週刊現代経済の死角

2011年04月18日(月) 週刊現代

この被曝があと1年続いても安全と言えるのか
水と空気と土がやられて、
海と川、魚と野菜が汚された

汚染水が漏れ出た2号機取水口付近の亀裂(東京電力提供)

 都の水質検査には放射性物質「不検出」のカラクリがあった!

 フクシマ発の放射能汚染は空から、海から軽々と国境を越えていく。諸外国の怒り、日本の焦りを嘲笑うかのように汚染物質を吐き出し続ける原子炉。もはやこの世界に安全な場所など、ないのだろうか。

「50km圏内は避難すべきだ」

 連続する「想定外」の事態。後手後手に回る対応。そして、暴走する原発に立ち向かうのは、十分な装備もない「決死隊」。竹槍で戦闘機を倒そうとするような行為を英雄視し、美談に仕立てるメディアは、大本営発表を垂れ流し続けた歴史を繰り返している。その背後には無為無策で、自らは戦場に赴くことさえなかった指揮官たちがいる。ただ、かの大戦とは決定的に異なることがある。まったく目に見えない放射能という敵は、人類が自ら作り出した化け物なのだ---。

 連日のようにアメリカのニュース専門チャンネルCNNに登場して、福島第一原発の状況や放射能汚染の実態について解説している原発エンジニアのアーノルド・ガンダーセン氏。スリーマイル島原発事故の復旧を手掛けた経験もある同氏の警告は衝撃的だ。

「フクシマから漏れ出した放射性ヨウ素131は、カリフォルニアまで飛んできています。カリフォルニア大学バークレー校の調査でそれがはっきりしました。地上に落ちたヨウ素131は濃度が低くても、それが牧草に吸収され、さらにその牧草を牛が食べ・・・というルートで牛乳に濃縮されて検出されたのです。カリフォルニアではしばらく牛乳を飲まないほうがいいでしょう。アメリカにまで放射性物質が飛んできている以上、中国や韓国に飛んでいる可能性は十分にあります。

 私は前から、日本政府が避難圏を拡大するように言い続けていますが、残念ながらいまだに聞き入れられない。しかし、政府はいま起きていることを正直に認めて、少なくとも原発から50km圏内の人はすべて避難させたほうがいいと思います。今、現地の風は主に海の方向に流れていますが、この風が内陸に向かえば、とても深刻な汚染が起きてしまうと心配しています」

煙を上げる福島第一原発3号機。アクシデントが起きるたび作業は中断(東京電力提供)

 ガンダーセン氏が懸念するように、韓国では4月6日、原子力安全技術院が国内12ヵ所の測定所すべてで放射性ヨウ素が検出されたことを発表。これで4月3日以降、4日連続で放射性物質が検出されたことになる。中国でも18の省や地域でヨウ素やセシウムといった放射性物質が検出され、専門家が人民日報などで「微量で健康に影響はないが、心配なら雨に濡れないように」とコメントを出す事態になっている。

ガンダーセン氏は巨大原発企業ウェスティングハウス社の元執行役員でもある

 すでに放射能汚染は国境を越えた。そして、いまも水や空気、土に放射性物質がバラ撒かれ続けている。それが現実だ。

 だが、日本政府や原発ムラの人々からは、そういう危機感は伝わってこない。それとも、あえて現実を見ないようにしているのか。

 原子力安全委員会は、これまで1ミリシーベルトだった一般人の年間被曝限度量を、放射線量の高い地域の住民に限り、20ミリシーベルトに引き上げるかどうか検討を始めている。その理由は呆れるようなものだった。

「きっかけは、福島県浪江町の原発から30km圏外の地点で、3月23日から4月3日の大気中の放射線量積算値が10ミリシーベルトを超えたことでした。10ミリシーベルトというのは、屋内退避の目安となる数値に当たります。原子力安全委員会は『放射線量は減っているので、退避する必要はない』という見解を出しましたが、その一方で、被曝の実態に合わせて被曝限度量を20倍に引き上げようとしているのです」(全国紙科学部記者)

 これからも放射性物質が漏れ続けるのは確実なのだから、長期的危険性を考えて、年間被曝限度量を引き下げるというのなら、まだ理解できる。しかし、人間の放射能への耐性が変わらないのに数字のほうを操作するのは、本末転倒も甚だしい。

