇用者及び無業者が、高齢期に生活保護を受給すると、追加的に必要な費用は累計で20兆円程度必要となる〉

 現在、年金や医療などを含めた国の社会保障関係費は約29兆円。それが、就職氷河期世代が60代を迎える20~30年後には、生活保護費だけで20兆円程度必要となるかもしれない、というのだ。

 支給額を減らすのか、支給条件を厳しくするのか。早急に対策を取らねばならないのだが、同時に進めなければならないのが、不正受給の取り締まりである。

 '09年度に不正受給と認定された件数は全国で約1万9700件、総額は100億円を超えた。生活保護の総額3兆円超と比較すると少なく見えるが、発覚していないケースが数多くあることと、その10年前の'99年度は4665件(約33億円)であったことを考えると、生活保護制度の「穴」が急速に拡大していることがわかるだろう。

 冒頭では極端な不正受給のケースを紹介したが、2月3日には45歳の男性が、収入がないと偽って約176万円の生活保護費をだまし取ったとして、高知県警に逮捕されている。不正受給のケースは、枚挙に暇がない。

審査が緩い自治体はどこ?

 最近では「偽装離婚」をしてまで、生活保護費を受け取るケースも頻発しているという。東京都内で活動するケースワーカーが解説する。

「形式上離婚をして、妻あるいは夫が無職で蓄えもないとなれば、生活保護を受け取ることができるので、離婚する必然性がないのに、生活保護目当てで離婚する人たちが増えていますね。

 さらに、生活保護は子どもの分も支給されますから、生活保護を受け取るほうに子どもを渡して、少しでも多く生活保護を貰おうと考える人もいます。7人家族の夫婦が偽装離婚して、5人の子どもを引き取った妻が月30万円以上の生活保護費を受け取っていた、なんていうケースもありました」

 また、路上生活者や低所得者に「生活保護がもらえるから」と声を掛けて施設に囲い込み、支給された生活保護費をピンハネする「貧困ビジネス」も跋扈している。

 生活保護が必要ないのに、もらえるものはもらっておけ。そんな考えが日本に蔓延しつつある。不正受給が増えれば増えるほど、国の予算は圧迫され、制度が破綻し、本当に生活に困っている人に生活保護費が渡せなくなるという状況も想定されるのだ。

 また、近年ではネット上で、「働きたくないので、ナマポ(生活保護を表すネット用語)の受け取り方教えてください」「ナマポの審査が緩い自治体はどこ?」などの情報交換がさかんになされている。

 不正受給ではないが、働ける環境があるのに、体調などを偽って生活保護を受給するモラルハザードも問題となっているのだ。

 ただ、こうしたモラルハザードは「けしからん!」の一言で一蹴できるものではない。

「虚偽の申告をして生活保護を受け取るのは問題ですが、現行制度では簡単に生活保護申請が通るので、『もらえるのならもらっておこう』という考えが出てくるのは仕方がない」

 というのは、経営コンサルタントの城繁幸氏だ。

「生活保護を月に10万円受け取れば、年収は120万円。一方、時給800円でアルバイトなどで働いて、月に10万円程度稼ぐのなら、働かずして10万円を貰える方が、当然楽だと考えるでしょう。また、生活保護を受け取っている人は、働いて稼ぎがあれば、その分だけ生活保護費を減らされてしまうので、一度受け取ってしまえばなかなか働こうという気にはならない。

 今後は小額の年金を受け取るよりも、社会保障費を払わず、生活保護を受けた方が経済的だと考える人が増えていくのではないでしょうか。結局現行制度のままだと、こうしたモラルハザードが減ることはないでしょうね」

 前出の梅村議員は、「不正受給も、今後の受給者の急増に対応するのも、結局は制度そのものを変えるしかないのです」として、こう続ける。

「生活保護法が制定されたのは1950年。現在生活保護を貰っている方の45%が高齢者ですが、その当時はそんな状況になるなど、考えもしなかったはずです。今から60年も前につくられた制度を、現代にマッチするように大胆な変革を行わなければ、国の財政が耐えられなくなるときがきます」

病院の定期収入に

 しかし、残念なことにその取り組みは遅々として進んでいない。たとえば、不正受給の防止対策ひとつをとっても、次のような〝障害〟があるのだという。

「不正受給を防ぐには、不正に生活保護を受給していると思われる人の金融機関の口座をすべてチェックし、ほかに収入があったり、多額の預金がある場合は、支給を打ち切ればいい。

 現状ではすべての金融機関の口座を照会できるシステムが確立されていないので、各自治体が近くの金融機関の支店に、個別に照会をお願いしているという有り様です。であれば、金融機関が協力して、すべての預金口座の照会ができるようなシステムをつくればいい。そうすれば一定程度は不正受給を防げる、そう提案しているのです」

 ところが、銀行に「不正受給防止のために協力を」と呼びかけても、返ってきたのは、煮え切らない反応だったという。

「地方銀行はこの提案に協力的でしたが、都市銀行が難色を示したのです。『同姓同名の人の口座を誤って提示した場合、銀行の信用に関わる』『非常に負担のかかる作業で、多くの時間を必要とする』といった言い分があるようですが、モラルハザードを防ぐことに、銀行側も協力してほしいと思いますね」(梅村氏)

 生活保護のカネでもいいから、少しでも預金を確保したいという銀行の思惑が透けて見える。ほかにも、都市銀行のように、本音では「生活保護費が削減されることを嫌っている」機関は少なくない。病院はその典型例だろう。

「生活保護受給者の場合、病院で治療を受けると、その医療費はすべて国や自治体が負担することになる。病院も生活保護受給者が通院すれば『定期収入』につながるので、ある意味では歓迎しているんです。彼らが入院すると、国からたくさん診療報酬を受け取るために、必要もないのにレントゲンやらCTスキャンやら、ありとあらゆる検査をする福祉系の病院は少なくない」(都内の医療関係者)

 受給者以外にもその恩恵に与っている人や機関がある。だから生活保護制度の改革は、遅々として進まないのだ。

 生活保護は困窮者の生活を支え、社会全体の安定をはかるために導入された制度である。しかし、これまでみてきたように、生活保護の急増によって日本の財政が破綻してしまうおそれがある。国の財政が破綻すれば、社会の安定など望むべくもないのは、明白である。

「週刊現代」2012年3月3日号より