週刊現代経済の死角

2011年04月29日(金) 週刊現代

東京・東海M8.0級大地震に備えよ
いつ来てもおかしくない

 連日、テレビから流れてくる緊急地震速報のチャイム音を、聞き流してはいけない。地震は慣れてしまうのが一番恐い。備えあれば憂いなし。近くあなたの街を巨大地震が襲うかもしれないのだ。

余震は100年以上続く

 京葉コンビナートや京浜コンビナートがある東京湾沿岸の埋め立て地には、600基もの浮き屋根式タンクが稼動し、東京電力の火力発電所も11ヵ所、立ち並んでいる。もし首都圏を襲う直下地震が起きたら、大きな震動や液状化現象によって、タンクや発電所から重油や原油、LNG(液化天然ガス)といった貯蔵物が東京湾に流れ出す---。こんな大惨事を危惧する研究者がいる。社団法人土木学会の元会長で、早稲田大学創造理工学部教授の濱田政則氏だ。

「首都圏で大地震が起きた場合、東京湾沿岸にある川崎市の東扇島東公園が、基幹的広域防災拠点になります。国内外から船で搬入される水や食料、医薬品などの集積、荷捌き、分配作業等がここで行われる予定です。

 しかし、貯蔵タンク自体が炎上するだけでなく、漏れ出した貯蔵物にも引火すれば、東京湾は輸送経路として使い物にならない。まさに『火の海』と化すのです。高速道路や鉄道網の近くで、崖崩れや構造物の倒壊などが起これば、陸路からの輸送経路も断たれ、東京は孤立してしまう。救援物資や救援隊が遅れれば、首都圏の復旧や復興に大きな支障をきたすことになります」

 いま、東日本全体では連日のように余震が起こっている。「3・11」に本震が襲い掛かってきてから1ヵ月以上経過したのに、余震は減るどころか、むしろ増えている印象が強い。

 気象庁の発表によれば、4月12日17時までに発生した震度4以上の余震は、早くも111回に達した。昨年1年間では37回しか起きていないから、たった1ヵ月で昨年の3倍もの地震を私たちは経験した計算になる。

 過去、日本の海域で発生した大地震と比較しても、余震の回数は際立っている。'94年の北海道東方沖地震(M8・2)直後の1ヵ月間で起きた余震(M5・0以上)は113回だったが、今回は408回にものぼる。

 頻発する余震は何を意味するのか。もしかしたら、明日にでも、大地震が起きるんじゃないか---誰もがこう危機感を抱くほど、余震は多発しているのだ。

 今回の本震と同じプレート境界型地震として知られるスマトラ島沖地震('04年12月/M9・1)では、3ヵ月後にM8・6の大きな余震が発生しているが、その大きさや回数は、本震の規模によって決まるという。

 北海道大学理学研究院附属地震火山研究観測センター准教授の勝俣啓氏が解説する。

「余震は、岩盤の『割れ残り』です。本震で一度、その多くは破壊されたのですが、割れずに残っている箇所がある。いまも宮城沖などで起きているのは、それらが時間をおいて次々と壊れている余震です。

 今回の本震で放出されたエネルギーというのがケタ違いに大きく、阪神大震災の約1000倍でした。その分、本震の影響が広範囲におよんだので、割れ残りも多く存在する。それがなくなるまで余震はずっと続くわけです」

 勝俣氏は少なくとも半年は余震に対する警戒が必要だと指摘するが、今後何年も続くという専門家もいる。東京大学地震研究所応用地震学研究室教授の纐纈一起氏だ。

「普通の規模の地震なら、余震は1~2ヵ月程度で済むと考えられていますが、今回はこれだけ巨大な地震が起きたのですから、最低でもあと数ヵ月、長ければ年単位で続く可能性もあります」

 ちなみに、1891年、M8・0を記録し、「日本史上最大の直下型地震」とされる濃尾地震の場合、発生から120年の歳月が経過したが、

「いまだに有感、無感(震度計には記録されるものの、人体には感じない地震)の、余震と思われるものが続いている」(京都大学大学院理学研究科教授の平原和朗氏)

