カネのないヤツは死ね!ということか。銀行からカネを借りられない人間は死ぬしかなくなる。
専業主婦は夫の同意が必要に
消費者金融の業績不振に伴い、閉鎖される店舗が増えている今年6月に新しい貸金業法が完全施行される。これが実は、とんでもない法律だったのだ。
ボーナス前の懐のピンチをキャッシングで乗り切った経験がある人も少なくないだろう。事故や急病。人生にアクシデントはつきものだ。そんな時、借金の上限枠に余裕があることが、どれほどの安心感につながるか、計り知れない。
ところが法律が完全施行されてしまうと、自分の知らないところで上限枠が凍結されるという事態が頻発するようになるのである。
たとえばある日、勤務先が潰れたら、再就職まではクレジットやカードローンの借金枠で食いつなごうと思う人もいるだろう。しかし貸金業法の完全施行後には非常に困難になる。
信用情報が共通化される上に、借入総額が年収の3分の1を超えてはならないという総量規制が強制されるため、日本中の貸金業者が一斉に貸してくれなくなるからだ。
キチンと返済している人でも、借入残高合計が年収の3分の1を超えていれば借金枠は問答無用で凍結される。また夫が同意書を書かない限り、専業主婦は1円も借りられなくなる。
しかも貸金業者が上限枠を削っても、利用者に知らせる義務はないと金融庁は明言しているのだ。
つまり借りられなくなったという事実に利用者が気付くのは、お金が必要になってATMにカードを差し込んだ瞬間なのである。
日本貸金業協会の英(はなぶさ)雅之広報CSR担当副部長が解説する。
「借金の総額が年収の3分の1を超えている人は、少なくとも500万人は存在すると見られています。しかもこの数字にはクレジットカードのキャッシングが含まれていません。今、貸金業とキャッシングのデータを統合する作業を進めていますが、2月までは掛かりそうで、最終的に年収の3分の1枠を超える人が何人になるのか、見当もつかないのです」
キチンと返済を続けていた少なくとも500万人に対し、国が貸し止めを強制する日がやって来るのだ。
毎月200社が廃業
ここで、都内で造園業を営む三浦秀之さんの経験を紹介しよう。健全な利用者が、今後、同じような事態に巻き込まれることが予想されるからだ。
「バブルの頃までは、僕らにも信用金庫がお金を貸してくれたものですけどね。延滞したこともなかったのに、ある時いきなり『貸せなくなった』と言われて貸し渋りに遭って、それから貸金業者に頼るようになったんです」
三浦さんの会社は、大型ビルが竣工する時に、造園や垣根などの外構を一括して引き受け、設計・施工を手がけている。突発的に入って来るオファーにきちんと応えられれば、数千万円単位の仕事になる。
ただし造園業は現金仕入れが原則だ。仕事が決まると植木や資材を数日で用意し、工事に取りかかる必要がある。そんな時、三浦さんは貸金業者を活用してきたのだ。
「即日でも1000万円ぐらいは貸してくれるマチ金がいたんです。当時は年利40%でしたが、1カ月もすれば返済できるので、利子は約40万円で済む。これで売上高2000万円の仕事を取れるのですから、とても助かっていたんです」
このマチ金は従業員が二人だけ。長い付き合いを経て三浦さんの人柄も仕事の内容も知り尽くした、零細な貸金業者の典型だった。だが平成18年に貸金業法が部分施行され、貸出金利を15%以下にせよ、資本金5000万円を用意せよ、信用情報機関とオンライン接続せよなどと言われてしまった時、零細マチ金には廃業以外に選択肢はなかったのである。
前出の英氏は言う。
「平成11年に3万社を超えていた貸金業者も、今や4752社(平成21年10月時点)しかありません。廃業は今でも毎月200社のペースで続いています」
頼みの綱を失った三浦さんは、ほかの業者を探そうと努力した。だが広告では法定金利を謳う業者でも、書類を揃えて持って行くと、
「30万円貸すから10日後に40万円を持って来い」
などと平然と言うのだ。正規の看板を掲げる貸金業者が、ヤミ金に転身していたのである。
「もう大きな仕事があっても引き受けることはできません。昔は十数人いた職人にも辞めてもらいました。今は昔なじみのお客さんの庭の手入れだけをしています」(三浦さん)
大企業であれ零細企業であれ、金融の道を閉ざされてしまえば、もはや仕事をすることもできなくなる。
