週刊現代経済の死角

2011年09月08日(木) 週刊現代

バカ売れ「一時払い終身保険」の落とし穴
ニッセイ『夢のかたち』
明治安田『エブリバディ』

 銀行の定期預金に預けておくより30倍以上も利回りがよくて、しかも株や投資信託より安心---こう聞かされれば、誰しもその商品に関心を抱くだろう。しかし、おいしい話には「ワケ」があった。

「高い利回り」が売りの商品

「退職金の運用方法について、銀行の窓口で相談したところ、『一時払い終身保険』をすすめられました。万が一の備えになるだけでなく、途中で解約しても『年率1%以上の利回りが期待できるので、定期預金よりお得』『相続税対策にもなる』というのです。その上で『退職金1500万円のうち、300万円を手元に残して、1200万円の一時払い終身保険に加入してはどうか』と。果たしてこれだけの大金を注ぎ込んでも本当に大丈夫なのでしょうか」

 こう不安を口にするのは、60歳で定年退職したばかりのある男性だ。

 銀行の窓口で販売している「一時払い終身保険」がバカ売れしている。契約時に保険料を全額支払う貯蓄型保険で、メガバンクの定期預金より利回りがいいため、その代替商品として人気を集めている。株や投資信託のように元本を大きく下回るリスクは小さく、法定相続人一人あたり500万円までの非課税枠があるので、相続税の節税対策にもなるなどの特徴がある。

 一方、銀行側にとってみれば保険料の3~5%の販売手数料が入るので、おいしい商品といえる。

 日本生命は、'10年12月に発売した一時払い終身保険『夢のかたち』のヒットのおかげで、'10年度の金融機関窓口における収入保険料は前年度より700億円も多い、過去最高となる4517億円を達成している。

『エブリバディ』などの一時払い終身保険を販売している明治安田生命は、さらにすさまじい。'11年4~6月期の銀行窓販の保険料収入は4704億円で前年同期の2.27倍。このうち一時払い終身保険の占める割合は4400億円というから、まさに稼ぎ頭だ。

「この超低金利時代の中、貯蓄性を兼ね備えた相続対策としての終身保険という特徴が、お客さまのニーズに合致したのではないかと考えています。当社の場合、契約者に多いのは60代と70代で、保険金額は500万~1000万円です」(明治安田生命広報部)

 生保・銀行業界には「追い風」も吹いている。「生保に加入しなければ追加融資しない」といった販売手法を防ぐため、これまで銀行が融資先企業の経営者などに対して一時払い終身保険を販売することは禁止されていた。しかし来年4月以降、それが解禁されるのだ。

「規制解除されたことで、一時払い終身保険は、今後ますます販売の伸びが期待されます」(保険コンサルタントの隆山唯史氏)

 販売しているのは日本生命や明治安田生命だけでない。住友生命の『充実クラブS』をはじめ、外資系も含む多くの生保各社が銀行の窓口を介して発売しているが、なぜ、ここまで一時払い終身保険が売れまくっているのか。

 その理由としてまず挙げられるのは、一般的な生命保険よりも加入のハードルが低いという点だ。ニッセイ『夢のかたち』の場合、入院中および一時退院中の患者を除き、簡単な手続きだけで申し込むことが可能だという。

「幅広い年齢層のお客さまに気兼ねなくご提案ができるよう、健康状態の告知を必要としない商品設計にしています」(日本生命広報室)

 株や投資信託の騰落予想は至難の技だが、『夢のかたち』の解約払戻金は15年目まで一定の利率で着実に増えていき、その金額が契約した時点ではっきりわかるのも、人気の理由だ。

 契約する月ごとに払戻金の予定利率は変動するが、今年8月の場合、1.15%。もし今月中に契約すると、その数字は15年目まで変わらない。仮に60歳男性が1000万円の保険料を払った場合、10年経過後の払戻金は1042万円、15年経過後は1082万円となる。ちなみに16年目以降の予定利率は、1%が最低保証されている。

元本割れのリスク

 これに対し、明治安田生命の『エブリバディ』のパンフレット('11年4月版)によれば、60歳男性で1000万円保険料を払った場合、10年経過後の解約払戻金は1105万円となっている。本誌記者がみずほ銀行のある支店を訪れると、窓口担当者は、『エブリバディ』についてこう説明した。

