伊藤 博敏伊藤博敏「ニュースの深層」

2010年09月09日(木) 伊藤 博敏

証券監視委が精力的に調査する医療ベンチャー富士バイオメディックスの「闇」
08年の倒産劇のウラに重大疑惑

 医療支援事業で急成長、売上高が300億円を突破する勢いだった富士バイオメディックス(名証セントレックス)が、2008年10月、民事再生法の適用を申請して倒産した時、証券界には「どうもウラになにかあるに違いない」という噂が流れた。

 同社は業績は右肩上がり、事業範囲もアンチエイジング事業などを加えて広がりを見せていた。ところが08年5月期決算で、突如、医者個人に30億円、医療法人に20億円など52億3300万円の未収金を計上。その回収の見通しが立たず、資金調達も困難となって倒産、負債総額が218億円というのだから粉飾決算を疑われても仕方がなかった。

 当然、証券取引等監視委員会(証券監視委)は関心を持つ。内偵を続けたうえで今年に入って強制調査に踏み切り、最近、関係者の事情聴取を活発に行っている。

「担当の特別調査課は、かなり正確に事件の構図を掴んでいる。粉飾決算もあればインサイダー取引もある。さらに経営陣の特別背任を疑うこともできる。10月になれば、地検特捜部の財政経済班と協議、年内には事件化するんじゃないか」(証券監視委関係者)

 倒産の引き金を引いた「未収金」とは何か――。

 そこには、上場を目指した鈴木晃前社長が抱えてしまった宿痾があったという。医療業界関係者が明かす。

「富士バイオメディックスは、介護大手のメディカジャパン(ジャスダック)の関連会社。メディカのオーナーはこの業界では有名な神成裕氏で、鈴木氏は雇われ社長。鈴木氏には社長に取り立ててくれた神成氏への恩義があった。
  また、大株主には投資の世界では有名な加ト吉創業者の加藤義和氏が名を連ねていた。2人の期待に応えようと、鈴木氏は無理を重ね、それが決算の粉飾につながった」

 富士バイオメディックスの上場は05年8月。当時の売上高は105億3500万円(05年5月期)、経常利益4億5700万円(同)だったが、その数年前から粉飾は繰り返されていたのだという。

「関係会社への架空売上の計上、保証金名目での支払いや貸付金などで売上と利益を"調整"していました。還流した資金で株価維持のために自社株買いもしていた。また、医療法人を買収しながら資産計上していなかった例もありました。

 07年5月期には、監査法人が代わったこともあって、そうした『負の処理』を一括で行わなければならなかった。結局、60億円を仮払金で処理、新たに医療機関を二つ買収したことにして"辻褄"を合わせたんです」(富士バイオメディックス関係者)

 無茶苦茶である。バランスシートに空いた"穴"を、医療機関の架空売買で埋め、60億円を資産計上したというのだ。もちろん、カネは動いていない。

 台東区の医療法人買収は約46億円で合意がなされ、オーナーの理事長には6億円の手付金が支払われた。渋谷区のクリニック(法人化されていない)の買収は約26億円で合意がなされ、6億円の手付金が支払われた。

 07年5月期はこうして乗り切ったが、08年5月期にはごまかしが効かない。少なくとも台東区のオーナー理事長には残金を支払わなければならず40億円を支出、渋谷区のクリニック院長とは親しい関係にあったので引き伸ばしていたものの、結局、話し合いはつかず、20億円は未払いのままだ。

破れかぶれ決算を実施した「チーム」

 こうして辻褄が合わないまま、08年5月期は取りあえず「未収金」として処理したものの、穴埋めする材料はなく、民事再生に駆け込むほかはなかった。

 鈴木前社長ら経営陣は、07年5月期の「破れかぶれ決算」を、外部の"専門家"に委ねたという。

「完全に行き詰っていました。そこで、鈴木さんはM&Aを通じて会社に出入りしていた元行政書士に"工作"を依頼したんです。

 元行政書士は仲間の税理士や著名コンサルタントを呼び、チームを組んでスキームをつくる。それが仮払金での一括処理、医療機関を買収したことにした架空の資産計上などにつながった。

 海千山千の連中だからできたことですが、後は野となれ山となれ、という処理だから倒産もやむを得なかった」(前出の関係者)

 粉飾の処理を依頼して傷口が大きくなったわけだが、依頼も含めて経営陣の責任であり、鈴木前社長の責任は免れない。また、粉飾決算以外の問題もある。

 富士バイオメディックスは、08年2月、東邦薬品に対する第3者割当増資を実施、48億円を調達している。もちろん粉飾の事実を隠しての調達だから偽計取引であるのはいうまでもないし、詐欺を疑うこともできる。

 さらに、長期にわたった粉飾決算の過程や断末魔に登場した仕事師たちの処理には、不可解なカネの流れもあり、特別背任や横領事件へと延びる可能性もある。

 名証セントレックスに上場する医療ベンチャーの倒産劇は、粉飾が横行する証券市場の歪さを見せつけつつ、大きな経済事件へと発展しそうだ。