河野 文香経済の死角

2010年02月06日(土) 河野 文香

「しまむら」はユニクロを超えるか
“しまラー”大増殖中!
モデル益若つばさも、女子高生も大好き

“一人勝ち”と言われた『ユニクロ』を猛追する衣料専門店『しまむら』。この不況下で成長し続ける秘密はどこに!?『しまむら』の強さに迫った!
三軒茶屋店では、若い女性の二人組やカップルなどが、次々と店内に吸い込まれていた

“しまラー”が続々来店する東京「三軒茶屋店」のヒミツ

「ホントに三茶にもできたんだ~♥」と、流行りのライダースジャケットに身を包んだギャルたちが、小走りで向かった先にあったのは・・・・・・“若者が集う人気のセレクトショップ”、ではなく、“主婦が集う『ファッションセンターしまむら』”(以下、『しまむら』)だった。

500円前後のコサージュを購入した高沢香苗さん(24)。月に2回は来るそうだ

 店内をのぞいてみると、若い女性客やカップル、女子高生などが「超安い!」「3着買っても5000円以下なんだけど!」と、買い物カゴ片手に店内を行き交っている。500m2ほどの小規模な店内には、ファッション誌で見かけるような鮮やかでオシャレなアイテムが並んでいる。なんなんだこの光景は!?

 これまで『しまむら』といえば、郊外の幹線道路沿いに建つ主婦たちの衣料品スーパーだったはず。安いけどダサい、そんなイメージが強かった。しかし、ここ数年、そのブランドイメージが変化している。例えば、昨年末に行われた『2009年 ユーキャン新語・流行語大賞』の授賞式に登場したカリスマモデルの益若つばさ(24)。この日、彼女が着用していたのは『しまむら』の970円のファーベストだった。そう、彼女は『しまむら』を愛用する“しまラー”の一人なのだ。そんな彼女が火付け役となり、若年層にも『しまむら』が浸透。いまや街には“しまラー”ギャルたちが増殖している。

「確かにこれまでは節約志向の主婦たちが、下着や靴下などの実用衣料を買いにくる店というイメージでしたが、'01年あたりからトレンドを意識した商品開発を行うようになり、ここ数年でかなり垢抜けたと思います」

 こう語るのは、『ユニクロVSしまむら』(日経ビジネス人文庫)の著者・月泉博氏である。ブランドイメージの変化によって、若年層を取り込み始めた『しまむら』は、消費低迷が嘆かれている昨今のアパレル業界において、安定した成長&拡大を続けている。果たして、その強さはどこにあるのか!? 『しまむら』の秘密を探ってみた。

『しまむら』のここ10年間の売上高、店舗数、経常利益をグラフ化すると、すべてが右肩上がりで成長していることが分かる

 まずは、右の図表を見ていただきたい。不況が続く逆風下で、着実に右肩上がりの業績を見せ、この10年余りで売上高が2倍近くまでに拡大しているのが分かる。また、日本経済新聞社が発表した『第42回日本の小売業調査』('09年6月)によると、衣料品小売業としては1位の『ユニクロ』に次ぐ2位をマークしたのだ。

 昨年12月に発表された'09年3~11月期の連結決算を見ても、売上高は5%増の3216億円、営業利益は12%増の284億円、純利益は前年同期比15%増の165億円と、好成績を叩き出した。

「'01年8月期に過去最高売上高を達成した後、失速を見せたことのある『ユニクロ』に対して、『しまむら』はブレのない安定成長型なんです。メディアに踊らされることなく、石橋を叩きながら自分たちで考え・実践してきた、真面目で慎重な姿勢が増益し続ける要因の一つでもありますね」(月泉氏)

ブーツを購入した秋吉美紗さん(20)と長谷川美幸さん(21)。二人は看護学校生宇保ちえさん(23)が履いているブーツは『しまむら』で購入したものだそう

 そんな『しまむら』の経営戦略の最大のポイントは、日本の他の企業に類を見ないほどの、圧倒的な経費率の低さによる低経費構造だと月泉氏は語る。

「通常、アパレル小売業の経費率は40~45%なのですが、『しまむら』はそれを20%台前半に留めているんです。経費コストがかからない分、粗利益率が低くても事業が成り立つ。実際、『しまむら』の粗利益率は業界内で最も低いんですよ。だからこそ、現在のような低価格を実現できるんです。経費構造を低くすることによって、商品は安く売れるし、粗利益よりもコストが低ければ、きちんと利益も出る。それが『しまむら』の掲げる“低経費構造がすべてを癒す”といった企業理念なのです」

