週刊現代経済の死角

2011年04月25日(月) 週刊現代

「レベル7」現実は想像を超える
放射能汚染は終わらない

4月13日会見で謝罪した清水正孝社長

  まさかこんな日が来るとは思わなかった。日本国中、油断していたのかもしれない。優秀だともてはやされてきたこの国の科学技術がなんともろく、そして無力なことか。レベル7。私たちはどこでどう間違えたのか。

まだ何か隠している

 チェルノブイリ事故の処理にかかわったロシアの物理学者、ナタリア・ミロノーヴァ氏は、発表されているデータの内容に不満を感じていると語る。

「私の考えでは、福島の事故はチェルノブイリの8倍酷いと思う。なぜなら、1ヵ月以上にわたって放射性物質の漏出が続いているからです。少なくとも3つの原子炉がやられて、プルトニウム、ストロンチウムが放出された。これは、燃料がすでに溶融していることを意味します。原子炉内でたくさんの放射性物質が生成され、外部に放出されているのです。

 チェルノブイリのときは、大気に放出された放射性物質は30種類くらいでした。福島では、その内訳と分量がはっきり公表されていません。日本政府、東京電力は公表したくないのではないでしょうか。

 海に流された大量の汚染水によって、韓国、中国、ウラジオストックなどロシアの海も汚染される。ロシアではいま、毎日海の汚染度をモニターし、チェックしています。チェルノブイリと同じような悲劇がいま、起こっていることに、私は非常に憤りを感じています」

 フクシマの現実は、我々の想像を軽く超えている。

 4月12日に原子力安全・保安院が発表した「レベル7」には、「判断が遅きに失した」「過大な判定」など様々な意見があるが、国際原子力機関(IAEA)が指定した最悪レベルの放射性物質が放出されたことは、間違いのない事実だ。

 しかも、危機はこれで終わりではない。放射性物質は今日も数テラベクレルずつ放出され、水素爆発の可能性はずっと付きまとっている。沈静化には、10年以上かかるという見立てが、主流になってきた。むしろ危機はまだ始まったばかりなのである。

 福島第一原発から放出された放射性物質の総量は、すでに現時点で、広島に投下された原子爆弾をはるかに凌ぐという衝撃的な事実も明らかになった。

「広島の原爆で放出されたセシウムなどの放射性物質は、チェルノブイリ原発事故の約400分の1だとする調査があります。

 今回の福島第一原発事故では放出された放射性物質の内訳が発表されていないので正確な比較は難しいのですが、ヨウ素に換算するとチェルノブイリの約10分の1です」(広島大学原爆放射線医科学研究所・星正治教授)

 広島に投下された原爆は搭載した50kgのウランのうち1kgが核分裂反応して大爆発、熱風を起こし、放射性物質を撒き散らした。爆発、爆風だけでなく、その後の放射能による健康被害で累計12万人にも及ぶ人が亡くなったと見られている。今回は、単純計算でその40倍にも及ぶ放射性物質が、放出されたことになる。

 唯一の被爆国として、世界に核兵器の廃絶を訴えていた日本は、自らの手で自らに「原爆」を落とした。

 今回の福島第一原発の場合、広島のような核爆発は起こしていないが、広島の1万倍に当たる合計500tもの核燃料が放置され、いまこの瞬間も放射線を出し続けている。

 原子力安全・保安院が事故の評価を最悪の「レベル7」に引き上げたのも、残念だが当然のことだろう。

 東京電力の松本純一・原子力・立地本部長代理は会見で思わず「放射性物質の放出量がチェルノブイリに匹敵するか、超える可能性がある」と口を滑らせた。今後原発の処理に年単位の時間がかかれば、いまの放出量の10倍、つまりチェルノブイリ並みになる可能性があるということだろう。

 星教授が指摘するように、核分裂反応によって放出される放射性物質にはセシウム、ヨウ素、ストロンチウム、プルトニウムなどがあり、広島型原爆、チェルノブイリ事故、そして今回の福島第一原発ではその内容がかなり異なっている。

 福島の場合は、揮発性の高いヨウ素などを中心に1ヵ月以上にわたって延々と放射性物質を垂れ流す状態が続いている。

 広島とも、チェルノブイリとも違う人類のまったく経験したことのない「未知の事態」なのである。それによる今後数十年の健康被害、環境汚染はまったく想像もつかない領域になる。各国の識者も、放出された放射性物質の量と、内訳に注目している。

「オーストリアの気象庁が発表したデータによると、福島第一では事故から最初の3日間で、チェルノブイリの20%に当たる量のヨウ素を放出しています。日本の原子力安全・保安院の公表したデータより、私はこちらのほうを重視しています。福島第一の事故の特徴は、揮発性の高いヨウ素の放出量が、きわめて多いことです。

 揮発性の物質の場合、汚染される範囲が非常に広くなる。福島の場合は、チェルノブイリと比べはるかに漏出の期間が長い。さらに福島では大量の汚染水を海に垂れ流している。

 私はレベル7という判定は妥当だと思っています」(アメリカのシンクタンク「エネルギー環境研究所」のアージュン・マキジャーニ博士)