 4月1日に浪江町に入り、原発から20km圏内の様子を取材したフォトジャーナリストの佐藤文則氏が現地の様子を証言する。

「人の姿を見かけることはほとんどなく、津波直後の姿が手つかずのまま残っている状況です。遺体の捜索もまったく進んでいません。たまに見かける車は、原発の処理に向かう人の車で、彼らは車の中でも防護服を着たままです。たまたま荷物を取りに戻ってきたらしき住民はマスク姿で、それを注意する自衛隊員も自治体職員の姿もない。ゴーストタウンと化した商店街では、置き去りにされた犬たちが餌を探し、牛が通りを歩いていました」

 福島第一原発からの放射能漏れを止めるには、まだまだ長い時間を必要とする。つい先日まで電源装置さえ回復すれば、故障箇所がわかり、炉心を冷やすための冷却水を循環させられると言っていたのに、実際にはその作業が始まった途端に大量の放射能汚染水が見つかり、それが2号機から海に漏れていることも判明した。

 冷却のためには注水しかないが、注水すれば放射能汚染水が漏れる。素人でも理解できるようなジレンマを抱え、漏れ続ける汚染水を止めるために登場したのがおがくずや新聞紙。流出元を調べるべく、汚染水に色を付けようと入浴剤まで登場するに至って、一度暴走しはじめた「化け物」を止めるのに、人類は極めて原始的な手段しか持ち得ていないことが明らかになった。

 細野豪志首相補佐官は、放射能漏れを防ぐまでに「少なくとも数ヵ月」という見解を示したが、多くの専門家は最低でもあと1年くらいは同じような状態が続く可能性が高いと指摘している。

原発推進派が「極めて深刻」と

 それでも、いまだ「安全」を繰り返す政府や原子力安全委員会に対し、原発を推進していた人々からも怒りの声が上がっている。

〈はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします〉

 そんな書き出しで始まる一通の緊急建言書がある。4月1日に発表されたこの建言書の起草者は16人。松浦祥次郎、佐藤一男両氏の元原子力安全委員長を筆頭に、いずれもこれまで原発推進の立場で研究・開発に関わってきた研究者たちだ。彼らの危惧がストレートに伝わってくるので、少し長くなるが、建言書を抜粋する。

〈私達は、事故の発生当初から速やかな事故の終息を願いつつ、事故の推移を固唾を呑んで見守ってきた。しかし、事態は次々と悪化し、今日に至るも事故を終息させる見通しが得られていない状況である。(略)

 特に懸念されることは、溶融炉心が時間とともに、圧力容器を溶かし、格納容器に移り、さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや、圧力容器内で生成された大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである。(略)

 福島原発事故は極めて深刻な状況にある。更なる大量の放射能放出があれば避難地域にとどまらず、さらに広範な地域での生活が困難になることも予測され、一東京電力だけの事故でなく、既に国家的な事件というべき事態に直面している〉

 建言書は、この後、日本が持つ専門的知識や経験を結集して、国を挙げて対応する態勢を作るよう政府に求めている。

 建言書の起草者の一人、元原子力安全委員会委員長代理の住田健二・大阪大学名誉教授が語る。

「我々が出した建言書を、政府もメディアもほとんど黙殺しました。なぜ、これまで原発は安全だと言ってきた我々を責めないのか。自分たちは原発は安全で、あったほうがいいと信じてやってきた。しかし、誤りもあれば結果責任もある。科学者の責任として、そこはちゃんと認めないとならない。

 現在の現場の状況を見ていると、ともかく初めて出くわした事態を前に、決死隊が出てきて、まるで特攻のようです。私にもどうすればいいかわからない。ただ、正確なデータが示されれば、私のような年寄り(住田氏は80歳)でも何か役に立てるかも知れない。そう思うと黙ってはいられなかったのです」