 低コスト体質を可能にしている要素は、大きく見て三つあるという。

(1)100%自前の物流体制
(2)専門社員による商品の徹底管理
(3)綿密なマニュアルによるパート管理

 なかでも(1)は、最大の強みといっても過言ではない。

「『しまむら』は、物流コストを極限まで減らすために、商品の輸送などをすべて自社でまかなう完全自前の物流体制を築いてきました。それによって、荷物1個あたり60円以下という、宅配便の4分の1ほどの低輸送コストを実現させたのです。その破格とも言える物流コストのおかげで、店舗間での商品の移送も、わずか1枚単位でできるようになっているのです」(月泉氏)

郊外店をがっちり支える現地パート社員のパワー

 そして、全国に配送された商品は「コントローラー」と呼ばれる50名ほどの社員によって、売れ残りが発生しないよう徹底的に管理されている。それが(2)だ。商品のロスを極限まで減らせるのも、(2)があってこそ成せる業なのだ。さらに、(3)も『しまむら』の高収益を支える要因の一つである。

「全従業員の8割以上をパート社員が占めている同社には、彼らを即戦力化するために、A4判で全10巻にも及ぶマニュアルがあるんです。接客からレジの扱い、端末操作、掃除のやり方まで書かれており、総ページ数はなんと1000ページを超えます。しかもこのマニュアルは、パート一人ひとりの業務改善提案によって常に変化し、3年も経てば内容がガラリと変わるんですよ」(月泉氏)

 それにしても、『しまむら』はなぜこれほどまでパート社員の比率が高いのだろうか? 藤原秀次郎会長は、ビジネス誌『PRESIDENT』('99年3月号)で、こう語っている。

<とにかく優秀な人材が欲しかったんです。優秀な人がいれば、人件費は高くても業績は上がるし効率がいい。(中略)優秀でも仕事のない人がパートだった。同業の人がパートの活用について聞きに来るけど、人件費が安上がりだと思って聞きに来る。それは大間違いです。そんなつもりでパートを採用していません>

 優秀な人材には人件費を払う。その言葉通り、『しまむら』のパート時給は、その地域においてトップクラスの高さを誇る。賃金の安さで人件費コストを抑えるのではなく、標準化されたマニュアルをもとに、一人ひとりの効率を上げる。それによって無駄な人件費を削減する。これこそまさに、“従業員あっての会社”という藤原会長の経営理念の現れだ。

 そして、これらの低経費構造に加えて、出店前の緻密な立地調査も同社の強みだと月泉氏は語る。

「業界内では非常に希有なことですが、『しまむら』は過去にスクラップした店が10店舗程度なんです。候補地探しから土地所有者との交渉、手続きまでの過程はもちろん、人や車の動線を踏まえた上で出店を決定する。かつては藤原会長自らがセスナ機に乗って、上空から候補地調査を行っていたんですよ」

 組織の運営に関わることすべてを本社でまかない、アウトソーシングにはいっさい頼らない。自力で改革を重ねてきたこの経営スタイルが、成長を持続させる要因でもあるのだろう。

 そして、昨年度の業績アップには、PB(プライベートブランド)商品と若者向け衣料の売れ行きが大きく影響している。東レと共同開発を行った高機能肌着「ファイバーヒート」などのPB商品は、全売上高の約33%を占め、利益率を改善させた。そして、冒頭でも触れた、益若つばさのプロデュースによる「S-leg」など、若者向けのトレンド衣料も好調な数字をマークした。PB商品の強化や婦人服の充実は『しまむら』が'09年に掲げていた課題でもあったのだ。

 また、店頭在庫を減らして売り場通路を増やしたことや、店舗ごとの立地や客層に合わせた品揃えを強化したことも増収につながったという。

こちらは西大宮店。幹線道路に面しており、駐車場も広いので、車でのアクセスがよく人気だ 〔PHOTO〕武藤由香里

 その代表的な郊外店が埼玉県大宮市にある。西大宮店だ。その中をのぞいてみると、三軒茶屋店との違いに気付く。1000m2ほどの広い店内には、ベーシックなアイテムが多く、衣料品のほかに、インテリア雑貨や寝具、幼児用の玩具、オムツまで売られている。“所変われば品変わる”とはまさにこのこと。また、店内にいる客も、ベビーカーを押す若い主婦や、子ども連れのファミリーなどが目立つ。店から出てきた客に話を聞くと、例えばこんな声が・・・・・・。

