経済の死角

2010年12月15日(水)

初調査 配当金で分かった本当の”億万長者”
役員報酬なんかじゃ分からない
任天堂・山内溥相談役は年収131億円、
ユニクロ・柳井正社長は65億円!

 役員報酬が一番多かったのは、日産自動車CEOのカルロス・ゴーン氏で約8.9億円。ただこれ以上に高額の配当収入を得ている人がいる。配当金調査でわかった、「隠れお金持ち」を紹介しよう。

配当収入が報酬の20倍以上

 今年から始まった高額役員報酬開示。3月に決算を迎えた企業から順に、「1億円プレイヤー」たちの名前が続々とあがっている。先日は、ユニクロを率いるファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏の役員報酬が3億円であることが明らかになり、世間の話題をさらった。

 しかし実は、役員報酬だけを見ても本当の億万長者が誰かはわからない。ケタが違う額の配当金をもらっている人が、ゾロゾロいるからだ。

 早稲田大学商学部准教授の久保克行氏が言う。

「たとえばユニクロの柳井正氏は役員報酬こそ3億円ですが、ファーストリテイリングの株式を2800万株ほど持っている。直近の有価証券報告書によれば、同社の年間配当金は230円。単純計算で役員報酬の20倍以上、約65億円の配当収入を得ていることになるのです。

 もちろん配当というのは企業業績が悪化すれば無配(配当金ゼロ円)になることもありますが、そうでなければ一株あたり数十円から1000円台の額が出る。100万~1000万株ほど持っていれば、億ものおカネが手元に入ります。それに配当収入は株式を手放しさえしなければ、ほぼ毎年入ってくる。つまり、配当収入は役員報酬より安定した高収入源だともいえるのです」

 本当の億万長者は、役員報酬ではなく配当収入を見て、初めて分かるということ。

 では、1億円以上の配当収入を得ているお金持ちたちを紹介しよう(以下、配当収入は直近の通期有価証券報告書から判明した配当金・持株数から単純計算で算出した)。

 断トツに高額の配当収入を得ていたのは、任天堂相談役の山内溥氏。

 約1400万株を持つ同社の筆頭株主であり、年間配当金が930円なため、配当収入はざっと131億円となった。

「創業一族の3代目として弱冠22歳で社長業を継いだ後、ファミリーコンピュータやゲームボーイを生み出したカリスマ経営者です。長者番付の常連でもあり、『Wii』が大ヒットした'08年には、米経済誌フォーブスが選ぶ『日本の富豪40人』でトップになっている。ちなみに同誌が試算した、山内氏の総資産額は約8100億円です。

 任天堂は米メジャーリーグのマリナーズの筆頭オーナーで、イチローが年間最多安打を達成したときには、5000株(当時5800万円相当)をプレゼント。行きつけにしていた京都大学医学部附属病院が老朽化しているのを気にかけ、『京大病院にふさわしい病棟を建ててほしい』と私財75億円をポンと寄付したことでも有名です」(任天堂関係者)

 そんな山内氏の自宅は、京都市東北部の左京区内に建っている。江戸後期に建てられたというが、大きな中庭が広がっている趣のある邸宅のようだ。

 '05年に京都府から功績をたたえられて特別感謝状を贈られる際には、山内氏が眼病の手術前で式典に出席できなかった。そのため、わざわざ当時の知事がこの自宅を訪れて直接手渡したという逸話もある。

60億円分の株を無償で配る

 同じく昭和に大活躍した経営者、現在はセブン&アイ・ホールディングスの名誉会長である伊藤雅俊氏も約10億円もの配当収入を得ている。保有株数は約1900万株で、配当は56円だ。

 創業一族として'56年から経営を担い、高度成長にのって事業を拡大させた、日本の小売業の礎を築いた人物である。

「今年の9月、伊藤雅俊名誉会長ら創業家がセブン&アイ社に70億円の寄付をしたことが明らかになっています。その理由は、従業員の研修施設をつくってほしいというもの。かつては総額で時価60億円ほどにあたる同社株を、士気高揚のためとして幹部社員ら5000人超に無償で配ったり、先端研究などを支援するための財団を米国に設立、私財約8億円を出したこともあります」(大手小売企業幹部)