 ここで、放射能汚染が現在どこまで進行しているか、具体的に見ていこう。まずは水への影響だ。

「福島第一原発の事故がスリーマイル島原発やチェルノブイリ原発の事故と大きく異なるのは、海の汚染が大規模になりかねないことです。スリーマイルもチェルノブイリも原発があったのは内陸部でした。しかし、日本の原発は福島第一に限らず、すべて外海に面している。しかも、日本の周囲には親潮、黒潮などが日本列島をぐるりと一回りしているから、海に流した汚染水は海流に乗って日本列島のあちこちに拡散してしまう」(元慶應大学物理学教室助教授・藤田祐幸氏)

 すでに茨城県沖で獲れたコウナゴ(イカナゴ)からは高濃度の放射性ヨウ素やセシウムが見つかっている。今後はコウナゴのような小さい魚を餌にする大きな魚にも汚染が広がり、食物連鎖の過程で、放射性物質の濃度が高まっていく。アメリカ・ロサンゼルスのビジネスマンによれば、普段は健康食として人気が高い寿司バーは早くもガラガラ。マグロやカツオなどの大型魚は、日本沿岸の小魚を餌にして回遊してくるので、アメリカ西海岸での漁業にもダメージがあると懸念されているという。

動揺するからと数値を隠す

 しかも、これまで垂れ流してきた汚染水に加え、4月4日からは建屋内などに溜まっていた基準値の1万~1億倍という汚染水を移すスペースを作るために、1万1500tに及ぶ低濃度汚染水(基準値の100倍程度)を海に流した。これには韓国やロシアから非難の声が上がっており、海洋汚染防止のため、不法投棄などについて定めたロンドン条約違反という指摘もある。

 1993年、ロシアが過去30年にわたって日本海に放射性廃棄物を投棄していたことが発覚した。もちろん、ロンドン条約違反である。これに対し、日本側は強硬に抗議を繰り返したが、いまや立場は完全に逆転してしまった。炉心を冷やすために注水作業を続けるしかない以上、汚染水を再び海に流す事態も十分に考えられる。

「原子力安全・保安院は一貫して『海は広く、放射性物質が拡散するから問題ない』と言っていますが、投棄した汚染水にしても、正確な汚染濃度や、どんな放射性物質が含まれているかを公表していません。それで安全だと言われても判断のしようがない」(日本大学専任講師・野口邦和氏)

 放射性物質には、よく知られるようになったヨウ素やセシウムの他にも様々な種類(核種)がある。核種によって、体内に取り込んだ場合、どこに溜まりやすいかも異なる。たとえば、ストロンチウム90は骨に、セシウムは筋肉に溜まりやすい。より大きな魚に汚染が拡大したとき、骨を食べなければよいのか、それとも身を食べるのもダメなのかを判断するには、どんな核種が漏れたかも重要になる。

 また、水については海や川が汚れ、魚などが汚染されるのとは別に、直接的に人間が摂取する影響も考えなければならない。東京都では3月23日に暫定基準値を超える放射性物質が検出されたとして、乳児への摂取制限を決めたが、翌日には解除。それ以降は基準値を下回ったとし、最近の測定結果には「不検出」の文字が続く。

 しかし、そこにはカラクリがあった。都庁関係者が言う。

「都は東京都立産業技術研究センターに都内3ヵ所の浄水場の水質調査を依頼しています。その際、水については1㎏あたり20ベクレル以下の場合には、放射性物質が検出されても『不検出』として報告するよう指示が出されました。理由は都民に動揺を与えないため、というものです」

 本誌が東京都立産業技術研究センターに確認したところ、検出する機械が1台しかなく、長時間の検査ができないので微量の場合は誤差も考えて「不検出」としていると回答。なお、空気の汚染についても都は、1m3あたり0・1ベクレル以下は「ND(ノーデータ=不検出)」として公表していない。

 この空気の汚染について、原子力安全委員会が、福島県浪江町で放射線量積算値が高くても、線量そのものが減少傾向にあるから大丈夫だと言っているのは前述した通りだ。だが、放射性物質は一度漏れ出したら、空気中を漂い、長期にわたって拡散していく。福島、茨城、栃木、群馬、千葉(一部)の各県でほうれん草などの出荷制限が行われているのも、こうした野菜が空気中の放射性物質を取り込んでしまったからに他ならない。