こうして不況に苦しむ日本の片隅で、また十数人分の雇用が失われたのだ。
「これまでサラ金の世話になったことはない」と話していた亀井氏金融担当大臣の亀井静香氏は話す。
「(貸金業者には)あれだけの需要があるのだから、それなりの社会的な責任の一端を果たしているのも事実です。銀行や政府系金融機関等が責任を果たしていないことの裏返しでもある」
貸金業法の改正を決めた金融庁の貸金業制度等に関する懇談会(平成17年)の議論を見ると啞然とする。
「専業主婦は夫に黙ってパチンコやホストにはまってしまうのが問題。配偶者とセットで貸すべきだ」
こう公言するのが懇談会の事務局長を務めた大森泰人参事官(当時)だ。
貸金業の長所は「お金が急に必要になった時、その日その場で借りられる」という点である。その代わり金利は高い。
利用者の圧倒的多数は長所と短所とを踏まえて使う健全な利用者なのだが、懇談会は19回も開催されたのに、健全な利用者の声は、一度も聴取して来なかったのである。
一方、多重債務者問題を長年扱ってきた宇都宮健児弁護士ら日弁連は、多重債務に関するさまざまな資料を提出。懇談会では「多重債務の被害者の意見」ばかりが繰り返し聴取された。こうして上限金利を15~18%(10万円以下なら20%)へ引き下げ、これを超えれば懲役10年を科すことや、専業主婦の借金にはダンナの同意を義務付けることが決められたのだ。
要するに、「多重債務の被害者を減らす」という一点に目を奪われ、多数の健全な利用者を置き去りにしたまま作られた欠陥法と言えるのではないだろうか。
大森参事官や懇談会のメンバーの大半は中年男性だ。その彼らが頭の中で勝手に作り上げた債務者像とは異なり、関西学院大学の甲斐良隆教授の研究によると、低所得の女性層が初めて消費者金融からお金を借りた理由は、4人のうち3人までが、生活費・医療費・教育費のためだった。
ところが、大森参事官らが主張するような、ギャンブルや酒や異性のために借金を始める層も、たしかに存在する。3人に2人が交際費や遊興費のために借り始める層。それが「高収入の男性」なのだ。
実に懇談会の主要メンバー自身のことではないか。
つまり大森参事官らは、鏡に映った自分たちの姿を見ながら、それを無関係な他人の姿だと思い込み、他人の生活態度を非難するつもりで自分自身を非難していたのだ。
事実の代わりに偏見に基づき、合理性の代わりに思い込みによって誘導され、日本の一つの巨大産業に対する「死刑判決」が下されたのである。
物であれサービスであれ何であれ、政府が値段を強制的に引き下げれば、瞬時に市場からは商品が消えてしまう。これは高校の教科書にも載っている経済学の基礎の基礎だ。
ところで、「お金」の値段とは「金利」のことである。
したがって、貸金業の上限金利を引き下げた結果、貸金業者の9割近くが廃業し、貸出額が壊滅的に収縮してしまったのも当たり前なのだ。
政府が強制的に金利を引き下げた瞬間から、貸金業者の貸し出しは収縮した。これこそが私たち日本人が直面している不況のなかの現実なのだ。
「過払い利権」に群がる弁護士
実に驚くべきことに、懇談会では「多重債務者とは何か」という定義すら行われないまま、ムードに流されて議論が進み、法律の骨子が作られていた。
多重債務者の定義は何なのか。筆者が宇都宮弁護士に質問したところ、虚を衝かれたように一瞬黙り込んだあと、
「たとえ1社からしか借りていなくても、過剰融資を受けていれば、それは多重債務者なんです」
と答えた。だがこれは宇都宮弁護士独自の定義にすぎない。ある消費者金融関係者が言う。
「多重債務と過重債務は違います。きちんと借金を返せるアテがあるのなら、数社から借りていても問題ではありません。しかし借金を返すために別の業者から借金しなければならなくなった時、それが過重債務なんです。もしも規制するのなら、過重債務こそ規制すべきだと思います」
総量規制を導入し、年収の3分の1以上の貸し出し禁止を杓子定規に決めた時、懇談会の委員の頭の中には、貸金業をぜひとも必要としていた造園業の三浦さんのような存在は浮かびもしなかったに違いない。
多重債務者の発生を防止するために、上限金利を引き下げ、年収の3分の1以内に借金総額を制限するという貸金業法は、目的と手段とが、まったくミスマッチだったと言わざるをえないのだ。
