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2010年01月26日(火) ドクターZ

稲盛JALのお先はまっ暗です
そして血税がアワと消えるだろう
〔総力特集〕民主党の「良心」はいずこへ

JALは法的整理にするしかなかったのだ。それは昨年秋、前原国交相がJAL救済に乗り出した時点でわかりきっていたはずだ。それが今ようやく・・・・・・。空費された時間とカネも、戻ってはこない。
経営手腕には定評のある稲盛氏。「ババを引いた」との評価を覆せるか

新CEOは「何も知らない」

 JAL(日本航空)の法的整理が決まった。鳩山政権発足時の昨年9月16日の株価は167円。それが法的整理決定、100%減資の検討によって、紙クズと化すことになった。株主の方々には、誠にお気の毒と言うしかない。

 なぜJALは事実上の倒産───会社更生法を申請し、官民ファンドの企業再生支援機構の監督の下で再建を目指す───に至ったのか。そしてJALは、これで本当に再建できるのか。本稿では、民主党政権下で何が起こっていたのかを振り返りながら、JAL再建の行方を探ってみたい。

 まず驚いたのは、JALの新しい舵取り役となる最高経営責任者(CEO)に京セラの稲盛和夫名誉会長が就任することだ。JR東日本の松田昌士(まさたけ)相談役、トヨタ自動車の渡辺捷昭(かつあき)副会長らに打診したとの報道もあるが、断られることが前提の打診としか考えられず、当初からピンポイントの人選だったようだ。

 稲盛氏は政界再編論者で、小沢一郎民主党幹事長とはかねて昵懇(じっこん)。自由党と民主党が合併する際の仲介役を果たし、小沢氏が昨年、秘書の逮捕・起訴を受けて党代表を辞任するに当たっても、最終決断を相談した相手が稲盛氏だとされる。また、京都を選挙地盤とする前原誠司国交相の後援会長も務めていた。

 稲盛氏の人選に小沢、前原両氏の意向が働いたことは、まず間違いないだろう。小沢氏との密接な関係という点では、世間から痛烈な批判を浴びながらも、日本郵政社長に斎藤次郎元大蔵事務次官を充てた人事が思い浮かぶ。

 これまで稲盛氏は、京セラを一流企業に育て上げたことや第二電電(現KDDI)の設立、三田工業の再建などで経営実績はあるものの、今月末で78歳という高齢が気にかかる。米コンサルタント会社の調査では、日本企業のCEOの就任時の平均年齢は58.4歳。北米は49.1歳、欧州50.0歳、日本を除くアジア太平洋地域は47.4歳だ。日本でも高齢CEOになるが、世界から見れば超高齢トップ。ちなみに、退任時の年齢を見ると、世界平均は59.6歳。稲盛氏は退任して20年ほど後に再びCEOになったようなものだ。

 それに、航空業界というヒトの塊(かたまり)のサービス業は、稲盛氏が得意とする技術分野と対極の世界だ。かつてJALは製造業から人を受け入れて改革を目指したことがあるが、失敗だった(1985年、中曽根内閣の方針によりカネボウ会長だった伊藤淳二氏がJAL副会長として乗り込み、翌年に会長就任。しかし、わずか1年弱で退任した)。稲盛氏自身、「運輸業界は素人。何も知らない」と語っており、視界はかなり不透明だ。航空会社は超国際企業だから、いっそのこと、日産のカルロス・ゴーン氏のような外国人経営者のほうが良かったのではないか。

 さらに言えば、あまりに「政治人脈」に頼りすぎると、会社が「政治リスク」にさらされて資金が集まらなくなり、経営がうまくいかなくなる危険性がある。今回の稲盛氏の場合、所管大臣の元後援会長であるばかりか、日本最大の権力者である小沢幹事長とのつながりが強固だ。独裁政治の途上国に見られる現象であるが、政治体制が代わると経営陣が一掃されるので、その会社への投資ができなくなるのだ。日本も途上国並みの「小沢独裁国家」と国際社会から見られるようなことがあれば、JAL再建の足枷となりかねない。

財務省には下心がある

 次に、国民負担を考えてみたい。その前提として、JALの債務超過額と損失負担がどうなるかを確認しておこう。

 JALは、昨年9月末の段階で、本体・関連会社・年金の債務を合算すると、7000億円超の債務超過に陥っていたことがわかっている。この債務超過額を、株主は全損、債権者は一部の債権カットという形で損失負担することになる。具体的には、金融機関が4000億円超の債権カットに応じる見込みだ。また、焦点となっていた年金受給に関しては、現役が約5割カット、OBは約3割のカットで決着しそうだ。

