井上 久男井上久男「ニュースの深層」

2011年09月08日(木) 井上 久男

「授業内容が大学側の都合で変更された」と女子大生3人が異例の提訴をした紛争の原因は「学内の権力闘争」

「大阪産業大」HP

 入学前に実施を約束していた講義や指導が大学側の都合で内容が変更され、その結果、資格取得などの面で不利益を被ったなどとして、現役の女子大生が損害賠償を求めて大学を提訴する前代未聞の裁判が起きた。これは、大学側に教育内容の是正を求める訴訟であり、監督官庁である文部科学省は事態を把握して対処する必要があるだろう。

 訴えを起こしたのは、大阪産業大経営学部アパレル産業コースに在籍する2年生の女子大生3人。8月31日付で大阪地方裁判所が訴状を受理した。被告は、学校法人大阪産業大学の土橋芳邦理事長(クボタ元社長・会長)。

 訴状によると、入学金や授業料、教育環境充実費などを納入したことで、大学と学生は在学契約を締結したことになるが、大学のガイドブックや入学案内で実施をうたっている「特別研修プログラム」や「資格取得指導」などを適正に実施しなかったことが大学側の債務不履行にあたるとしている。損害賠償請求額は3人で計約230万円。現時点では提訴したのは3人だが、関係者によると、他の女子大生も訴訟の準備をしているといい、原告は総勢で10人程度に増える可能性もあるという。

 原告側の代理人である山室匡史弁護士は「私の知る限り、多額の入学金等学費の返還を求めた訴訟の最高裁での判例は中高のケースで一件あるのみ。大学に対して学生が教育内容の変更の不当性を訴えて損害賠償請求を起こすケースは下級審で数例の裁判例はあるもの珍しいといえる」と語った。

系列には中田翔の母校も

 大阪産業大は学生が約11000人いる関西の中堅名門私学だ。「関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)」に次ぐ規模だ。学校法人傘下には、日本ハムの中田翔選手の母校で高校野球の強豪である大阪桐蔭高校を抱えている。大阪桐蔭は、スポーツだけではなく、進学指導にも力を入れ、有名大学に多数の合格者を出すなど「文武両道」の高校として関西では知られている。大学は、お世辞にも偏差値が高いとは言えないが、実学を重視する風土を評価する向きもある。

 訴状を見る限り大学側の運営は杜撰に映る。たとえば、入学案内の中で、「特別研修プログラム」では「世界最高水準の素材を集め、世界最高水準の設備・機器で実習を行う」「見学・実習を主体に業界で活躍中のプロが直接指導します」としており、実際、同コースのアパレルルームには最高水準の工業用ミシンなどが備わっているが、「平成22年度後期以降、アパレルルームを用いて実習を行うことが事実上不可能となっており、実際、工業用ミシンを用いた実習は行われていない。さらには、平成23年4月以降、アパレルルームを一方的に閉鎖していまい、アパレルルームの入室すら不可能な状態に置いている」(訴状)状況だ。

 さらに資格取得指導でも入学案内で、「ファッションビジネス能力検定」など業界で広く認められている資格の取得を応援する、と紹介している。しかし、「パターンメイキング技能検定3級」の資格取得では、1年次の後期から2年次の前期にかけて試験や実技指導の講義を実施し、2年次の6月上旬にある筆記試験、9月下旬の実技試験に備える計画でありながら、「現時点で、実技試験対策向けの指導が行われておらず、これでは試験に間に合いません。困った学生が自費で会議室を借り、外部から指導者を呼んで実技指導を受けている状況」(関係者)という。

 訴えた女子大生の母親の一人は筆者の取材に対してこう語った。

「娘が高校3年生の時、専門学校に行くかどうか悩んでいた際に私と一緒に大阪産業大の『オープンキャンパス』に出かけ、アパレル産業コースの教育の内容を聞きました。このカリキュラムなら将来の就職に役立つと思い、受験を決めて入学しましたが、今の講義内容は約束と違います。娘が大学側に是正を求めましたが、大学側が娘を脅すような言動を取り、娘が怖がっているので、訴訟に踏み切りました」

