高橋 洋一 高橋洋一「ニュースの深層」

2010年02月01日(月) 高橋 洋一

日本国債格下げは鳩山政権崩壊の「サイン」
財務省VS経産省の暗闘で「成長戦略」を描けず

 小沢問題に気をとられている間に、鳩山政権は内部崩壊しているようだ。

 昨年12月30日に発表した成長戦略と今年1月26日の日本国債の格下げ、一見関係のないこの二つの出来事が、政権内部の異常を表すサインだ。

 まず、昨年末の成長戦略から読み解いていこう。民主党に成長戦略がないということは、昨年8月の総選挙の前から、自民党や経済界から批判されていた。それに対し、菅直人副総理・国家戦略相(当時)は、国民生活が第一で足下の経済政策に集中すると、11月までは言い続けてきた。

 それが、12月半ば、急に年内に成長戦略を作れと指示を出した。菅副総理の下で、松井孝治官房副長官が支援しながら、近藤洋介経産政務官らが成長戦略の作成にあたった。問題は、そのチームに、財務省出身の古川元久国家戦略室長の名がなかったことだ。

 表向きは、予算編成で忙しいという理由だが、この本音は松井官房副長官ら経産省派による財務省外しであった。

 というのは、昨年末のラジオ番組で鳩山総理がおもわず漏らしたように、それまであまりに財務省主導が目立っていたからだ。国民から喝采を浴びた事業仕分けも財務省なしではできなかった。政権発足直後の昨年9月26日の予算編成方針でも、一番目に「平成22年度予算については、年内に編成する」という財務省お得意のスケジュール戦術の術中にはまっている。

「ロジ」で「サブ」を操る官僚の手口

 官僚が政治家をコントロールしようとするときには、政策内容という「サブ」(サブスタンス=法律や政策の中身)ではなく、スケジュールや手順という「ロジ」(サブに対する日程、段取りなどの詳細)を使う。政治家にしてみれば、サブではなくロジだから、まあ言うとおりにしておいても問題ないだろうと油断する。ところが、ロジをコントロールすることによって、実際にはサブまで変えてしまうのが、官僚のテクニックの凄いところだ。

 22年度予算についても、昨年10月15日に各省庁に概算要求を出し直させているのだから、年内編成でなくてもいい。通常翌年の1月下旬に招集される通常国会までに、予算書の印刷を含めて間に合えばいい。あえて年内編成を明記することもない。だが、あえて年内編成を明記させることで、鳩山政権をスケジュールでしばり、タガにはめようとしたのが財務省の戦略であった。

 しかし、こうした財務省主導で面白くない役所も多い。その代表格が経産省だ。そこで、OBの松井官房副長官らが菅副総理を焚きつけ、成長戦略を仕掛けてきたわけだ。そして、名目3%という財務省からみれば「高め」の成長率を持ち出してきたのである。

 一方、財務省は高めの成長率を好まない。税収が伸びて予算要求が膨らむし、何より増税を言い出しにくくなる。そこで、財政再建が必要だとのイメージ作りを外からいわせるという財務省らしいしたたかな戦術をとってきた。

 そのひとつが昨年9月、OECD(経済協力開発機構)が出した日本経済についての調査レポートだ。実は財務省はOECDにも人を派遣しており、こういう意見を出させることは簡単なのである。そのレポートには、グロス債務残高対GDP比だけでなく、ネット債務残高対GDP比も世界最悪であると書かれていた。今年1月に入るとそれを経済紙が伝えた。

 OECD等の国際機関では、債務残高といえばグロス債務残高から政府の保有する金融資産を差し引くネット債務残高を指すのが一般的だ。これで財務省は財政危機をますますアピールできるというわけだ。その直後、1月26日、スタンダード&プアーズは日本国債の格付けを引き下げた。

「年間所得2500万円」という成長戦略のお粗末

 ここで、冒頭に掲げた二つの出来事が結びついてくる。日本国債の格付け引き下げは、実は、しっかりした中期経済・財政プログラムが欠如していたからだ。成長戦略は急ごしらえのため、マクロ経済の裏打ちがない。たとえば、目玉の環境関連で、50兆円超、140万人の新規雇用となっているが、労働分配率が7割とすれば労働所得は35兆円になる。とすれば一人当たりの年間所得は2500万円だ。こんな高額所得はありえないことからも、成長戦略のデタラメさがわかる。とても中期経済・財政プログラムにならない。

 これまでは、経済財政諮問会議があって、毎年1月には「中期展望」を作り、その中で経済と財政の中期的な見通しがあった。いわば、中期展望という傘の中で、経産省の「成長」と財務省の「財政」のタガがはめられ共存していた。しかし、今や中期展望はなく、成長と財政がバラバラになっている。その結果が、日本国債の格付け引き下げなのである。

 国会の予算審議には、財政の中期的な姿を示す「後年度影響試算」などが欠かせず、財務省は毎年提出してきた。前提となる経済指標は中期展望から引用し、今後5年間の数字を出してきたのである。ところが、今は中期展望がないので、5年間の数字を出すのは難しい。財務省は、3年間としその前提となる名目経済成長率を1.7%、2.0%、2.2%と機械的においた。これらの数字も、成長戦略と同様に腰ダメの数字だ。財務省はせいぜい名目2%という立場であるので、ギリギリの奮発なのだろう。

 政権運営で大切なことは、各省庁にタガがはめる仕組みをうまく運営することだ。小沢問題に気をとられているうちに、官邸周辺で経産省と財務省の路線対立が顕在化し、鳩山政権は内部分裂を起こしている。小沢氏だけが重しであり、政治家、官僚へのタガをはめてる役として政権運営がされてきた。もし小沢氏が不在になると一気に政権崩壊がくるだろう。