「年齢にもよりますが、たとえば300万円のご契約となりますと、10年経過後の解約払戻金は約330万円です。つまり、年率1%の利回りが期待できますので1年で3万円プラスされる計算です。定期預金の金利は0.03%ですから、1年で900円。経済情勢がよくなるまでは、こういった形(一時払い終身保険)で持ち続けるというのも『アリ』だと思います」

 加入しやすくて元本が定期預金よりも増え、しかも死亡保障まで付いている一時払い終身保険は、いいことずくめのように感じる。

 だが、果たして本当に「お得」なのか。専門家に聞いてみると、知っておかなければ損をする「落とし穴」がいくつかあった。

 まず注意したいのは、一時払い終身保険を短期間で解約すると、元本割れすることがある点だ。

 60歳男性が1000万円の契約を結んだ場合、ニッセイ『夢のかたち』なら1年後の解約払戻金は970万円、3年後979万円、5年後990万円。7年経過しないと、元本には到達しない。明治安田の『エブリバディ』は1年後980万円、2年後992万円。1000万円になるのは3年後だ。

 ライフカウンセラーの紀平正幸氏がアドバイスする。

「老後は予期していなかった家のリフォームや、本人の病気、配偶者の介護など、まとまったお金が急に必要になることも多い。解約時期によっては元本割れしかねない一時払い終身保険は避けたほうが無難です」

 実は、銀行窓口で契約すると損する場合がある。

 ニッセイの他の代理店では『マイステージEX』という一時払い終身保険を扱っている。同社HPで解約払戻金のシミュレーションをしてみると、元本の1000万円を超えるのは4年後、75歳時の解約払戻金は1094万円となった(60歳男性が保険料1000万円を一時払いする設定)。

 ここでおさらいしておくと、銀行窓販で扱われているニッセイ『夢のかたち』の解約払戻金が元本を超えるのは7年後、75歳時の解約払戻金は1082万円だった。同じ1000万円を支払った一時払い終身保険なのに、両者のこの「差」は何なのか。同社広報室の担当者は、

「『マイステージEX』は契約当初から大きな死亡保障を確保できる一方で、健康状態に関する告知が必要となるなど、商品設計が大きく異なっています」

 と、説明するが、生命保険コンサルティングを手がける「アセットマネジメント」代表の本多良美氏が次のように補足する。

「生保のセールスレディと契約する場合、医療機関に一緒に行って診察を受けることがあります。銀行窓販の場合、保険というよりは『資産の置きどころ』という発想から始まっているので、極力診察は避けたい。ターゲットは70歳、80歳の高齢者ですから、どこか健康状態に問題がある人が多く、あまりハードルを高くすると、入れなくなってしまう。ハードルを低く設定している分、短期間のうちに亡くなってしまうリスクもあるので、基本的に告知が不要な銀行窓販のほうが保険料が割高なのです」

実際の金利は半分以下

 落とし穴はほかにもある。契約時に10年後あるいは15年後の解約払戻金が確定していることが人気のひとつなのは、先述の通り。だが、それが逆にリスクになると、ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓氏が警告する。

「仮にこの先、金利が大幅に上昇すれば、1%程度の予定利率が保証されている一時払い終身保険を解約する契約者が大量に出て、その支払いのために保険各社の経営状態が悪化する危険性もある。そうなった時、破綻を未然に防ぐために死亡保険金の減額や利率の引き下げが行われても、不思議ではないのです」

 予定利率1%と聞いて安易に飛びつかないほうがいい。よくよく計算してみると、実際の利率は半分以下に過ぎないケースがあるからだ。前出の紀平氏が言う。

「『夢のかたち』の場合、8月の予定利率が1.15%でしたら、本来ならば支払った1000万円が10年後には1150万円になっているはず。ところが、銀行窓口で確認できる解約払戻金額例表によれば、10年後に解約すると1042万円しか返ってこない。

 これはなぜかというと、生命保険の場合、予定利率は、支払った保険料すべてに適用されるのではなく、人件費や経費などのコストを引いた、残りの部分に対して適用されるからです。

 従って解約払戻金額例表等で『予定利率1.15%』と謳われていても、実際には10年たっても、その半分以下の0.42%しかついていないということ。だとしたら、ネット銀行の定期預金のほうがお得な場合があります」

 たとえばソニー銀行の10年定期に1000万円預けると利率は0.577%になる。金融機関で購入可能な新窓販国債10年(8月債)の利回りも、0.779%(税引き後)だ。

 こうした数々の落とし穴を知った上で、一時払い終身保険への加入を検討すべきだろう。

「週刊現代」2011年9月10日号より