週刊現代永田町ディープスロート

2011年12月06日(火) 週刊現代

特大号スペシャル この国の宿痾を語ろう
堺屋太一×古賀茂明「官僚というもの」
マスコミをたぶらかし、国民をだます

 官僚は賢い。有能だ。だが、国民に本当のことは伝えないし、公僕意識は欠如している。彼らの優秀さは自らの利権と保身のためにのみ発揮されるのだ。どうすれば変わるのか。二人の改革派が論じた。

自分さえよければいい人たち

堺屋 日本は今、非常に深刻な事態に直面していますね。震災復興、原発事故処理、財政赤字と、どれをとってもまともに動いていない。政治も官僚も東京電力をはじめとする独占企業群も、大組織はみな崩壊している。これは偶然じゃなく、戦後組織の必然的崩壊だと思うんです。

古賀 同感です。以前から日本は危機的状況に陥っていましたが、3月11日の東日本大震災は日本崩壊のカウントダウンを一気に早めたような気がします。

堺屋 政府の取り組みで特に目に余るのが震災復興の遅れですね。16年前の阪神淡路大震災と比べて、対応が非常に稚拙です。すべてがなんとも遅い。震災の規模が違うとはいえ、阪神淡路のときは地震から100日で被災地のがれきはほぼ片づいていた。しかし今回は、がれき撤去も仮設住宅も、地域毎の縄張りや省庁間の権限争いなどが邪魔をして進んでいない。

 原発事故対応では、経産省傘下に原子力安全・保安院があり、内閣府には原子力安全委員会があって、放射線測定は農水省、厚労省、文科省、さらには各県や市町村でもやっていて、それぞれに役所の権限や利権がからみついている。政治主導どころか、官僚主導でもなく「官僚停止」ですよ。

 このように国家の重要任務ができなくなった最大の要因として、やはり組織の問題、官僚の身分化に目を向けざるをえない。つまり、古賀さんが力を注いできた公務員制度改革に行き着くんですね。

古賀 官僚は優秀かつ公正中立で、政治家は無能でも官僚がしっかりしているから大丈夫だ、という奇妙な信頼感が日本人にはずっとあったと思うんです。それが徐々に揺らいできて、とくに震災以降、自分たちが頼りにしていた官僚の無能ぶりや無責任さ、情報隠しの体質を目の当たりにして、失望や怒りが相当に広がったのではないか。

 それこそ『第三の敗戦』で堺屋さんが書かれたように、幕末の黒船来襲で、強くて頼りになると思われていた武士がまったく無力だったことが明らかになった。現在はこれと同じです。では、どうしたらいいかという答えは見つからず、非常に混沌としているのが今の日本だと思います。

堺屋 自民党が誕生した1955年から'90年ごろまでの規格大量生産を目指した時代には、国家経済の成長と官僚の利益はたまたま一致していた。そのため国民は、官僚に任せておけば安心だと思い込んだんですね。ところがバブル崩壊後は一致しなくなり、「失われた20年」に入るわけです。

 にもかかわらず、官僚は昔とまったく変わっていない。つまり彼らが目指しているのは、仕事と人員を増やして権限を強化することです。そもそも組織というものは、発足と同時に、それが作られた本来の目的とは別に、組織自体の目的を持つ。それは組織を大きく強くするとともに、構成員の幸せを追求することなんです。

 その幸せ追求の最良の方法は、内部の競争をなくすことです。だから、組織の人事は年功序列になり易い。ただし、組織の幹部になれる人数は限られるから、誰かを省かざるを得ない。そのとき判断基準になるのが、仲間内の評判です。

権限をこよなく愛す

古賀 結局、官僚の究極の目的は、内部競争をなくすとともに自分たちの生活をいかに安泰なものにするかです。そこで、一度試験に合格して公務員という身分を獲得すれば、能力や実績に関係なく一定の処遇が保証される仕組みをつくりあげてきた。

 けれども'90年代以降の国内外の大きな変化に伴って、その仕組みも維持できなくなりました。ところが官僚は、自分たちの生活保障の仕組みをなんとしても変えたくない。ですから、彼らは自分たちの生活保障の土台が揺らぐような変革にはものすごく抵抗するわけです。

