近藤 大介北京のランダム・ウォーカー

2011年09月05日(月) 近藤 大介

野田新政権誕生に期待感よりも警戒感の方が格段に強い中国
新首相の対中外交に注目

野田佳彦新政権が発足した〔PHOTO〕gettyimages

 9月2日、野田佳彦新政権が発足したことは、こちら中国でも大々的に報道された。思えば野田氏が民主党代表に選ばれた8月29日から始まり、先週一週間は、野田新政権に対する中国人の官僚やメディアからの問い合わせが、私のところに数多く来た。日本人同様、中国人にとっても、野田政権誕生は青天の霹靂で、「野田佳彦って一体どんな人?」と興味津々なのだ。

 以下、中国人たちから寄せられた主な質問と、私の独断と偏見による回答だ。

 Q:日本にとって今回の選択は良かったのか、悪かったのか?

 A:野田氏は言ってみれば、「民主党最後の切り札」だ。その意味で今回、野田氏を民主党が選んだことは正しかった。野田氏がダメなら、もう民主党はダメだ。

 Q:野田佳彦という政治家は、中国から見たらまったく無名で、摑みどころがない。過去の日本の首相にたとえれば、もしくは日本の歴史上の人物にたとえれば、誰のようなタイプか?

 A:まず、日本の歴代首相にたとえると、小渕恵三タイプではないか。つまり、「オレについて来い」という引率型のリーダーではなく、「皆の意見を集約しよう」という調整型のリーダーだ。

 野田首相は、いま出ている『文藝春秋』9月号に「わが政権構想」という寄稿文を寄せていて、そこでは「政治とは何か」という独自の解釈論を述べている。

 〈 政治とは、相反する利害や価値観を調整しながら、粘り強く現実的な解決策を導き出す営みです。そして議会制民主主義の要諦は、対話と理解を丁寧に重ねた合意形成、すなわち「段取り」にあります 〉

 すなわち、野田首相にとって、自身の強力なリーダーシップよりも、合意形成、段取り、根回しといったものを重視する「純和風政治家」なのだ。

 また、日本の歴史上の人物にたとえるなら、徳川家康タイプではないか。顔も何となく似てません?(笑)。野田氏は、我慢、我慢、さらに我慢と、衆院初当選から18年間、我慢を重ねて、ようやく政権奪取に成功した。24年間も毎日、地元選挙区で街頭演説を続けてきた政治家など、野田氏くらいのものだ。

 Q:日本は一体、何人首相が代わるのか? 民主党政権になって2年間で、もう3人目の首相だ。そのため、鳩山由紀夫政権、菅直人政権に続いて、野田新政権も短命に終わるだろうという見方が、中国では大勢を占めている。「ワリバシ政権誕生」と見出しに書いた中国の新聞もある(笑)。

 A:私は短命政権になるとは決して思わない。少なくとも、衆院選が予想される再来年の夏までは続投するのではないか。何と言っても、現代版の徳川家康なのだから。その意味では、中国メディアには「銀箸政権」(かつて中国の皇帝は専用の銀の箸を使った)と書いてほしかった(笑)。

 野田佳彦という政治家の最大の特徴は、決定的な政敵がいないことだ。中国メディアも日々伝えているとおり、民主党内の権力闘争は凄まじく、かつての自民党内の権力闘争を彷彿させるものがある。ところが野田佳彦に関しては、あからさまな拒否反応が、党内のどこからも起こっていない。党内の実力者である小沢一郎元代表とは近い関係にはないが、その小沢氏も野田氏がノーかと言えば、そうでもない。この点は、「盟友」の前原誠司元外相とは決定的に異なるところだ。

 かつ野田氏は、野党の自民党や公明党まで取り込もうとしている。このような手法は、かつて自自公連立政権(自民党+自由党+公明党)を作った小渕元首相の手法とそっくりだ。
Q:中国メディアには、「野田新政権は、長期化する日本経済の危機を本当に救えるのか?」といった疑問符の付いた記事が多く出た。その点、野田新首相は大丈夫なのか。

 A:財務大臣としての野田氏の評価は、財務省内で頗る高い。野田新政権誕生後、知人の財務官僚に聞いたところ、次のように語っていた。

 「菅直人政権が窒息死寸前の8月24日、野田財務相は、外国為替資金特別会計に総額1000億ドルの融資枠を設けるという、大型の円高対応策を発表しました。さらにこの時、省内の会議で、『今週末にバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演があるので、そこでの発言を注目しよう』と述べました。その週末は民主党代表選挙で、54年の人生で最も多忙な週末になることが見えているというのに、本当に仕事の手を抜かない人だと感心しました」

 野田新首相は、おそらく早い時期に、消費税アップを行おうとするだろう。だがこれによって日本経済が停滞するとは思わない。むしろ鳩山、菅といった歴代の「経済素人首相」よりは、よほどうまい舵取りをするのではないか。

 Q:それでは、野田新政権の外交は、どういったものになるか? 中国メディアは、「小泉時代ソックリの'アメリカ礼賛外交'の復活か」と報じているが。

 A:日米同盟の強化という点では、確かに「小泉的」だ。首相になって即、オバマ大統領との電話会談を行い、9月の日米首脳会談の約束を取り付けたところを見ても、アメリカには相当気を遣っていることが分かる。

 だが小泉氏と異なる点は、「アメリカは最重要だがすべてではない」と考えていることだ。つまり中国を始めとする対アジア外交も、対アメリカ外交に準じる形で重視する。

 野田外交とは一言で言えば、自身がこれまで永田町で培ってきた「中庸政治」の「応用編」だ。すなわち民主党の国対委員長として、国会で多党間交渉を行ってきたことを応用し、多国間外交を行っていこうということだ。その意味では、全方位外交と言える。

 Q:「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」とする野田首相の主張が、中国では猛反発を受けていて、新聞は「極右政権誕生」と書き立てている。父親は自衛官だったし、野田首相は、ゴリゴリの右翼政治家なのか?

 A:そんなことはまったくない。日本の政治家はそれぞれの歴史観を持っている(最近は歴史観を持たない政治かも増えたが)。野田氏の「A級戦犯発言」は、「反中国」とイコールではまったくない。それは小泉純一郎元首相に対する中国人の誤解と同じものがある。小泉首相は確かに毎年、靖国神社を参拝したが、それ以外の政策において「反中的」であったことは一度もない。

 たしかに野田氏は、小沢一郎氏のように143人もの国会議員を引き連れて訪中したり、海江田万里氏のように漢詩を詠んだりはしないが、中国は戦略的に重視している。野田氏はこの一年間、財務大臣を務めていて、世界第二の経済大国に躍進した中国の重要性を、十分認識しているということだ。

 こうしたことを踏まえると、野田新首相の対中外交の原則は、次の4点と思われる。
1.アメリカの利害に反する対中政策は取らない。
2.政治面よりも経済・金融面から中国を捉える。
3.中日二国間外交よりも多国間外交の中での対中外交を重視する。
4.日本の国益を最優先させ、それと合致しない中国側の行動には断固とした措置を取る。

 以上が中国人との「対話」である。私自身は大いに期待しているのだが、中国の見方は総じて言えば、「日本は一体何人トップが変わるの?」という驚きであり、呆れである。そして野田新首相に対しては、期待感よりも警戒感の方が、格段に強い。

 中国は、日本の最大の貿易相手国であり、年間3000億ドルという巨大ビジネスが、日中間で動いている。野田新政権の対中外交に注目したい。