「野菜が放射性物質を取り込む経路は大きく二つあります。ひとつはガス状の放射性物質を葉の気孔から内部に取り込むケース。もう一つは粒子状のものが直接、葉に付着するケースです。後者の場合は、よく洗えばある程度、放射性物質を取り除くことができます。しかし、気孔から内部に入ったものについては、洗っても簡単には取り除けません」(環境総合研究所・青山貞一所長)

鉄の味がする

 各地の空気中の放射線量については、下の図に示した。一時期に比べ減っているとはいえ、放射性物質が漏れ続けている以上、風向きや雨の影響で一気に数値が上がる可能性は高い。

 特に雨に打たれた空気中の放射性物質は、地表に降り注ぐ。海に落ちれば海流に乗って拡散し、大地に落ちれば地中にまで潜っていく。地下水が汚染される可能性もある。

 日本環境学会前会長で、大阪市立大学大学院元教授の畑明郎氏が語る。

「水も空気も土も、人間が生きていくうえで必要なものです。それらがすべて放射能で汚染されてしまった。その段階になって、あわてて暫定基準値を作って、それより上か下かとやっているのが現在の状況です。

 土壌には放射性物質がどんどん降り重なっていっています。いちばん放射性物質が溜まりやすいのは地表から2~5cmの範囲で、この範囲なら野菜でも根菜類は大丈夫だと思われます。しかし、雨が降り続くと放射性物質が地中に染みこんでいき、根菜類にも被害が及ぶ。環境全体に影響を与える放射能汚染は、生態系そのものを変えてしまう危険性を持っています。そういうことを考えれば、安全だなんて言えるはずがありません」

 日本国内では野菜や魚の出荷制限と、それに関連する風評被害が問題になっているが、海外では残念ながら、日本の食品はすべて安全ではないと見られている。

 いくら政府が不当な禁輸措置を取らないよう求めても、無駄だった。日本に比べて衛生的とは言い難いインドですら、4月5日になって日本からの全食品の輸入を3ヵ月間停止することを決めた。

 それを大げさだと非難することはできない。広島・長崎の原爆、スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故でも、低線量被曝によりその後、がんなどの健康被害が出たという疫学調査の結果もある。

 少しでもリスクがあれば、わざわざ輸入してまで日本の食品を購入したくないと考えるのは当然だ。

 現在のような放射能垂れ流しが1年も続けば、漏れ出す放射能の総量は天文学的なものになることは間違いない。オーストリアの気象地球力学中央研究所は、3月26日、福島第一原発から吐き出された放射性物質はチェルノブイリ原発事故をすでに超えているという予測を発表した。それによると福島第一原発の一日平均の放射性物質排出量は、ヨウ素131で10京(兆の1万倍)ベクレル、セシウム137で5000兆~5京ベクレルと見積もっている。

 あくまで大雑把な試算だが、すでにチェルノブイリを超えているのに、場合によってはさらに1年も放射性物質が出続ける可能性があるということが、いかに尋常ならざる事態であるかは想像がつくだろう。

 これがどんな影響を及ぼすのか、冒頭に登場したガンダーセン氏の話を最後に紹介しておく。

「チェルノブイリ事故の後、いまだにドイツでは猪を食べられません。土壌にたくさんのセシウムが落ち、それが猪の餌となるキノコに吸収されたからです。牛にしても、セシウムに汚染された牧草を食べていたら、その肉を食べてはいけない。

 放射能汚染の影響は、人間ではがんの増加などに表れますが、他にも様々な調査があります。たとえばチェルノブイリ事故から25年にわたって鳥の調査をした結果、脳が10%も小さくなっていたという報告もある。スリーマイル事故でも、双頭の牛が生まれたり、動物の奇形が数多く報告されています。放射能は遺伝子レベルで影響を与えるから、こんなことが起こってしまうのです。

 私は、フクシマの近くに住んでいる人たちに確認したいことがあります。スリーマイルのとき、口の中で鉄のような味を感じた人が非常に多かった。チェルノブイリでも同じようなことを言う人がたくさんいた。フクシマについての報道をチェックする限り、いまはまだそうした証言はないようですが、フクシマ近くの人たちは、そんな鉄のような味を感じたことはないでしょうか」

 安全だ、安全だと言っている間にも、放射性物質はどんどん放出され、自然界に蓄積されていく。もちろん、体内にも溜まっていく。

 そう、この瞬間にも。

 

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