堺屋 日本の官僚の最大の問題点は、能力で選ばれる職業ではなく、完全な「身分」になっていることです。先代の王様が急死したら4歳の王子でも王様になれる。80歳の老人でも王様であり続けることができる。それと同じで、公務員試験に合格したという「身分」さえあれば、天下りも含めて、生涯食うに困らない仕組みが出来上がっている。

古賀 適材適所とは全く逆。優秀な人にとってはまさに「人材の墓場」というのが霞が関の現実ですね。

堺屋 2番目の問題は、国の借金を増やしている張本人は、官僚だということです。財務省が財政再建に努力しているなんて、全くの間違いですよ。かつて帝国陸軍は、敵を減らすどころか、次々に戦線を拡大して敵を増やしていった。その結果、徴兵権を強くし、軍人のポストを増やし、予算を獲得して組織を拡大していったんです。同様に財務省も、赤字削減どころか実は拡大している。赤字予算を組んで権限を見せつけ、やがては増税して日本経済を財務官僚の指導下に置く。これが本当の狙いです。

 それは、少子化対策ひとつ見てもわかります。少子化問題を議論するとき、役人が持ち出すのは決まってフランスの事例です。つまり、'90年代初めから少子化対策に取り組んだフランスは、育児手当などの政策により出生率が上昇したと言います。しかし、実は学校の水曜日休みという特殊事情もあって子育ての社会化が成功した珍しい国です。

古賀 先進国で出生率が高いのはアメリカですが、そのことはほとんど話題になりませんね。

堺屋 ええ。アメリカの合計特殊出生率は2・15で先進国では最高です。要因は、ベビーシッターを一大ビジネスにしたこと。その代わり、子育て手当などは一切ありません。

 世界的に見ると、子育ての社会化を最も徹底したのは旧ソ連でしたが、その旧ソ連諸国の出生率は世界でも最低級です。ラテンアメリカではキューバの出生率が断然低い。要するに子育てを社会化すれば出生率は下がるというのが世界の実例なんです。

古賀 厚労省はそういう情報を隠して、フランスの事例だけをとりあげている。

堺屋 問題は、それに対して財務省も反論せず同調していることですよ。つまり、子育て支援の支出を増やして増税に持っていきたい。それが財務官僚の本音でしょう。

お手盛りとマスコミ操作

古賀 私は経産省の予算づくりを担当した経験があるんですが、財務官僚は毎年12月から3月までと、それ以外の期間では、言うことがまったく違うんですよ。

 ふだんは、予算を削れ削れとやかましく言う。こちらも一所懸命それに応えるんですが、いざ予算編成が大詰めになる12月頃になると、コロリと態度が変わる。「そこまでおっしゃるなら、この予算は特別に付けましょう」と。

堺屋 それが財務省の常套手段ですね。

古賀 ええ、要求段階ではダメだダメだと言われ続けていて、不意に「これは特別ですよ」と言われたら、みんな思わず「ありがとうございます」と財務省にひれ伏してしまう。つまり、自分たちの権限を維持するための手口なんです。

 で、1月に予算案を出して国会で野党から文句を言われると、財務官僚は「いや、こんなすばらしい予算はありません」と(笑)。よく言うなと思いますが、財務省は関連の業界団体が少ないにもかかわらず、OBは各界に天下りしています。それが可能なのは、毎年の予算編成で財務省の力を各省庁に見せつける「儀式」を行っているからです。赤字の拡大も予算編成の儀式も、組織拡大、権限増大のための手段なんですね。

堺屋 経済拡大の方法としては、予算を付ける以外に規制緩和という選択肢もあるのに、官僚がそちらを選ぶことはまずない。例えば厚労省の傘下には社会福祉法人がありますが、出資金に対する配当ができないから資金が集まらない。これを株式会社化して資金調達可能な形にすれば、医療や社会福祉に様々な事業者が参入する。待機児童の問題などすぐ解決する。農水省の農業法人しかり、文部科学省の学校法人しかりです。ところが役人は、あれもダメこれもダメと手足を縛り、それで赤字分は国が補填してやると。これが国家予算を膨らませる仕組みですね。

古賀 財務省も民主党も自民党も今の大勢は消費税アップしか言いません。これは大いに問題です。というのは、堺屋さんが言われたように役所には様々な利権があって、何か新しいことをやろうとしても、全く自由に動けない。

