山口義正経済の死角

2011年11月04日(金) 山口義正

疑惑をスクープしたジャーナリストが直撃!
ウッドフォード元社長「腐りきった14人の役員全員の排除こそオリンパス再建の第一歩だ」

 オリンパスが2008年に行った無謀なM&A(企業の買収・合併)はついに株主代表訴訟に発展。ロイター通信によれば、民主党内で企業統治のあり方を検討する作業部会が設置されることになるなど、オリンパスに対する視線は厳しくなるばかりだ。

 国内ではついに奈良県の個人投資家が立ち上がった。現経営陣に対して総額1394億円の支払いを求める株主代表訴訟を起こしたのだ。海外投資家も株主代表訴訟をにらんでか、米サウスイースタン・アセット・マネジマントがオリンパスに書簡を送付、M&Aを決めた際の取締役会議事録の公開を要求している。サウスイースタンは一時、オリンパスの発行済み株式の10%近くを保有していた大株主であり、同社の経営に容喙してきた“モノ言う投資家"だけに、事と次第によってはタダでは済むまい。

 しかし株主代表訴訟を起こしたところで、時間の無駄に終わる恐れがある。奈良の個人投資家が求めているのは、“オリンパスの監査役が現経営陣に対して損害賠償請求訴訟を起こすこと"である。ところがその監査役の中には今回の事件でキーパーソンと目されている山田秀雄常勤監査役(元副社長)が含まれているのだ。

オリンパス菊川剛氏〔PHOTO〕gettyimages

 古くからオリンパスと関わってきた投資銀行関係者によれば、今回の事件のカギを握るとみられているのは「菊川剛前会長兼社長と森久志副社長、そして山田氏の3人」。今回の問題に一番深く関わってきた本人に、果たして自身を含めた経営陣を訴えることができるかどうか。日本企業が以前から抱えてきた、“監査役に経営のお目付け役を期待できない"という課題を改めて突き付けている。

 オリンパスは1日、検察出身者や裁判官出身者を中心とした第3者委員会を立ち上げると発表したが、果たして不明朗なM&Aにきっちり光を当てることができるかどうか。委員会のメンバーを選定するにあたって、オリンパスはコーポレート・ガバナンス(企業統治)にやかましい法曹関係者を敬遠したという。

 しかも調査結果が公表されるまでには1カ月以上かかる見通し。オリンパス社内からは「宙ぶらりんの状態が長引けば長引くほど、収益面への打撃は大きくなるかもしれない。現経営陣は何を考えているのか」と不満の声が漏れ始めている。一連のゴタゴタが現場をシラけさせ、士気を殺いでしまっているのだ。

 オリンパスという企業体にとって、株主代表訴訟だけなら、まあいいだろう。経営陣が賠償責任を負うだけなのだから。もっと深刻なのは、一連の騒動でオリンパスの事業に影響が出かねない情勢に陥りつつあることだ。オリンパスの最大の強みであり、収益の強力な源である医療機器事業で顧客が離散し、収益面で急ブレーキがかかってしまう懸念が浮上している。

 例えば国立大学付属病院では医療機器などを購入する際、コストを抑制するために病院同士で集まって共同で入札を実施する。オリンパスはその入札に参加できなくなる恐れが出てきているのだ。ネックになるのは、買収資金の一部が反社会勢力との関わりが疑われている投資会社系のファンドに流れている点。

 筆者は月刊誌FACTA10月号で、買収資金の一部が英領ケイマン籍の投資ファンドに支払われたと指摘した。このファンドは、経営難に陥った企業の大株主となって、これを食い物にしてきた前歴がある。これらのファンドに対する支払いは、オリンパス自身が2009年に外部の有識者に作成させた報告書でも明らかになっている(ただしこの報告書は疎漏なもので、このファンドの正体について調べた痕跡はない)。

 そして同誌10月号が発行された後で新たに浮上した疑問点は、投資ファンドが資金の最終的な受け取り手であるかどうか---である。投資ファンドは資金のトンネルに過ぎず、実は資金の受け取り手は別にいる可能性が出てきている。そしてこの資金には数多くのピラニアが群がって、食い散らかしたとの証言もある。関係当局の調査が本格化し、ピラニアの素性がはっきりしたとき、大学病院や国公立病院の入札からオリンパスがはじき出されてしまうようなことでもあれば、経営上のダメージは計り知れない。例え第三者委員会の調査結果がまとまる前であっても、騒ぎがここまで大きくなっては、病院にとってオリンパス製品は購入しにくいであろう。

 内視鏡の世界シェアで70%を超える圧倒的地位を占める医療機器事業は、オリンパスの企業価値の根源であり、シェアをペンタックスや富士フイルムなどのライバル企業に牙城を切り崩されてしまえば、その存在価値さえ危ぶまれかねない。

 また信用力の面でも懸念材料が浮上するかもしれない。株式市場では11月8日に予定している中間決算の発表についても「オリンパス側では予定通り行うと説明しているが、(一連の企業買収で発生した)のれん代の扱いを巡って、監査法人と意見対立が生じる可能性があり、予定通りに発表できないのではないか」(外国証券アナリスト)との懸念が増している。「まともに決すら発表できなければ、信用力は失墜しかねない」(同)。