 全米小売業協会(NRF)から功績が評価されたことがある一方で、総会屋に現金を供与したとされる商法違反事件の責任をとって、社長を辞任した経歴('92年)も持つ。とはいえ3年後には取締役名誉会長へ"復帰"。

 会社側から「グループ統合の象徴として働いてもらう」と言われるほどの歓待ぶりには、大株主としての影響力が垣間見える。

 配当収入10億円超という猛者は、ほかにもユニクロの柳井氏、それにソフトバンク社長の孫正義氏がいる。

 前述の通り、柳井氏の配当収入は65億円ほど。しかも、'08年度には配当金が160円だったので配当収入が45億円ほど、'07年度は同130円で約36億円となっている。この3年間で合計150億円近くの配当収入を得ているのだ。

「柳井氏の自宅は渋谷区内の高級住宅地にあります。'00年に80億円ほどで8000m2以上の敷地を落札。そこにゴルフ練習場、テニスコート、茶室も備えた豪邸を建てた。ちなみにフォーブス誌によれば、柳井氏の資産は約5700億円です」(前出・幹部)

 同じく港区の高級住宅地に豪邸を構える孫氏は、約2億2000万株(全体の約21%)の株式を所有。ソフトバンク株の配当金は5円と高くないが、莫大な数の株式を持っているため、11.4億円ほどの収入を得ている。孫氏の役員報酬は約1億円、配当収入とあわせれば年収は12.4億円になった。

創業者とオーナーばかり

 パチンコ機器・ゲーム機器などを製造販売するセガサミーホールディングス会長兼社長の里見治氏も10億超えを達成している。

 同社の筆頭大株主として約4300万株を保有。年間配当金は30円なので、配当収入は13億円ほどとなった。役員報酬も約4.3億円と高額なため、年収は17億円超。

 ただ、里見氏がここまでたどり着くには紆余曲折があったようだ。

「里見氏は学生時代からバーを経営するなど、根っからの起業家人間。青山学院大学を中退後には、ゲーム機器販売会社を興すも、失敗。その後に勤めた父親の会社も倒産するなど苦境続きでした。そんなときに満を持して始めた『サミー工業』で、パチンコ・パチスロ機の製造販売が大当たり、これをきっかけに浮上して一大メーカーにのし上がったのです。

 '03年にはセガを買収、堅実経営で業績を拡大させ、いまでは4000億円ほどの売り上げをたたき出している。里見氏は馬主としても知られていて、『サトノ』『サミー』といった言葉を名前に入れた競走馬を多く走らせてもいます」(全国紙経済部記者)

 堅実経営で知られる里見氏だけに、自宅の立地に派手さはない。広い邸宅が並ぶエリアだが、お世辞にも超高級住宅地とはいえない。ただ、敷地は広大で、その豪邸は、堂々とした門構えが圧倒的な存在感を出している。

 興味深かったのは、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏。同社が公表している1億円以上の報酬がある役員に入っていなかった上、今年1月に日本航空会長に就任した際には、「無給で働かせてもらう」と発表し、話題となった。

 報酬ベースで見ると金持ちとはいえないわけだが、680万株を保有する京セラ株から得られる配当収入は約8.1億円もの額になる。「隠れたお金持ち」といえるだろう。

 このほかに1億円以上の配当収入を得ている主な人物は以下の通りだ。

■スクウェア・エニックス名誉会長の福嶋康博氏→約8.2億円
■日本電産社長の永守重信氏→約7.7億円
■グリー社長の田中良和氏→約5.6億円
■大東建託会長の多田勝美氏→約4億円
■アートネイチャー会長兼社長の五十嵐祥剛氏→約1.8億円
■マツモトキヨシホールディングス会長兼CEOの松本南海雄氏→約1.7億円
■コーセー会長の小林保清氏→約1.1億円