 アメリカ・ジョージア大学のチャム・ダラス教授も、夕刊紙のインタビューに答え、「米軍やIAEAの独自情報を入手した。原子炉や原子炉周辺のデータはかなり悪い。一言でいうと悲惨だ」と口にしている。日本政府、東京電力の公表データと、各国が独自に調査した数値には、乖離があるのである。

子どもだけは救おう

 前述のように福島と単純に比較できる事態は歴史上存在しないが、漏れ出た放射性物質の量で言えば、チェルノブイリだけが唯一、参考になる前例である。

 福島第一原発周辺のモニタリング・ポストで得られた放射線量の数値が公表されているが、いずれも3月17日を頂点に減少し、3月末以降はほぼ一定の数値を示している。これは、それぞれの地域に降った放射性物質のうち、半減期(放射線量が半分になるまでにかかる時間)の短いヨウ素がどんどん少くなっていくのに対し、半減期の長いセシウムなどが一定量の放射線を出し続けていることを意味する。低線量でも、毎日放射線を浴び続ければその「累積放射線量」が確実に身体を蝕む。

 浪江町の一部では、累積の放射線量が事故後1ヵ月で34ミリシーベルトを示した。これは、ICRP(国際放射線防護委員会)が示した人が一生涯に浴びる許容量の3分の1にあたる。

 チェルノブイリに近いベラルーシで、小児甲状腺がんの治療にあたった経験を持つ医師で松本市長の菅谷昭氏は、こう話す。

「ベラルーシでの小児甲状腺がんの発生数は、異常な率でした。国際的には、15歳未満の子どもの甲状腺がんは100万人に1人か2人。ところが汚染地では、それが100倍、多い地域では130倍に跳ね上がったんです。発生が増え始めたのは事故から5年後で、10年後にはピークを迎えました。私が診療していた当時も、毎日毎日子どもたちが診察に来た」

 病院を訪れ、手術を受けた思春期の女の子は、手術痕を見て、

「どうしてこんなことになったの! 何も悪いことはしてないのに」

 と悲嘆にくれていたという。菅谷氏によると、800人の患者のうち20人弱が死に至り、ミンスクの甲状腺がんセンターでは、6人に1人が肺への転移がみつかった。

「甲状腺がんにかかった子どもには、自覚症状がないんです。だから気付きにくい。定期的に触診や、超音波検査などを行って、早期に見つけださないといけない。甲状腺がんにかかると甲状腺を摘出しますので、一生、薬で甲状腺ホルモンを補充し続けなければいけないんです。薬の服用は毎日で、それを一生続けなければならない。

 今回の福島の事故では、絶対に子どもたちにこんな思いをさせてはいけないんです」

 チェルノブイリ事故から25年目の研究で、甲状腺がんは小児が中心で、成人の発症率はきわめて低いという報告もあったが、成人には、別のリスクがある。

 チェルノブイリのあるウクライナで、土壌改良事業に携わった河田昌東・NPOチェルノブイリ救援・中部理事も危険性を指摘する。

「我々が入っているジトーミル州の面積は2万haあり、かつては麦畑と畜産を主産業とする地域でした。ところが、州の95%の地域で、栽培ができなくなったんです。

 住民は、自宅の庭先で作ったものや、放射能汚染が比較的低い地域で作ったものを食べていますが、それでも体内被曝の影響が大きいんです。

 がんはそれほどでもないんですが、多いのは心臓病、脳血管疾患です。放射線被害の例としてがんや白血病がよく指摘されていますが、現実には、内部被曝を原因とする心臓や脳血管疾患が問題なんです」

低線量領域の内部被曝が怖い

 河田氏によると、放射性物質のうちのセシウムは、細胞にとりつき、エネルギー器官であるミトコンドリアの機能を破壊する。ミトコンドリアの機能が放射性物質で破壊されると、脳や心臓の毛細血管に悪影響があるという。

「心筋梗塞、脳梗塞、脳溢血、クモ膜下出血などの血管系の病気です。

 これまでは、広島・長崎で放射線を浴びた外部被曝系の患者のデータしかなかった。よく専門家がテレビで、『100ミリシーベルトまでは大丈夫』なんて言っているのは、広島・長崎のデータをもとにしているんです。しかし、実際にウクライナ政府の発表したデータによると、全被曝者の7~8割が低線量領域にいた、内部被曝なんです。ICRPやIAEAが設定している基準は、低線量領域の内部被曝には本来、当てはまらない。

 もちろんがん患者もいますが、実際には心臓や、脳の疾病が問題なんですよ」

 河田理事らのグループは、放射性物質で汚染された土壌を改良するため、菜種を栽培している。

「実際にやってみると、なかなか難しいとわかりました。放射性のセシウムは、土壌に割と強く吸着するんです。それも時間が経てば経つほど吸着力が強くなる。植物が吸収するのは、水に溶けた部分だけですから、土壌のなかにガッシリと吸着しているセシウムはとれないんです」(河田理事)