 という。余震とは地震につきものの現象なので、相当長期にわたって起こりうると覚悟したほうがいい。

大きく歪んでいる日本列島

 その一方で、秋田県内陸北部(4月1日/M5・0)や茨城県南部(2日/M5・0)、福島県浜通り(11日/M7・0)や長野県北部(12日/M5・6)などのように、震源域から離れた地点では、誘発地震が頻繁に起こっている。

「本震が起こる前に比べて、宮城県石巻市の牡鹿半島が東南東に5・3m移動し、1・2m沈下するほど地殻は変動しました。まさに、日本列島全体を揺るがすような大きな歪みが生じたわけです。したがって、隣の断層や距離が離れている断層に影響が飛び火し、誘発地震が起こっても、けっして不思議ではありません」(京都大学防災研究所地震予知研究センター准教授の片尾浩氏)

 では、東京を含む首都圏に誘発地震が飛び火する可能性はあるのか。前出の平原氏に問うと、次のように答えた。

「たびたび地震が起きてエネルギーが発散されると、大きな地震は起きない---そんなこれまでの常識を、今後は変えなければいけません。過去に房総沖では1667年にM8・0クラスと思われる津波地震が起きているので、さすがにM9・0はないにしても、M8・0クラスならば可能性はあります。

 房総沖で起これば津波は銚子を含む房総半島のみならず、三浦半島にまで及ぶと思います」

 日本地震学会元会長で東北大学名誉教授の大竹政和氏も、房総沖での巨大な誘発地震の可能性を危惧している。

 東日本大震災の本震では、東北地方の陸側のプレート(北米プレート)に太平洋プレートが沈み込む境目で、断層の破壊(岩盤のズレ)が起きた。この断層破壊は、三陸沖から茨城沖までの南北500km・東西200kmにおよぶ(3ページの地図参照)。

「東日本大震災」以降のおもな地震発生状況

「しかしながら、太平洋プレートと北米プレートの境目のすべてにおいて、断層破壊があったかというと、そうではありません。境目の南端は房総半島の先あたりのはずなのに、その途中の銚子の沖合で、破壊は止まってしまっている。つまり、まだ破壊されていない、大地震が起こりうる銚子から先の境目は、まだ150kmもあるのです」

 ここで、見過ごすことのできない、重大な事実がある。地球の表面はいくつかのプレートに覆われており、海のプレートが沈み込む地域では、巨大地震が起こりやすいことが知られている。

 実は、房総沖の近くでは、プレートの三重会合点が待ち構えている。そこは、「トリプルジャンクション」と呼ばれる、世界でも非常に稀で、なおかつ地震が非常に発生しやすい、危険地点とされているのだ。大竹氏が続ける。

「太平洋プレートが北米プレートとフィリピン海プレートの下に沈み込んで、3つのプレートが重なり合っているのです。

 もし、この一帯で断層破壊が一挙に起これば、M8・0級の巨大地震が発生し、東京をはじめとする首都圏は大きな揺れに見舞われてもおかしくない。当然、地震とともに九十九里などの海岸線を、巨大な津波が襲うことになるでしょう」

東海地震は早まる

 現に1677年、この地点ではM8・0の「延宝房総沖地震」が発生し、銚子には8mを越える津波が襲来した。

 加えて、この房総沖の巨大地震はその後、東京直下地震までも引き起こす危険性があるという。

「トリプルジャンクションの一帯が壊れると、今度は余震が頻発するだけでなく、首都圏の周辺で誘発地震も起きます。そして最終的には、東京を直下地震が襲う。その規模はM7・0クラスを想定しています」(大竹氏)

 歴史を紐解いてみても、太平洋沿岸を震源とする巨大地震の発生後、内陸部で大きな揺れを誘発したケースは多い。

 東日本大震災と対比される明治三陸地震(1896年/M8・2)の2ヵ月半後、内陸部で大きな陸羽地震(M7・2)が起きている。また、東南海地震(1944年/M7・9)の場合、わずか1ヵ月強のうちに三河地震(M6・8)が発生した。