 五十嵐氏以外はみな創業者か創業者一族だ。配当長者になるには大量の株式を保有することが条件となるため、やはり名前があがるのは莫大な株式を所有する創業者やオーナーたちとなっている。

 業種別に見ると、パチンコ関連業種からはSANKYO会長の毒島秀行氏(約4.6億円)、藤商事社長の松元邦夫氏(約4.3億円)、フィールズ会長の山本英俊氏(約3.9億円)などが多くの配当収入を得ているという特徴も見られた。

 ちなみに、約8.9億円の役員報酬を受け取り、「高額役員報酬ランキング」トップに立つ日産CEOのカルロス・ゴーン氏の場合、配当収入はゼロ。経営悪化を受けて、同社が'09年度に配当金を支払わなかったためだ。

 一方で、ランキング3位に入った大日本印刷社長の北島義俊氏は、役員報酬約7.8億円に加えて、配当収入を1.8億円ほどもらっている。合計すると9.6億円ほどで、ゴーン氏の年収を超えた。

「とはいえ、ゴーン氏は日産株を300万株ほど保有。同社は'08年度に11円、'07年度に40円の年間配当を支払っているので、二年間で合計1.5億円ほどの配当収入をもらっています。

 単年だけ無配にする企業は多い。お金持ちが誰なのかを見極める際には、継続的にどれくらいの配当が支払われているか気をつけて見て欲しい」(前出・経済部記者)

税金で半分ほど取られる

 そもそも株式を買ったことがない人には、配当金はまったく縁のないもの。配当金はどうやって決められるのだろうか。

 大阪市立大学大学院教授の石川博行氏が言う。

「1株当たりの当期利益に対してどれくらい配当するかを決めている会社が多いのですが、ほかにも最低額を保証している会社、そもそも基準を明示していない会社など色々あります。基準を示していても、リーマンショック後に利益が激減し、これを変更する企業もたくさんあった。実質的に取締役会で決定されるもので、こうしなければいけないという規定はありません。

 とはいえ、リーマンショック後でも上場企業の8割ほどが配当を支払っていることからわかるように、日本企業は世界にくらべてきちんと配当を支払い続ける慣行が強い。不況になっても減配しないで配当額を据え置く企業が多いのも、特徴といえるでしょう」

 こうした事情をとらえて、会社の資産を食い潰してまで、株式を多く保有するオーナーのために配当を維持しているのではないかとの批判が出ることもある。しかし、それは見当違いである。

 石川氏が続ける。

「米国では、投資家が株式価値を評価する上で配当はあまり重視されないのと対照的に、日本では利益と同程度以上に大事なものとして見られています。そのため、減配したり、配当をストップしたりすると、大きく株価が下落し、株主の利益を多く毀損することになります。

 そもそも配当は、基本的には業績と連動して決められる性格が強いため、オーナーは自社株を持っていることで、利益を上げ、株価を上げるモチベーションが高まる。ある実証研究では、株を持っている経営者のほうが持っていない経営者より、高い業績を出すという結果もでています。そして配当が上がれば、株主も喜ぶ。そんな好循環が生まれるのです」

 ちなみに、上場株式から得られる配当収入については、現在、10%の源泉徴収税率が適用されるだけで、確定申告は不要(ただし、平成24年1月1日以降は20%の源泉徴収税率に戻される)。1000円の配当収入があれば、100円を税金で取られるだけで済むということだ。

 しかし、発行済み株式総数の5%以上を保有する個人株主の配当収入には、この優遇税制は適用されない。さらに確定申告が必要なため、見てきたような大株主となれば、所得税の最高税率である40%が適用となる。そのほとんど半分を税金に取られてしまう。

 配当金長者といえども、濡れ手で粟で儲けているわけではない。積極的にリスクを取って、さらに企業を成長させ続ける。そんな努力があって初めて億万長者に近づけるということだ。