 先月14日に社長を解任されたマイケル・ウッドフォード氏の動静も焦点の一つだろう。ここでウッドフォード氏に改めて申し入れたメールでの一問一答を披露しよう。これまでにウッドフォード氏は国内外の多くのメディアからインタビューを受けており、解任されるまでの経緯を中心に答えている。

そこで今回は、オリンパスの現状を踏まえたうえで、ウッドフォード氏がどのように対応する方針であるか聞いてみた。同氏は現経営陣の一掃などを厳しく求めいていく構えだ。

---オリンパスは現在、大変な苦境に立たされています。コンプライアンス上の問題が浮上してきたことで、オリンパスに融資してきた大手銀行は「今の状況では融資はかなり難しい」と言い、証券会社もオリンパスの資金調達を助けることはできないと話しています。恐らく監査法人もこれまでより厳格な姿勢で会計監査に臨まざるを得ないでしょう。デジタルカメラや内視鏡の売れ行きに影響が出てくることも考えられます。あなたが社長に復帰されたら、オリンパス再建のために何をどんな優先順位で取り組むお考えでしょうか?

「我われの本業は基本的に健全だ。もちろん我々には改善の余地があるが、真の弱点は14人の腐りきった役員たちだ。彼らを会社から排除して清廉な人物を登用して再び世界規模でみた強さを誇ることができる」

---社長に復帰するためには、必要な手続きを踏まなければならず、それでは時間がかかり過ぎると思います。金融機関の融資姿勢によってはオリンパスが存続しえない可能性が出てきますが、社長復帰のために何か対策をお考えでしょうか?

「私が復帰するかしないかは本質的な問題ではない。問題とは、オリンパスの汚れきった14名の役員に尽きる。弊社の従業員は懸命に働いてくれているが、彼らに比肩する、清廉な役員を起用すべきだ」

「そういう意味で、投資家や野田首相までが徹底的な解明を求めていることを心強く思う。我われの会社でどんな不正が起きたかを解明して、不正者を特定し懲罰するために、各国で調査が行われている。私も、それらの調査に積極的に協力している。一方、日本では、不祥事が発生した場合、捜査当局もメディアも、根底まで追求しないで、表面的な『解明』にとどまってしまう傾向が強いようだ。その慣習を遺憾に思って、強く懸念している。オリンパスの今回の問題に関しては、全貌を暴くまで、捜査努力を緩めてはいけない」

---同業他社からの資本参加を受け入れるお考えはお持ちですか?

「私は他社からの資本参加を受ける必要はないと思いたい。先ずは一連の不審な支払いを解明することで、我われは明るい未来に向けて再出発できる」

---私のこれまでの取材を総合すると、オリンパスには菊川氏が社長になる前から投資の失敗による「隠れ損失」があり、それが拡大してしまった。その処理のために価値の低い会社を高く買って、隠れ損失をのれん代の形に変えて計上し、20年をかけて均等償却するつもりだった---という可能性が出てきています。このような可能性はあるとお考えですか?

「その疑惑について指摘する向きもある。しかし、私としては腑に落ちない面がある。過去の損失の「穴埋め」が目的だとすれば、企業買収や顧問料という目的で支出した資金がいずれ、何らかの形で貸借対照表に還流しなければいけない。しかし、そういうような還流の形跡はない」

「もちろん、仮説の「過去の損失」を簿外で処理していたならば、穴埋めも簿外で済ましてしまうことが理論的にはありうる話だろうが。いずれにせよ、まず、誰が何を誰に対して支払ったのかを把握する必要がある。それこそ、真実を掴んでいる社内の人間には一刻でも早く進み出てきて、その真実のすべてを明らかにしてほしい」

---ジャイラスも過去の企業買収によって総資産の半分以上がのれん代で占められています。そのジャイラスをオリンパスが多額ののれん代を計上して買収したことは、「のれん代の連鎖」とも呼べる状況で、私にはこれが偶然には思えません。(ファイナンシャル・アドバイザーである)ペレラ・ワインバーグやAXESやAXAMなどによる、何らかの意図が働いていたように思えるのですが、あなたはどのようにお考えでしょうか?

「どのような意図が働いていたのか推測を始める前に、誰が、誰に対して、何に対して資金を支出したのかという基本的な事実を把握しておく必要がある。オリンパスで何があったのかを知る者には、進み出るよう強く促したい」

---社員に対するメッセージは?

「社員の皆さんが築き上げてきた素晴らしい会社を誇りに思って欲しい。オリンパスの強みを再確認する機会を捉え、顧客やステークホルダー(利害関係者)の皆様のより大きな利益を守るために身を捧げようではありませんか」

「私はオリンパスの歴史と、歴代社員が営々と積み上げてきた努力に、最大級の敬意を払っている。それゆえに我われは一連の事件に対して不屈の精神を持ち、妥協を排して挑戦しなければならない。自信を取り戻して前進するための唯一の道である」

やまぐち・よしまさ
日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞証券部記者などを経て、フリージャーナリスト