「今回の本震後にも、福島県浜通りや長野県北部で大きな地震が起きているように、海底を震源とする巨大地震の発生後は、わずか1~2ヵ月の間に内陸で大きな地震が誘発されるリスクがきわめて高いといえるのです」(大竹氏)

 大地震が危惧されているのは、東京だけではない。最も危険視されているのは、かねてから将来に「必ず起こる」といわれてきた東海地震だ。

 次の特集で詳しく報じているが、浜岡原発は東海地震の震源域に位置する。もしここで大地震が起きたら、「第2のフクシマ」になりかねないと、いま、世界的にも注目を集めている。

 しかも、869年、三陸沖を震源と見られるM8・3程度の貞観地震が起きた約20年後、東海地震が発生している。それだけに警戒しなければならないのだが、その時期が早まるかもしれないという。前出の平原氏が話す。

「今回の本震によって地震の規模が大きくなることはないと見ています。M7~8です。ただし、ここまで日本各地の地震活動が活発化し、あまり想定していなかった地域でも地震が発生している現状を鑑みると、東海地震が当初の想定より早まることはあります。東南海・南海の各地震と連動して起きる可能性も否定できない。起きることを大前提とした上で、注意深く見ていかなければならないと考えています」

 東海地震が単独で30年以内に起きる確率は87%とされていた。東海・東南海・南海の「三連動地震」が起きると、死者は2万5000人に上り、建物の全壊件数は94万棟と推定されている。

 早ければ東日本大震災の誘発地震として近いうちに東京直下地震が、遅くとも30年以内には東海地震が起こりうるだけに、できるだけ早く対策を再点検する必要があるわけだ。

またしても過小評価

 ところが、日本の危機管理対策といえば、えてして被害を過小評価する傾向が強い。それは、「絶対に大丈夫」と安全性を強調していた福島原発で、「レベル7」という最悪の原発事故が起きてしまった点からも明らかだろう。

 東京都の場合、数年ごとに「首都直下地震による東京の被害想定報告書」を作成しており、1991年に9363人だった死者の数が、'97年には7159人、'06年には5638人と、想定を重ねるごとに、地震による死者は減少している。

 なぜこのような事態が起こるのか。'97年までの報告書の作成に携わっていた、東京工業大学都市地震工学センター特任教授の梶秀樹氏が解説する。

「確かに東京都による防災対策が進み、見直しのたびに試算の方法が変わるという点も影響していますが、行政側の原因も大きい。たとえば、以前の報告書より最新の報告書のほうが死者の数が大きくなると、『その間、東京都は何をやっていたんだ』という話になってしまう。そういうことを都はものすごく気にしている。特に問題なのは、少なく見積もった被災者の数に基づいて、仮設住宅の数やトイレの数を計算し、葬送の準備も進めている点です。もし、5638人よりも多い死者が出た場合、誰が責任を取るのか。それこそ、今回のように『想定外の災害が起きたから対応できません』では済まされないのですから、やはり最悪の事態を見据えた対策を考えるべきなのです」

 現に、計画している避難所の数が少ないという意見もある。内閣府中央防災会議が作成した「首都直下地震の被害想定」によれば、1万1000人が死亡し、85万棟の建物が全壊・火災焼失すると予測されている。

「東日本大震災では津波などによって全壊・全焼した世帯数は20万~25万世帯と言われています。

 これに対し、首都直下地震によって全壊・全焼が予測されている85万棟には、アパートなど集合住宅も含まれるので、これを世帯数に換算すると170万~200万世帯が自宅を失うことになる。東京全体の世帯数は612万世帯ですから、大変な数字です。

 特に、23区の東側の区部では避難所が足りなくなることは明白なので、一刻も早く対策を考える必要があります」(明治大学特任教授の中林一樹氏)

 東京直下地震と東海地震は、地震学者が指摘する「本命」。その被害をお役所の面子で甘く見積もっていては、東京電力と同じ過ちを犯すことになる。

 

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