 これからの成長分野としてよく挙げられるのが、農業、医療、再生可能エネルギーの3つですが、本気で農業参入を自由化しようとすれば農協と闘い、農水省の利権を潰さないといけない。医療では病院を株式会社にしようとすれば医師会と闘い、厚労省の利権を潰さないといけない。再生可能エネルギーも、新規参入自由化のために電力会社や経産省と闘う必要がある。

 でも、官僚も団体も徹底的に抵抗しますから、政治家にとって改革は非常な困難を伴う。だから、結局、最も弱い相手に無理を押しつける。それが、国民に対する消費税アップです。「増税を訴えるのが本当に責任ある政治家だ」などともっともらしいことを言っていますが、逃げているだけじゃないかと思う。成長分野をちゃんと育てることができたら国の収入も増えて増税せずに済むかもしれないのに、頑なにそれをやろうとしない。

堺屋 その根本にあるのが、公務員の利権擁護体質です。4年前の福田内閣では国家公務員制度改革基本法まで作ったのに、巻き返されてしまった。

古賀 公務員が自分たちのためではなく、国民のために働けば出世できますよ、収入も増えますよ、という当たり前の仕組みに変えていかないといけません。

堺屋 日本を近代化した大改革、明治維新とは何だったのかを考えてみると、その第一歩は明治2年の版籍奉還なんですね。版籍奉還によってまず武士の身分をなくし、その2年後に行政の改革として廃藩置県を行った。さらに、新貨条令で小判や銀子を廃止して円、銭単位の紙幣にした。これで財政に余裕ができ、経済が大発展した。明治維新の出発は版籍奉還、武士の身分をなくしたことです。今も、まずやるべきは公務員改革、官僚を身分から能力と意欲で選ぶ職業にすることです。

古賀 ところが、実際に官僚がやろうとしている方向は正反対です。人事院は、年金の支給開始年齢引き上げに合わせて定年を65歳に延長しようとしている。しかもその中身は、60歳までは従来どおりの年功序列で待遇を保障し、60歳以降は役職定年により給与を3割カットするという。つまり、60歳からもそれまでの7割を保証しますよということなんです。

堺屋 60歳までの厚遇はそのままで、その上にくっつくだけやな(笑)。

古賀 それをなんと日経新聞は「3割減」と見出しをつけて、いかにもリストラに努力しているかのように報じていましたが、マスコミ報道として、あまりにお粗末です。

堺屋 問題は60歳以上の人に何をさせるのか。通常は仕事のあるところに雇用が生まれるのに、先に雇用を決めれば無理やり仕事を作ろうとする。そうなると、不必要な仕事が増えて役所の許認可がうるさくなるに違いない。仕事をしない公務員が増えると、新規採用が減るから人事が硬直する。その打開のためにも組織の権限拡張が必要になる。まさに本末転倒です。

何でも国民に押しつける

古賀 民主党が打ち出していた国家公務員の総人件費2割カットもどこへやらで、結局「政治主導」という看板倒れでしたね。本来、政治家と官僚は、憲法上の仕組みで上下関係、主従関係が決まっているのに、とくに菅直人首相は野党時代から「官僚は大馬鹿だ」などと発言して、官僚を自分たちのライバル、あるいは敵だと位置づけてしまったきらいがある。

堺屋 本来、官僚はタクシーの運転手で、行き先を決めるのは政治家のはずです。政治家が行き先を決めたら、官僚は迅速に運転すべきです。ところが菅さんはいきなり「おれが運転する」と言い出した(笑)。で、技量がないから大事故を起こした。こりゃいかんと官僚にハンドルを握らせたら、これが定期バスの運転手で、乗客が何を言おうと決められた路線、つまりは「官僚権限の強化」という路線を走っている。これが政官の実際の関係です。

古賀 組織の話に戻ると、競争のない、市場規律の働かない世界で、どうやって組織に規律を働かせるか。その仕組みづくりを考えないと、どうにもならないところに来ていると思います。これは役所だけでなく、電力会社も同じですけど。

堺屋 電力会社の改革について言うなら、発送電の分離をやらないといけない。東電は送電網を売却して原発事故の賠償金に充てるべきです。3兆円ぐらいで売れるでしょう。その上で、発電は誰でも参入できるように自由化する。小渕内閣ではそれを手がけたんですが、数年で立ち消えになりました。

