経済の死角

2011年11月17日(木)

為替介入で大損こいた
われらの「8兆円」は一瞬にしてドブに捨てられた!

やるなら自腹でやってくれ

 準備は10月半ばから秘密裡に進められていた。官邸スタッフが明かす。

「10月に入ってから、勝栄二郎財務事務次官は官邸に3回ほど足を運んでいる。表向きは月例経済報告、国会関連の打ち合わせと称していたが、実は為替対策の極秘会議。勝の腹心と呼ばれる木下康司国際局長も同席し、『75円50銭がターニングポイントだ』と話し合われた。為替介入の当日、状況は逐一、木下局長から勝次官に報告された。介入額が6兆円を超えたあたりから、電話回線はつなぎっぱなしだったらしい」

 満を持した円安介入---。止まらない超円高を阻止するため、政府・日銀は10月31日、一日で約8兆円を投入する大規模介入に踏み切った。75円台だった円ドルレートは79円55銭まで下げたが、1日たつと再び78円台に逆戻り。その後もズルズルと円高基調が続いている。東京福祉大学大学院教授の水谷研治氏は「そもそも為替介入がうまくいくはずがなかった」と指摘する。

「安住淳財務大臣は『納得いくまでやる』と言っていますが、世界中にあり余っているドルを日本がいくら買っても、ドル安(=円高)を止めることは不可能です。いまのドルはかつてのポンドのように、国力が衰えるとともに、通貨の下落に歯止めがかからない状況にある。もちろん政府・日銀にこれを止める術はなく、いずれ1ドル=70円を割るくらいまでは円高が進むでしょう」

 今年8月に当時の過去最高額(約4兆5000億円)を使って介入した時の〝前例〟を思い出しても、わかるはずだ。77円台だった為替相場は介入直後に80円台になったが、効果は継続せず、たった7日で値を戻している。もちろんその後はさらに円高が進み、ついに連日の〝戦後最悪〟を更新した・・・・・・。

 通貨戦争の歴史を振り返れば、イギリスのポンド危機にしても、アジア通貨危機にしても、当局がヘッジファンドを中心とする投機筋に敗北してきた歴史があることも見逃せない。

 それでも安住大臣は「神経戦をやっている」と一丁前のトレーダー気取り。さらなる介入もあると牽制しているが、火遊びもほどほどにしてもらいたい。

 使われるのはわれらが血税であり、介入するたびにどんどん〝目減り〟を続けているからだ。通貨・国際投資アナリストの小口幸伸氏が言う。

「介入のための資金は国債を発行して調達し、その収支は外国為替資金特別会計で管理されています。この為替差損は長期的には円安に戻るという前提のもとに計算されていませんが、不健全な会計処理です。いまのような円高傾向では借金が膨らんでいる状態にある。しかもすでに含み損は40兆円あるといわれており、これらの負債が後世にツケ回されていることになるのです」

 まとめると介入資金は国債で賄っているのだから、これは国民の借金。それが一日で8兆円も積みあがってしまったのだ。元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏もこう言う。

「今回の介入では79円台で円を買っています。それが一晩で78円台の頭にまで上がってしまったから、一晩で1円やられた。この投資を約8兆円分やったということは、たった一晩で1000億円近くをすってしまった計算になる(含み損)。カジノ賭博でやられたという大王製紙元会長も真っ青の額ですよ」

 しかも介入の効果はあっと言う間に消えてしまう。つまりは国民のカネ8兆円をバクチにつぎ込み、一瞬でドブに捨ててしまったということだ。

 それにしても経済のプロ中のプロである財務省がどうしてこんな怠慢を演じるのか不思議でならないが、カラクリは簡単。前出・水谷氏が言う。

「円高で何より苦しんでいるのは輸出企業。海外に出て行かなければいけないし、円の価値が上がった分、賃金を下げないと経営が苦しくなる。国民の税金を使って、そうした企業に助け舟を出したわけです」

 実際、大企業のトップたちは、「やっとやって頂いた」「大変ありがたい」と大歓迎。一方で、ぬか喜びは御免とばかりに、「介入の効果が長続きするという期待は持てない」と懐疑的な声を漏らす企業幹部も多い。

 本来、為替介入は市場に「日本政府は本気だ」というインパクトを与えるのが目的。しかし、これだけ政治が迷走して素人大臣が金融・財政のトップに名を連ねていれば市場も足元を見る。民主党の介入の効果が持続しないのはそのためである。かくてまた火遊びの代償は、国民にツケ回されるのだ。

「週刊現代」2011年11月19日号より