「子ども服は消耗品だから安く手に入れたいんです。ここなら100円台で買えるから、月に1度は家族で買い物に来るんです」(34・主婦)

西大宮店の店内は通路も広く開放的。店員からの声掛けがないのも、買い物がしやすい要因に 〔PHOTO〕武藤由香里

「息子の靴下や主人の肌着を買うことがほとんど。買い物カゴ二つ分くらい買って帰るの」(52・主婦)

 この西大宮店は、グループで展開しているヤングカジュアルの『アベイル』、ベビー・子ども用品の『バースデイ』、靴専門の『ディバロ』を併設する「ファッションモール」である。そのため、実用品を買いに来る主婦たちの他に、ファッション品を買いに来る客も多い。

 『アベイル』をのぞいてみたところ、やはり店内には10代後半~20代前半くらいのギャルたちが、試着を重ね、服を吟味していた。

 『アベイル』で若年層を取り込み、ベビー用品店『バースデイ』でヤングファミリー層も取り込む。そして、従来の『しまむら』でしっかり主婦層も掴む。こうした客層に合わせた店舗展開、いわゆるブランド化にこそ、ここ数年の業績アップの秘密が隠されているようだ。

迷ってしまうほどのアイテム数が魅力

 実は'01年2月、『しまむら』は7期ぶりとなる営業減益に陥った。安さ一辺倒で展開してきた従来の商品が売れなくなり、客単価が大きく下落し、収益性が低下した。初めてぶつかった成長の壁である。そこで『しまむら』は、年に4~6回ほど海外にバイヤーを派遣し、ファッションのトレンドを探る海外研修を始めた。従来の路線とは異なる、最新流行を取り入れた商品展開もスタートさせた。これが打開策となり、その結果、「『ユニクロ』とともに、2大巨頭としてアパレル業界に君臨する」(月泉氏)存在となったのだ。

 『しまむら』のブランド化を積極展開したのは、'05年に藤原前社長(現会長)からバトンを受け継いだ野中正人社長だ。

100円台の商品は当たり前。小物類などは1000円以上の物を探すほうが難しい 〔PHOTO〕武藤由香里

<安いのは当たり前ですが、流行の商品がきちんと揃っていて、そのうえ機能的にも満足できる。そんな商品を売っている店として、強く印象づけたいと思っています。つまり、しまむらの“ブランド化”を図りたい。ブランドといっても、当然、世間で言われている高級ブランドのイメージではなく、『しまむらってどんなお店』って聞いた時に、安くても流行のものを売っていると、はっきりイメージできるお店にしたいのです>

 野中社長は、『日経ビジネス』('09年8月31日号)でこう語っている。野中社長が掲げる“ブランド化”は、見事に成功したように思える。

 事実、三軒茶屋店を取材した際、店を訪れていた20代の女性客は、

「渋谷のお店や雑誌で見たアイテムと似たようなものを探しにくるんです。流行のものはどうせワンシーズン着れば飽きちゃうから。『しまむら』で買ったんだ、なんて友達に話すと、賢い! とかって言われちゃいます」

 と話した。そう、若い女性たちは安くて流行している商品を求めて足を運んでいるのだ。

 とはいえ、安値で流行を買えることだけが、若年層から支持される理由ではない。ファッションジャーナリストの宮田理江氏は『しまむら』の魅力をこう語る。

「複数のテイストをミックスする最近流行の着こなしに、『しまむら』の商品はパーツとしてうまくはまります。強すぎない個性があるので、ほどよくミックスして自分らしさを演出しやすいのです。また、アイテム数の多さも大きな魅力です。アクセサリー、バッグ、靴など、アパレル以外の品揃えが充実しているので、1カ所で買い物を済ませられる便利さも支持されるポイントですね。これは、仕入れ販売業態の同社ならではの強みと言えます」

