週刊現代永田町ディープスロート

2010年01月19日(火) 週刊現代

「鳩山さん、悪いのはあなた、
国民のせいにしないでね」
田中秀征×田崎史郎

あれだけのお金持ちだから、悪いことはしないよね。そんな根拠のない信頼だけで、総理は務まるものなのか―細川政権で首相補佐を務めた田中氏と時事通信解説委員長の田崎氏はどう見ているか。

曲目を決めない指揮者だね

田崎 鳩山政権の4カ月間を見ていると、政権交代が起きたのではなくて、攻守交代が起きただけという感じがするんですね。政権の体質そのものが自民党のときと比べて、どれだけ変わったのか疑問です。昨年暮れの予算編成では、アメとムチによる露骨な参議院選挙対策が行われました。

田崎史郎

 民主党は政治主導の一つの形態として、政策決定を内閣の下に一元化するとマニフェストに掲げました。ところが、予算編成などを見ていると全然、内閣に一元化されていない。ガソリン税の暫定税率の維持などで小沢一郎幹事長が党の要望を申し入れ、最終的に党主導で決まっています。

 田中さんはどのように見られていますか?

田中 民主党政権に対する有権者の許容範囲はまだまだ広いですが、鳩山政権は失敗してもいいところを重大視し、逆に失敗してはいけないところを軽視しているという印象を受けます。

田崎 具体的にどんなところでしょうか。

田中 今回の政権交代をもたらした最大の要因は、民主党が自民党時代の官僚依存の政治から脱却して、政治主導体制を築くというところにありました。しかしこれまでの政権運営を見ると、その根幹部分で腰砕けになっている。深刻な事態ですが、その背景には鳩山由紀夫さん自身の政治手法が大きく影響しています。

田崎 ええ。霞が関で聞いても、民主党に聞いても、鳩山さんはとにかく自分で決定しない人だと言います。ある人が意見を言うと「そうだ」、別の人が別の意見を言うとまた「そうだ。それ、いいね」となる。

田中 私も鳩山さんが総理大臣になるにあたって一番心配したのが、彼の政治手法なんです。

田崎 普天間基地の問題でも、日米関係、沖縄県民の気持ち、連立の維持、すべて大事だと言う。そうすると何も決められないですよ。これは総理自身の資質に帰するので、おいそれと解決するものでもない。

田中 昔から、鳩山さんは問題を泳がせるんです。たとえて言うと、大きな鍋でいろんな具材を煮ているようなもの。その中には小沢一郎さんもいるし、社民党もいるし、亀井静香さんもいるし、沖縄県民もいるし、オバマ大統領もいる。時々フタを取ってかき回して、またフタを閉める。何を作っているんだと聞いても「いいものができる」と言うだけで、それ以上、何も言わない。結局、何ができるか、自分でもよく分かっていないのではないか。鳩山さんはそういう手法で今まで政治生活を送ってきたと思うんですよ。

田崎 言い得て妙ですね。

田中 しかし、今まではある種の成功体験を得てきたとしても、総理大臣としてこの手法は通用しません。

田中秀征

 私が推測するところ、鳩山さんは普天間基地の問題をずっと先送りしたかったはずです。社民党が基地を辺野古へ移設するなら連立を離脱すると宣言をして、ホッとしたんじゃないでしょうか。先送りの責任を社民党に転嫁することができるからです。今回の予算編成に対する小沢さんの要望も同じでしょう。

田崎 たしかにそうです。

田中 メディアや国民の批判がそっちに向かうので、責任が自分のところに来なくなるんです。ただし、この手法には限界があって、それが続くと、みんなが首を傾げてくる。

田崎 鳩山さんは総理の役割について「コンダクターだ」とおっしゃいましたね。「皆さんのいい音色が出るようにやるのが私の仕事です」と。けれども、タクトを振らないんですよね。みんなが好きな楽器を好きなように奏でている状況がずっと続いている。

田中 それ以前に、曲目を決めないんですよ。

田崎 鳩山さんの言葉使いにも問題があると思います。使ってほしくない言葉は、「国民」ですね。

田中 まったく賛成です。

田崎 「国民」というと「みんな」なんですよね。国民の要求はそれぞれ違うわけです。それなのに「国民の思いを大切にして」などと言って、本来は自分の決定のはずなのに、「みんな」のせいにして曖昧にする。

田中 言葉を軽々しく使ってもらいたくないですね。

田崎 元秘書が政治資金規正法違反で起訴された直後の会見で鳩山さんは、進退問題について「国民の気持ちが傾いたときには……」と語り、世論の動向次第では進退を考えることを匂わせた。首相の進退は本人しか決められないのに、こういうことを言うんです。

田中 それも鳩山さんの政治手法なんですよ。

海部さんによく似ている

田崎 民主党の体質にも少し触れると、彼らはずっと野党だったので、要求するとか批判することしか、してきませんでした。だから物事をまとめる訓練ができていない。結局、誰がまとめるのかというと、小沢さん以外にいなくなってしまうんですよね。

 本来、小沢さんが出てくるのは、内閣の下の政策決定の一元化には反することなのだけれども、仮に小沢さんがあそこで言わなかったら予算編成は年を越していたかもわからない。

