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2011年08月12日(金) 毎日フォーラム

「太平洋底に大量埋蔵」と東大チーム発表
[レアアース]陸上の800倍・・・でも採掘コストが難

太平洋の海底から採取されたレアアースを含んだ泥=東京都千代田区の文部科学省で

 日本経済の生命線ともいえるハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類金属)の価格が高騰する中、権威ある英国の科学誌「ネイチャー」の姉妹誌に東京大などの研究者がこのほど1本の論文を発表した。太平洋の深海底に、レアアースを豊富に含んだ泥が大量に眠っている、というのだ。

 その量は陸上の埋蔵量の800倍にも上ると見積もられ、1面トップで「資源問題解決につながる」と大々的に報じた新聞もあった。だが、海底資源を採算ベースに乗せるのは容易でなく、世界生産の97%を握る中国の市場支配はしばらく続きそうだ。

 レアアースは、希少金属(レアメタル)のうち、ランタンやイットリウムなど17種類の金属元素の総称。それぞれに特有の光学的性質や磁気的性質を持っており、「産業のビタミン」とも呼ばれる。最近は、電気自動車用モーターの高性能磁石などに使われるネオジムやジスプロシウム、テルビウムなどの需要が急増している。

 だが、現在の生産量の97%は中国が担っている。中国は05年以降、輸出奨励政策から輸出規制強化へと転換し、10年の輸出許可枠は3万259トンと06年に比べて半減した。特にジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類は中国南部の特殊な鉱山でしか産出されておらず、寡占による弊害も大きい。こうした輸出規制について、世界貿易機関(WTO)の小委員会は協定違反と認定した。

 一般にレアアースはウランやトリウムなどの放射性物質と混在していることが多く、放射線が採掘作業の障害となる。また、精製には大量の酸を使用するため、環境への負荷が大きい。安価な中国産が市場を席巻しているのは、こうした環境対策のコストをあまりかけていないためと見られている。

 物質・材料研究機構元素戦略材料センターの原田幸明グループリーダーは「最近になって、環境悪化を防ぐためと言って輸出を制限し始めた。そういう『表向き』の理由が通るほど、中国が市場を支配しているということだ」と説明する。

 さらに、中国は日本に対して、昨年秋の尖閣諸島沖での漁船衝突事件以降、輸出を事実上、一時停止した。レアアース輸入の9割を中国に頼る日本への影響は大きく、価格高騰を招いている。特にジスプロシウムは1年前の約10倍近くにまで上がっており、商社やメーカーから「高過ぎて買えない」といった悲鳴が上がり、ネオジム磁石の販売価格も上昇傾向だ。

 こうした状況を打開しようと海底のレアアース資源の研究を進めてきた加藤泰浩・東京大准教授(地球資源学)らの研究チームが論文を発表したのは、7月4日のネイチャー・ジオサイエンス誌(電子版)。太古の地磁気の研究など、別の目的で行われた海底ボーリング調査で採取された太平洋の海底78カ所(水深3500~6000メートル)の堆積物の組成を詳しく分析した。

 その結果、ハワイ周辺の約880万平方キロに平均625ppm(ppmは100万分の1)のレアアースを含んだ泥が厚さ平均23・6メートル、タヒチ周辺の約240万平方キロに平均濃度1054ppmの泥が厚さ平均8メートルも堆積していることが分かった。元々、海水中に含まれているレアアースが、中央海嶺(海底山脈)から噴出した酸化鉄やゼオライトなどの鉱物に吸着し、海水の流れに乗って特定の場所に堆積したと考えられている。

 加藤准教授によると、濃度が400ppm以上あれば資源として有用で、仮にタヒチ周辺で2キロ四方の海底の泥を採取すれば、日本の消費量の1~2年分のレアアースを賄える計算だという。ハワイ周辺の中央太平洋、タヒチ周辺の南東太平洋の二つの海域だけで、資源量は陸上の埋蔵量(約1億1000万トン)の800倍に達すると試算している。

 さらに、太平洋の海底の泥には放射性物質がほとんど含まれていないメリットもある。薄い酸で簡単にレアアースを分離・抽出できることも確認された。加藤准教授は「夢のような海底鉱物資源だ。市場を独占している中国への牽制にもなる」と話し、レアアース資源泥と名付けた。

 レアアース資源泥は有望な新鉱脈となるのだろうか。

 今回、見つかった海域は、ハワイ(米国)やタヒチ(フランス)を除き、大部分は公海にあたる。公海の海底資源は発見者などが独占することはできず、国連海洋法条約により、人類共同の財産であると認められた場合には、国際海底機構が管理することになる。さらに、同機構がこの資源の調査に関する規則(マイニングコード)を採択すれば、鉱区を設定し開発することが可能になる。

 加藤准教授は、日本が独占的にで資源開発が可能な排他的経済水域(EEZ)内でもレアアース資源泥の探査を続ける一方、今回見つけた公海底での鉱区設定を目指し、同機構にマイニングコードを申請したい意向を表明した。

 だが、深海での資源開発には膨大なコストがかかる。「現状のように、レアアースの価格高騰が続けば採算が取れる」という見方もあるが、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は「実際に採掘できる量や技術、コストの精査は今後の課題」との見解を示した。海江田万里経済産業相も「(採掘には)時間がかかる」と述べた。

 レアアース問題に詳しい岡部徹・東大教授(金属生産工学)は「実はレアアースはレア(希少)ではない。米国にもカナダにも鉱床はあり、何百年分もの可採量がある。それらの国が採掘しないのは、コスト面で中国に勝てないからだ。まだ陸上にたっぷりあるのに、深海底のレアアース採掘が産業として成立するとは思えない」と指摘する。

中国の市場席巻続く

 東大チームの研究成果が発表された後の7月14日、中国商務省は今年下期のレアアース輸出許可枠を発表したが、これによると今年は通年で前年比0・2%減の3万184トンにとどまる。19日に訪中した海江田経産相は日本向けの輸出量確保を要請したが、応対した陳徳銘商務相は「中国の経済発展と環境保全を両立する形での解決を考えている」と答えるにとどまった。

 中国の強気の姿勢の背景には、外貨を稼ぐ輸出に頼らなくても、近年の経済発展や技術力向上により国内でレアアースの需要が高まっていることも挙げられる。太平洋の深海底の「新鉱脈」発見も一発逆転の決定打とはならず、産業界でも「レアアースの高値はしばらく続く」との観測が広がっている。