母娘で来ていた16歳の女の子はサロペットを購入。親子連れもかなり多い 〔PHOTO〕武藤由香里

 確かに『しまむら』の店内には、トレンドアイテムからベーシックな商品までがズラリと並んでおり、全商品を見て回るには半日以上を要しそうだ。そのうえ、色やデザインもかなりバラエティに富んでいるので、ちょっと迷ってしまうこともある。しかし、だからこそ、自分の好みに合った商品が見つかったときは、なんだかとてもうれしい気持ちになるのかもしれない。『しまむら』での買い物は宝探しのようだ、と感じた。

「近年、外国からたくさんファストファッションやカジュアルファッションのブランドや店舗が入ってきています。でも、日本人の体形を一番よく知っている日本発ブランドが勢いを持つのは、多くの消費者をハッピーにします」(宮田氏)

 果たして今後、ユニクロに肉薄するブランド展開を見せている『しまむら』はどうなっていくのか。前出の月泉氏は次のように話す。

「'07年にオープンした高田馬場店、昨年末にオープンした三軒茶屋店とも規模は小さいものの、郊外の大型店舗を上回る売上高をマークしています。これまで『しまむら』にとって空白だった都心部に、実験的な進出を図った結果、見事に当たったわけです。これを機に、今後は都心部での本格的な事業拡大に乗り出すことでしょうね。彼らのことですから、都心部での成功パターンも着々と研究を重ねているでしょうし、これまでの戦略をもってすれば、確実に売り上げは伸びていきます。国内売上高だけでいえば、『ユニクロ』を超える可能性だって充分にあります」

 そして、ユニクロと同様、この先、海外進出の可能性すらあるかもしれない。「海外での本格的な事業展開はまだ視野に入れていないようですが、これだけの安値と商品のバラエティがあれば、アジアでの成功も夢ではないでしょう」(月泉氏)

 はたして先導役となるのは、やはり“しまラー”なのか。和製ファストファッションが世界を取り込む日も近い!?

“しまラー”の火付け役 益若つばささんを直撃!

『2009年 ユーキャン新語・流行語大賞』の授賞式にも『しまむら』のファーベストを着て登場した益若さん 〔PHOTO〕中村和彦 香川貴宏

若者の間に『しまむら』の存在を知らしめるきっかけとなったのが、益若つばささん。彼女に『しまむら』の魅力を語ってもらった!

━━━ 『しまむら』で買い物をするようになったきっかけを教えてください。

「埼玉にある実家のすぐ近くに『しまむら』があるので、小さい頃から母親とよく買い物に行っていたんです。中高生になって、自分で洋服を買うようになってからも、『しまむら』はよく利用していましたよ」

━━━ 今でも足を運ぶ機会は多いんですか?

「実家に帰ったときは必ず行きますね。おそらく、月に1回は行ってるんじゃないかな・・・・・・。『しまむら』のハシゴとかも全然しますから(笑)。多いときで、一日に3店舗くらいは車でハシゴしちゃいます」

『しまむら』がメインの販売先となっている、『福助』とのコラボ商品『S-leg』。こちらは公式サイト

━━━ どんな商品を買うことが多いんですか?

「タオルやシーツ、靴下とかが多いかな。でも最近は、息子の上着やズボンを買うことも多いです。1着1200円くらいで買えちゃいますからね。いつも8点ぐらい手にとってるかな。たいてい、一度に総額1万円くらいは買い物をしていますね(笑)」

━━━ 靴下といえば益若さんがプロデュースされている『S-leg』。これらを開発される際に苦労したことなどありましたか?

タイツ(右)は1029円、ソックス(左)は609円。2月下旬より子ども向けの『S-leg petit』も販売開始

「ソックスとかのデザインは初めてだったので、洋服とは異なる縫製のやり方に戸惑うことが多くて・・・・・・。何度も修正を繰り返し、半年以上かけて作り上げたんですよ」

━━━ 特にこだわったポイントは?

「色ですね。日本ではあまり売られていないようなカラーリングを意識しています」

━━━ では最後に、益若さんが感じている『しまむら』の魅力を教えてください。

「まず第一に安くてカワイイこと! 特に安さは魅力です。あとは、メンズから子ども服までオールジャンル揃っていることかな。両親や子どもと一緒に行っても、みんながそれぞれ買い物を楽しめるのはうれしいです」