古賀 東電の賠償スキームについては、当初から懸念されていたように、国民負担が増える形になってしまいました。

 経産省が非常におかしいのは、「電力会社は民間企業だから企業秘密にかかわる情報は出せない」と言う一方で、「東電は特別な会社だから破綻処理はできない」と主張する。民間企業だと距離を置きながら、都合が悪くなると「電力会社は特別だ」と守る。

 普通に考えれば、JALと同じように処理すべきものを、最初から東電は破綻させないという結論ありきで、今回はそれが非常にはっきりしていました。

堺屋 それで古賀さんは、東電の債務超過も視野に入れて国民負担を最小限にする賠償スキームをペーパーにまとめて提案された。

古賀 ええ、民主党の閣僚クラスにも、経産省案はおかしいという声が挙がっていて、一時は修正の方向に向かったんですが、そこで官僚と東電が脅しにかかるわけです。「もうすぐ株主総会で、その前に監査法人のお墨付きをもらわないと、破綻して大停電が起きます」とか「破綻すれば東電の社債が紙くずになり、金融市場が大混乱になる」とか。これはもう明らかに経産省と電力会社と金融機関がタッグを組んで、国民とマスコミと政治家に脅しをかけたんです。

根っから腐っている

堺屋 JALのときも同じようなことがありました。「JALの航空便が飛ばなくなったら海外にいる邦人が孤立する」と、呆れるような脅しを使った。

古賀 結局、東電の場合は銀行の責任も株主の責任も問われることなく、ざっと5兆円分をまるまる国民への税金か電気料金に上乗せする仕組みにしてしまった。こうなるまでに後ろで経産官僚がいろいろ根回ししていたはずで、これに与野党の論議が誘導されたんでしょう。

堺屋 原発事故を契機にまともな電力体制になるかと期待したけれども、全然そうはならない。これはやはり「日本の敗戦」ですね。あれだけの事故が起きても、官業癒着の体制と官僚の身分は変わらない。国民から搾取して身分を擁護する形が非常に露骨に出た。

古賀 私は今の日本を見ていて、これまでは静かに沈んでいたのが、民主党政権になってバチャバチャ水しぶきを上げながら沈み出したように見えます。

 ところが、今のところ転換する糸口が全然見えない。政治にも見えないし、もちろん官僚、行政組織にも見えない。すると、もっと落ちないと転換点にならないのかと思わざるをえない。そこが心配です。

堺屋 経済について言えば、1人あたりのGDPで日本はシンガポールに追い抜かれてしまった。これから韓国や台湾にも追いつかれるでしょう。問題は、そうなっても日本人が悔しいと思わないことで、これを私は「大阪現象」と呼んでいるんです。

 いまや大阪市では18人に1人が生活保護を受けていて、大阪府の教育水準は全国47都道府県のなかで45番目。なにしろ中学生で一桁の掛け算、つまり九九ができない子が1割もいるんですね。そういう子に先生が「しっかり勉強しないと大人になって困るぞ」と言うと、「ぼくは生活保護受けるから、かまへん」と答えるというんです(笑)。

 庶民レベルでも倫理的崩壊が始まっているのです。橋下徹知事の「大阪維新の会」が人気を集める所以です。いいことも悪いことも大阪から始まります。ひょっとしたら、ここに「維新の芽」があるかもしれません。

古賀 日本はいつまで落ち続けるとお考えですか。

堺屋 まだ負け続けますね。東日本大震災がガダルカナルあたり。このあとサイパン玉砕、沖縄敗戦となって、本当にこの体制じゃダメだと国民が思い知るのは、まだ3年くらいかかるのでしょう。

 そんなことを考えると暗澹たる気分になりますけど、「第三の敗戦」のあとには「第三の復興」があるはずです。それに期待するしかありませんね。

さかいや・たいち/1935年生まれ。旧通産省では日本万国博覧会を企画、開催。小渕・森内閣では経済企画庁長官を務めた。『第三の敗戦』『三人の二代目』(ともに講談社)など著書多数
こが・しげあき/1955年生まれ。経済産業政策課長などを経て、現在は大臣官房付。急進的な改革を提唱し続けたことで閑職に追いやられる。『日本中枢の崩壊』(講談社)が38万部の大ベストセラーに

「週刊現代」2011年9月3日号より