FRIDAY永田町ディープスロート

2010年12月19日(日) FRIDAY

殲滅作戦(警察庁長官が大号令)で高まる山口組 内部抗争の危険性
髙山清司若頭に続き、入江禎総本部長も逮捕。
ついにトップ3人が不在の事態に!

11月19日、京都府警は弘道会本部の家宅捜索に踏み切り、武装した機動隊が取り囲んだ。右上は神戸の山口組総本部前に貼られた告知文

[取材・文:溝口 敦(ノンフィクション作家)]

 山口組に強風が吹きつのっている。組内ナンバー2の髙山清司若頭(63、弘道会会長)が11月18日、恐喝容疑で京都府警に逮捕され、続いてナンバー3の入江禎総本部長(ただし・65、宅見組組長)も12月1日、暴力団対策法(賞揚等の禁止命令)違反容疑で大阪府警に逮捕された。

 かけられた容疑は、抗争相手を殺害した服役中のヒットマンへの報賞金として、男の内妻にカネを振り込んだというものだ。

 ご承知の通り、六代目山口組トップの司忍組長(68、弘道会創設者)は拳銃の不法所持で東京・府中刑務所に服役中で、来年4月までシャバに出ることはない。

 かくて山口組は上位1〜3位が揃って塀の中に落ち、留守は7人の若頭補佐が守るだけである。

 7人のうち目立った存在は、極心連合会・橋本弘文会長(東大阪)と、山健組・井上邦雄組長の二人であろう。二人とも山健組の出身である。

 警察庁・安藤隆春長官(61)は、かねてより弘道会を主敵と見なしていた。今年9月にも全国警察の担当者を集めて「弘道会対策会議」を開催した。

 席上、安藤長官は「弘道会の弱体化なくして山口組の弱体化はない。山口組の弱体化なくして全国暴力団の弱体化はない」との持論を繰り返し、弘道会攻撃を指示した。

 現在の山口組情況を見れば、こうした安藤長官の注文にすっぽり嵌っている。だからこそ安藤長官は髙山若頭の逮捕に際し、「組長不在の中、山口組を実質支配する若頭の逮捕は山口組に多大な打撃を与える。これを突破口に山口組弘道会の弱体化、壊滅を目指し、取り締まりをいっそう強化していく」と表明したのだ。

そして、ナンバー3の入江禎総本部長が逮捕・送検された(12月2日)
送検される髙山若頭(11月19日)。容疑については否認している

 ところで髙山若頭の逮捕には、いくぶんか、きな臭さも漂っている。逮捕理由となったもともとの恐喝事件は、山口組直系組の一つである淡海(おうみ)一家(滋賀県大津)・髙山義友希総長(よしゆき・53、元会津小鉄会・髙山登久太郎会長の実子)が進めたものだ。

 そして、被害者は京都市の生コン業者組合を束ねるU氏であり、U氏は3回にわたって「みかじめ料」名下に4000万円を淡海一家・髙山総長ら3人に恐喝されたという構図だ。U氏は京都に本部を置く同和団体幹部の肩書を持ち、もとは山健組に近い存在だったとされる。ある首都圏の捜査関係者は言う。

「関西地方から東京に上がり、さまざまな職種を経て、企業に出入りするようになり、総会屋じみたこともやっていたようだ。山健組の組員だったという情報もある。若い頃、諍いが元で朝鮮人を殺してしまったという過去もある」

 そうした経歴のU氏の被害供述で髙山若頭が逮捕されたのだから、山健組系が、現在主流をなす髙山若頭、もしくは弘道会系を陥れたと見ることもできる。とすれば1〜3位不在の中で、再び渡辺芳則・五代目山口組組長(山健組の出身)時代のように、山健組が主流への復帰を目指して、内紛を起こす可能性があるのか。

「山健組は系列の多三郎一家・後藤一男総長の刺殺('07年5月)容疑で、若頭の山本國春・健国会会長まで逮捕されている。この捜査がさらに上にまで延びることも予想され、井上邦雄組長も安閑とできない。加えて組本部事務所への手榴弾投げ込み事件(11月1日発生)が起き、これもどこの組が投げ込んだのか未解決だ。井上組長と極心連合会の橋本会長とも仲がいいことはないし、山健組に山口組の執行部を掻き回す余裕はない」(兵庫県警詰め記者)

 こうした見方が多数派だが、山健組が一波乱起こすという観測もある。

「井上邦雄組長と九州誠道会・浪川政浩会長は、髙山若頭も認めた兄弟分の関係だ。この浪川会長が切れ者で、資金量も豊富、関東の広域団体にも太いパイプがある。今、暴力団世界で髙山若頭と五分で対抗できるのは彼しかいない。浪川会長が山健組の名で山口組の運営に乗り出し、執行部を牛耳ることは十分あり得ることだ。再び内紛が起きるかもしれない」(暴力団情報に通じる首都圏の事業家)

六代目山口組の司忍組長。来春の出所時、組はどうなっているのか

 山口組が弘道会系と山健組系とに分かれて相克すれば、警察にとってこれほど美味しい話はない。

 勝手につぶし合いをして共倒れになれば願ったり叶ったり。だが、警察はあえて分裂工作は仕掛けない模様だ。

 警察庁の動向に詳しい関係者が、次のように明かした。

「司組長が出所する来年4月まで、髙山若頭は(外に)出すな、保釈は認めさせるな、というのが安藤長官の意向です。

 しかし肝心の検察が世論に神経質になっていて、無理やり起訴することに難色を示している。

 というのも、髙山若頭の逮捕は、淡海一家の組員が被害者のU氏に向かって吐いた『名古屋の頭に届けるから1000万円以上は持ってきてくれ』という言葉、そして髙山若頭がU氏と会食した時『淡海一家の髙山総長とよろしくなー』と挨拶したこと。

 この2点をもって恐喝の共謀共同正犯というのだから、公判を維持できるかとても覚束ない」

 だが、それでも警察は検察を説得して髙山若頭を起訴に持ち込むという。

「起訴に持ち込んだら、その上で別件をバチバチ加えていく。実は今、兵庫、大阪、京都、愛知、東京の5都府県警に髙山若頭を長期勾留できるネタをほじくれと指令が入っている。何でも安藤長官は来年2月に勇退するとかで、花も実も持ってもらおうと、キャリア、ノンキャリを問わず、『オール警察の面目をかけて、髙山若頭は潰す、弘道会は分裂させる』と燃えています。

 確かに、弘道会はこれまで勢力を拡大し過ぎました。なにしろ、あの市川海老蔵まで飲み屋で暴れるのに弘道会の名を出したという情報がある。多少、警察がやり過ぎても世論は味方してくれると警察庁は見ています」(同前)

 他方、山口組は毎年12月13日に挙行する「事始め」を、主どころか序列三位までが不在の今年も開くという。事始めを単なる「納会」に終わらせようと、今、警察は必死だ。

みぞぐち・あつし 
1942年、東京生まれ。出版社勤務などを経てフリーに。『六代目山口組 宮廷革命の勝者』(竹書房文庫)他、暴力団関連の著書多数。他の著書に『細木数子 魔女の履歴書』(講談社+α文庫)、『歌舞伎町・ヤバさの真相』(文春新書)など