 法人株主やプロのトレーダーたちはともかく、少額の個人株主まで全損、というのは無慈悲に感じるかもしれないが、これほど巨額な債務超過の企業を法的処理するとなれば、株の価値はほぼゼロになる。これは株式市場の常識だ。筆者は、民主党政権発足直後からJALの再建には、法的整理するしかないと指摘してきた('09年10月3日号など)から、本誌読者はJAL株が120円くらいの時点で売り抜けて、大損は出していないはずだ。

 ところが、債務超過の実情をしっかり報道せず、前原国交相の「法的整理なし」の発言を過大に報道してきた全国紙だけを読んでいた投資家は、今や紙クズ同然のJAL株を抱えて、涙も出ないに違いない。その意味で、不用意な前原国交相の発言の責任は重い。この点については、あとでもう一度触れよう。

 ともあれ、これだけの債務超過額なので、資本主義のルール通りJAL株主の100%減資はやむをえないが、これによって債権者のほうは債権カットが少しだけ減り、損失はわずかながら抑えられる。

 債権者のうち最大は日本政策投資銀行だ。この財務官僚天下り機関に及ぶ損失は、金融機関の債権カット4000億円のうち1500億円程度になるだろう(ただし、担保カバーされている部分を除くと、実際の損失はそれより少ないかもしれない)。天下り機関への天罰などと溜飲を下げている場合ではない。政投銀は100%政府出資会社だから、これが当面の国民負担になるのである。

 この政投銀から抜けていく国民負担は、その経緯を知れば実に腹立たしくなる類(たぐい)のものだ。政投銀はJALの長期借入金5600億円のうち4割程度を貸し付けている。つまり、公的資金が2000億円超も注ぎ込まれているのだが、政投銀はこれまで、JALが債務超過であることをうすうす知っていながら、貸し込んできたのである。

 なぜそんな自爆テロのようなことをしたかというと、財務省が天下り先である政投銀存続を図った結果なのである。政投銀に関しては小泉改革の最後に、完全民営化の法案が作られた。これを阻止するためには、政投銀の存在意義を高める必要がある。そこで財務省は、JAL存続を至上命題とする国交省───JALとその関連組織は、国交省役人にとっての定番の天下り先である───と歩調を合わせて、民間金融機関だけでは資金を集めきれないJAL救済のために、“血税”を投入してきたのだ。

 結局、財務省は民主党を取り込む形で昨年6月、まんまと政投銀の完全民営化撤回を勝ち取った。その際の民主党との密約は、「総選挙後に政権を獲った場合には、予算編成をサポートする」という内容だったとされる。残ったのは、1500億円ともされる債権カット=国民負担である。

 では、債務超過であることを半ば知りながらJALに貸し込んできた責任はどうなるのか。財務省にとっては、企業再生支援機構にJALの経営が渡されることで、放漫な貸し込みが問題視されかねない状況が生まれているが、今回の法的整理については支持の立場だという。それは、結果として不良債権になる多額の債権カットについて、法律手続きのなかで正当性を確保しておきたいという下心があるからだ。民主党政権下で最強官庁の地位をますます強めつつある財務省にとって、公的な手続きのほうが都合がいいということなのだろう。

 貸し手責任については、結局、国会での追及待ちとならざるを得ない。だが、財務省と結託した民主党、あるいはJAL延命を図って借金漬けにしてきた自民党に、政投銀とそれを背後で操る財務省の責任を問うことができるだろうか。

前原国交相の大罪

期待を集めた前原国交相だったが、事態の混乱を招く結果となった

 この3カ月あまり、前原国交相が何をしてきたかを振り返っておくことも必要だ。

 大前提としては、JAL問題とは歴代政権が放置してきた問題である。官僚がJAL及びその関連会社に天下ったり、JALに無理な便宜供与(要するにたかり)を強要していた。

 一方で、国交省航空局が世界の流れに反して航空行政の自由化を阻み、鎖国状態を続けてきたことがJALの経営体質を「お上依存型」にし、自力で考える能力を奪ってきた。こうした「たかり」や「過保護」が経営悪化の根本原因である。