ところで今、多重債務者が弁護士や司法書士によって逆に食い物にされるケースが多発している。
東京情報大学の堂下浩・准教授によると、弁護士等に債務整理を依頼した人は、平均して依頼時にまず15万円を払い、さらに過払い金「請求額」の18%を取られていたことが分かったという。
「弁護士らは貸金業者となるべく早く和解に持ち込もうとします。このため実際の支払額は業者に値切られる場合も多く、その結果、取り戻した金額の3分の1が弁護士らの報酬として取られているのです」
さらには、過払い請求をして報酬を受け取りながら、債務整理をせずに放置するケースも多発しているのだ。
過払い請求だけなら、パソコンでアルバイト事務員が片手間でもできる作業である。ある弁護士事務所では「CMを見て電話を掛けてきた客の相手をする事務員」を、時給1500円で今でも公然と募集しているほどだ。
だが、一度過払い請求をしてしまうと、信用情報に載ってしまうため、借金をしていた人は新たな借り入れがほぼ不可能になる。それなのに債務整理をしないで放置されてしまうと、借金苦からも取り立てからも解放されないのだ。
これは一部の不心得な弁護士・司法書士に限られた問題なのだろうか。
過払い請求を集中的に行っている弁護士・司法書士のシェアを筆者らが調べたところ、上位10法人のシェアを合計しても、わずか13%強に過ぎなかった。
これほど上位の業者のシェアが低いという事実。それは、一部の弁護士・司法書士だけが集中的に過払い請求を行っているのではなく、日本中の弁護士や司法書士たちが、ここぞとばかりに一斉に「過払い利権」に群がっているという構図であろう。
弁護士はカネを返せ!
その一端が現れたのが、昨年10月21日に明らかになった弁護士・司法書士の大量脱税事件である。過払い金問題を主に扱う697人もの法曹人が、脱税で摘発されたのだ。
最高裁で勝訴し、貸金業者から過払い金を取り返す道筋を作った新里宏二弁護士は憤慨する。
「取り返したお金は困っている人に返してほしい。簡単な仕事で暴利を貪ってほしくないんです」
法曹界には、自浄能力はないのだろうか。
宇都宮弁護士は言う。
「犯罪に近い荒稼ぎをする者が現れるようになり、弁護士への苦情がこの4年間で倍増しています。日弁連はガイドラインを出しましたが、これは規則ではないので、違反しても懲戒処分にできません。そこで規則に格上げして強制するかどうかを、今、検討しているところです」
規制は、いつか作られるのかも知れない。だがそれは「過払い利権」があらかた食い散らかされた「後の祭り」となるだろう。
他人に厳しく、自分たちには大甘の弁護士たち。弁護士に自治権が与えられているのは、何のためだったのだろう。
自らを迅速に律することもできないのなら、むしろ弁護士規制法こそが必要ではないのだろうか。
金融庁は、貸金業法を完全施行する前に、自治体などが低所得者に融資するセーフティネットを完備する、と言っている。
そのセーフティネットとやらが、笑うこともできないシロモノなのだ。
試しに役所に行き「生活福祉資金貸付」を申し込みたいと言ってみればいい。
3カ所も4カ所も窓口をタライ回しにされ、毎回お説教を並べられ、失業者でないとダメですとか、親や親戚から借りなさいと諭(さと)される。それでも必要なんですと頼むと、
「自己破産か債務整理の費用なら貸します」
と言われるのだ。
これまた法曹界が潤う仕組みだったのである。
プライドをズタズタにされた上、債務整理を強要される。こんなシロモノひとつで「セーフティネットは完備された」と役人や日弁連は胸を張るのだ。
だが崖の底に張った網のことをセーフティネットとは普通は呼ばない。筆者には、法曹界のための底引き網に見えるのだ。
こんな不愉快な目に遭わされるぐらいなら、首でもくくったほうがまだマシだと思う人もいるだろう。
シティグループ証券で貸金業界を調査する津田武寛ディレクターが指摘する。
「6月に完全施行された瞬間、総量規制をオーバーしている500万人は、自殺するか、破産して生活保護を受けるか、犯罪に走るか、とにかく悲惨なことになるでしょう。累々と犠牲者が出たあとでないと、おかしな制度を変えることもできないのだとしたら、日本っていったい何なんだろうと思いますね」
〔取材・文:水澤 潤(生活経済アナリスト)〕