 福島第一近隣の土地も、ウクライナ同様に汚染されている可能性が高い。除染には、長い時間と膨大な費用、手間隙が必要だ。大阪市立大学の畑明郎特任教授は、重金属などに汚染された土壌の浄化を専門とする。

「放射性物質は土の表面5cmくらいの深さに蓄積しますので、浄化の方法としては、(重金属の)カドミウムなどの浄化と同じです。土を30cmほどとり、捨て場がないので深い土中に汚染された土を埋めて、上30cmにきれいな土を入れるんです。その場合、1haあたり、2000万円くらいかかります。放射性物質の場合、掘り返すのはもう少し浅く、数cmでいいかもしれません。その場合、費用は数百万のオーダーになると予想します。

 土が汚染されていると、草も汚染されてくる。畑、田んぼすべてですから、大変です。養鶏など、畜産もすべてやり直さなければならなくなる。家の柱など木製の建材は、それ自体が放射能を帯びることはそれほどないと予想されます。これだけの放出量だと、(浄化が必要なのは)茨城や千葉も含みます。やったほうがいいですね」

 つまり、事前に放射線量を調査して、汚染度が高いところは土を掘り返して埋めたり、畑をいったんつぶす必要が出てくる。

 麦畑や畜産の放射能汚染についてはチェルノブイリの先例があるが、稲作の汚染についてはデータがなく、これからひとつひとつ調査していくほかない。それは福島第一原発周辺にとどまらず、茨城、千葉といった広域に及ぶ可能性が高い。

人類史上、例がない

 1954年ビキニ環礁に降り注いだ「死の灰」の研究に当たった吉原賢二・東北大学名誉教授(放射化学)は福島第一から46km離れた福島・いわき市内に住んでいるが、避難する気はないという。

「私が住んでいる町は、放射線量が毎時だいたい0・3マイクロシーベルトで、平常より少し高い程度ですから、大したことはありません。放出された放射性物質の量にしても、保安院の言っている37万テラベクレルと、原子力安全委員会の言う63万テラベクレルという、こんな大きな食い違いができる理由はちょっと分からない。根拠がはっきりしないので、そこは非常に不満です。

 福島県内でも、浪江や飯舘村などの線量が高いですが、これは気象・地形的な条件によるものでしょう。チェルノブイリの放射線分布とはかなり違う。

 原発近くの人は明らかに危険ですから、そういう地域の人は避難すべきですが、私のいる町は何の問題もないと思う。そういう実情はよく調べて、考えてもらわないといけないと思います」

 吉原氏自身、かつて実験の際に被曝を経験している。その時、通常6000だった白血球が、一時4000まで下がったが、実験を休んで牛乳を飲むなどしていたら自然に回復したという。もちろんこれは外部被曝だから、いま福島で懸念されている内部被曝とは事情が違うが、放射線被曝による健康被害にはまだまだ未解明の部分が多いのも事実だ。

 立命館大学名誉教授の安斎育郎氏は、福島第一原発周辺地域の今後について、こう語る。

「飯舘村や、半径20km圏内の住民の方たちは、簡単には戻れないでしょう。政府が土壌を入れ替えるなどの作業をして、よほど線量を減らす努力をしないと難しい。まずは線量の調査に時間がかかるし、浄化には数週間とか、数ヵ月のオーダーではなく、年単位の時間がかかると思う。現実にチェルノブイリ周辺の線量の高い地域は、永久に居住禁止になっています。あの周辺には、まだ何百年も入れない。白血病やがんなど、人体への影響についても試算によってバラつきが大きい。数字が定まっていないんです。実態はいまだにわからない。

 福島も、危機は相変わらず続いている。仮に今後、水素爆発などが起これば大量の放射性物質が撒き散らされるし、そうならなくてもヨウ素やセシウムなど気化しやすい放射性物質が燃料プールや水蒸気から放出され続けるのだから、危機は続く。いまでも、毎日数テラベクレルもの放射性物質が出ているんです。

 こんなに長期間にわたって放射性物質が外に出続けるのは、人類史上、例がないことを忘れてはいけない」

 福島原発事故直後の3月17日、政府は突如、野菜類に許容される放射性セシウムの基準値を緩和した。

 それまでは輸入野菜についてすべての放射性物質をあわせて370ベクレル以上(1kgあたり)を暫定限度としてきたものを、放射性セシウムだけで500ベクレルまで許容するという。この決定を、厚生労働省の通達1本で行ったのである。

 多くの研究者が指摘するように、もっとも重要なのは被害状況の正確な把握と、除染。ところが政府がやったことは、現状を追認し、基準のほうを変更することだった。

 チェルノブイリの例を見るまでもなく、放射線被害はいつも想像を超え、広がっていく。泥縄式の対応に終始する政府の対応の可否が明らかになるのは、数十年後になる可能性が高い。

 

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