 この訴訟に対して、内容の確認等を求めて大阪産業大学に質問状を送ったところ、同大学からは「この件に関しては弁護士に一任しているのでコメントできない。取材にも応じかねます」との回答だった。

ビジネスクラスにアップグレードしたことを理由に懲戒解雇

 ここまで学生側と大学側の関係がこじれた背景には、大学内での「権力闘争」がある。昨年9月10日付の本コラムにて筆者は「『改革派事務局長』」が次々に追い出される大阪産業大学の迷走」と題して、権力闘争のことを書いたが、その「延長戦」がいまだに続いている。

 改革派事務局長の重里俊行氏(昨年12月22日付で懲戒免職)が、法人運営の実務の責任者として、資産運用失敗の尻拭いや無駄な経費の削減、学生のストレート卒業率の向上などに取り組んだが、現場の一部の教授陣らの猛反発に合い、その勢力と一部の理事会が結託し、ささいな失言を理由に重里氏を事務局長から追い落とした。

 その過程で、重里氏は常務理事事務局長職を解任され、経営学部教授の仕事に専念することになった。

 しかし、その後、担当するアパレル産業コースの欧州実技研修の際に、重里氏が追加経費を学生から3~5万円徴収したことが私的流用と判断されたほか、欧州に行く際に航空券がアップグレードされてビジネスクラスに載ったことが就業規則違反に当たるなどとして懲戒解雇処分を受けた。大学側はこの懲戒処分をホームページ上で公開し、大学運営や教育とは直接関係ない重里氏のプライバシーまでも暴いている。

 しかし、そもそも追加経費を徴収したこと自体、懲戒解雇にあたる行為かといえば疑わしい。なぜなら「その追加経費は研修期間中の学生の食費等に充てるためのもので、親の了解も得て徴収しており、重里氏が自分の懐にお金を入れたわけでもなく、旅行代理店の口座に保護者が振り込んだ」(関係者)という。

事件を新聞が報じない理由

 大阪産業大側の重里氏の追い落とし工作は常軌を逸していた。ある教員が女子学生に「重里先生にセクハラを仕掛けてくれないか」とハニートラップ持ちかけたケースもあった(女子学生が陳述書として提出)という。このほかにも、重里氏のことを調べるため、探偵事務所に100万円を支払う稟議書も筆者は入手している。

 要は大学側が、凄腕で経営改革を迫る重里氏の存在が厄介になったのだと、筆者には映ってしまう。そして、完全に葬り去るために、「微罪」で懲戒解雇にしたのだ。現在、重里氏は不当な解雇だとして訴訟を起こしている。

 そもそもアパレル産業コースは4年前に重里氏が中心になって設置したコースであり、大学側も女子学生を増やす切り札の一つとしてPRに力を入れた。2008年10月6日付朝日新聞大阪版も「大阪産業大 アパレル産業コース 衣の世界、広く深く」と題して大きく記事を掲載している。産業界にも顔が広い重里氏が、実務系教員を集めて実践的な講義を展開していた。

 しかし、重里氏を追い出したことで、実務系教員による講義が疎かにになり、入学前に説明していた通りの教育ができなくなったのである。そして学生や保護者の怒りは頂点に達して提訴に至ったのだ。

 懲戒処分の前の昨年9月、重里氏は出勤停止処分を受け、そのころから講義の運営に支障をきたすようになり、保護者側からの不満も渦巻いていた。学生や保護者が集会を開き、大学運営の正常化を涙ながらに訴えていた。

 大マスコミはこうした事態をほとんど伝えない。特に大新聞は、大阪産業大の学生募集などの広告をよく掲載しており、スポンサーに配慮でもしているのかと勘繰りたくなる。