 そこに政権交代が起こった。若く清新なイメージの前原国交相が就任し、これまでの膿(うみ)をすべて出し切るいいチャンスだと、国民も大いに期待した。

 前原国交相が手始めに行ったのは、国交省航空局官僚が主導していた「有識者会議」の廃止だ。「有識者会議」は、典型的な御用学者を集めた国土交通省の私的諮問機関。単なる国交省へのアドバイザリーであり、法的権限も責任もない。はっきり言えば、誰も責任負担を負わないという意味で、「公平な雑談会」である。それを前原国交相はつぶした。ここまではよかった。ところが、ダッチロールはその直後に始まった。

 昨年9月25日、前原国交相はJAL問題の「タスクフォース」を作った。リーダーに高木新二郎元産業再生機構委員長を据え、冨山和彦元産業再生機構代表取締役専務をサブリーダーとするなど、一見、企業再生のプロ集団のように見える。だがその位置づけは、「有識者会議」と同じく、国土交通省の私的諮問機関、つまり単なるアドバイザリーでしかない。

 前原国交相が本気で仕事をさせるつもりなら、正式に国交省の顧問にするべきだった。それならば、国家公務員並みに守秘義務も課せられ、前原国交相との関係も法的に明確になる。

 さらにまずかったのは、タスクフォース発足時に、前原国交相が「法的整理をしない」旨の発言をしたことだ。この不用意な発言によって、「大臣をサポートしているタスクフォースはプロ集団」という評判を大きく傷つけることになった。前原国交相が素人であるのは仕方ない。だから、プロのアドバイザリーを頼んだと言える。しかし、プロがアドバイスしながら、「法的整理をしない」というのは、あり得ない発言だ。

 企業の再生については、大きく分けて二つの方法がある。法的整理と私的整理だ。法的整理は広く債権者をとらえて、法的手続きの中でそれぞれに負担を求めていく。そのため、債権者の間では公平な負担になるが、手続きに時間がかかるというデメリットがある。一方、私的整理は、一部の債権者に負担を求めるが、その分、早く処理が終わるというメリットがある。

 JALの場合には、政府の100%出資会社である政投銀がJALに対して公的資金を2000億円以上も注ぎ込んでいる。従って、破綻処理という事態になれば、より公正・透明な手続きが求められるので、法的整理を解決手段から除外することなど考えられない。

 しかも、年金債務が巨額で、その処理には一定の手続きが必要である以上、この観点からも法的整理は解決策としてはずせない。にもかかわらず、スタート時点で大臣に「法的整理をしない」と発言させたのは、まさしく暴挙である。

さらに3000億円が

 それに輪をかけたのが、タスクフォースのメンバーの私利私欲だ。メンバーの会社が、前原国交相の意向をちらつかせて、強引に資産査定を行った疑いがある。しかもその中身は、筆者が本誌('09年10月31日号)でとうに報じていたレベルのものだった。その結果、ただでさえ経営が厳しいJALに、10億円もの余分な費用が請求された。

 前原国交相は査定の経緯をどこまで知っていたのだろうか。知っていたのなら、とんでもない悪徳商法に手を貸したことになるし、知らなかったならメンバーへの監督不行き届きだ。タスクフォース・メンバーの法的位置づけがはっきりしていれば、資産査定の実施は前原国交相の意向であることが明確になったはずだ。だが、今となっては誰の責任なのか曖昧で、10億円の余分な出費を負わされたJALにしてみれば、踏んだり蹴ったりだ。

 メンバーの中心である冨山氏は、破綻に陥った不動産ファンド大手のパシフィックホールディングスのアドバイザリーを務めていた。いわば、企業再生の業界では「お手つき」人物である。そんな人物をJAL再生のアドバイザーに選任した段階で、このタスクフォースの運命も決まっていたのだ。こうして見てくると、JAL再建問題の迷走は、前原国交相の迷走と重なり合っていたことがわかるだろう。

 案の定、10月29日、タスクフォースは解散。同日付で、企業再生支援機構によるJALの再生支援が始まり、紆余曲折を経て、法的整理へと落ち着いた。

 今後は、株主に対する100%減資と債権者の債権カットが行われた後、企業再生支援機構が3000億円ほど出資し、新たなJAL再生がスタートする。もし再生に失敗すれば、この3000億円もアワと消え、さらに国民負担が増大することになる。

 その鍵を握るのが、新しい経営者である。だが、その稲盛氏についてのリスクは先に指摘したとおりだ。失敗を取り返すべく、功を焦っているかに見える国交相とのコンビネーションも、危うさを孕んでいる。JALの視界はまだまだ不良と言わざるを得ない。