田中 たしかに、あれは鳩山首相に対しての助け船になりましたね。

田崎 しかし、私は予算の越年くらいの失敗を経験したほうがいいんじゃないかと思いましたね。一度、手に負えないところまで混乱すれば、かえってするべきことに気づく効果もあったのではないかと思ったんです。だけど結局、小沢さんが出ないとまとまらない政権になってしまった。

田中 予算でも税制でも、小沢さんの登場で責任が小沢さんに行ってしまった。これではダメですよ。

田崎 ええ、そうです。

田中 鳩山さんは問題を泳がせて、自分で決めない、そして責任を取らないという政治手法になっている。これでは総理として、まったくダメ。基本方針を出さないんですから。

田崎 鳩山政権を見ていると、海部政権を思い出してしまいます。小沢さんが自民党幹事長で、海部さんも鳩山さんと同じような言葉使いでした。「私が決めます」とか「最終結論を出すのは私です」とか。本来ならこんな言葉は言わなくていい。総理が最終的に決定するのは当たり前のことなんですから。なぜそこまで言うかというと、総理自身が、自分以外に政策を決める人がいるのを知っているからでしょう。

田中 そうですね。

田崎 海部さんも実際は小沢さんにすべて委ねていた。“海部さんの顔をした小沢政権”だったんです。ただ、あのときは、小沢さんの後ろには金丸信さんや竹下登さんが、同じクラスには梶山静六さんや羽田孜さんがいて、小沢さんに注意できる存在があったんですよ。今はそれがない。

田中 小沢さんが一人、ガリバーになってしまった。

田崎 それが政治を歪めている。それは小沢さんの責任であると同時に、それを止められない他の人たちの責任でもあるんですよ。

田中 「修学旅行」と揶揄された、民主党議員団の訪中もそうです。鳩山政権が日中関係を改善するための本格的な軌道に乗せたという点は高く評価します。だけど、そこには毅然とした態度がない。小沢さんが百数十人もの国会議員を引き連れて、胡錦濤国家主席と握手してもらってニコニコと喜んでいる。見ているこっちが恥ずかしいです。

田崎 小沢さんの最近の行動、訪中や宮内庁長官批判、予算要望などを見ていて思うのですが、晩年の田中角栄さんに似てきたのではないでしょうか。自分の力をこれ見よがしに誇示するようになってきた。

 たとえば角栄さんは、'84年4月に行われた竹下登さんの父親の葬儀に、田中軍団を引き連れてチャーター機で島根へ行った。あるいは'78年の10月、来日した小平氏が目白台の田中邸を訪れた際に、田中軍団を全部集めて歓待した。

田中 そうそう。思い出しますね。

田崎 そんな角栄さんと同じように、小沢さんも人を集めることで自分の力を見せつけるようになってきたのではないか。今年元日の小沢邸における新年会には閣僚を含めた民主党議員が166人も出席して、さながら田中邸の新年会のような佇まいでした。

 自民党幹事長時代の小沢さんは裏ですべて手を回して、表に出るときはまとまっているという状況を得意としてきた。ですが、この1カ月間ぐらいの動きを見ると、「俺はこれだけ力を持っているんだ」ということをあえて見せようとしています。そして、ついにはマニフェストの一部まで撤回させてしまった。

田中 たしかに今回は公約違反が多いですね。

 自民党は、できないことは言わなかった政党です。ゴマかすことはあっても、できもしない約束を数字まで入れて言うということはしなかったですよ。そういう点から見ると今の民主党政権は自民党以下ですね。

 たとえばCO225%削減の問題でも、麻生太郎さんも福田康夫さんもみんな言えるなら言いたかったはずですよ。だけど、その後の日本経済の姿や国民生活の姿をきっちり見通して展望した上で国民の理解を得て、と思っているから言えないのであってね。

どうせできないなら、誓うな

田崎 ある種、鳩山さんが凄いのは、マニフェストを発表した7月の記者会見で「公約が実現できなかったときには、政治家としての責任を取る」と明言していることです。実現するための方策を何も考えていないのに、打ち出したことに対して責任を取ると言う、この神経が分からない。

田中 鳩山さんはその時その場で一番いい言葉を吐いちゃうんですよ。普天間の問題一つとっても鳩山さんは「最低でも県外」と言ってしまった。それだけだったら徹底的にやられます。でも鳩山さんはあっちでもこっちでも発言を翻しているものだから、もう周りが追及するのが嫌になっちゃって(苦笑)。その結果、国民に残っているのは苛立ちだけなんですよ。このままでは、政権交代が水泡に帰してしまいます。

田崎 そのわりに鳩山さん自身、野党の党首時代は「言葉の重みを考えろ」などと与党を追及していたんですよね。それがなぜ、自分の立場になったときに、そういうことを考えないのか。これでまたこちらの追及する気が失せるんですよね。

田中 追及したところで、意味の分からない言葉が返ってくる。鳩山さんの言葉使いや手法に、私たちはもっと気を付けなきゃいけないのではないでしょうか。

 最近の言葉でも、暫定税率の維持を決定したとき、他人事のように「お詫びしなければならない」という言い方していました。「お詫びします」でも「申し訳ありませんでした」でもないんです。ここが基本的に間違っている。結局、鳩山さんにとってガソリン税は他人事のように見えてしまう。

田崎 しかも、その数日前に「暫定税率をなくすことは国民に対する誓いだ」と言っているでしょう。「誓い」が数日で変わってしまうんですよね。

田中 そういう話法は総理として明らかに不適切です。せっかくの政権交代にとって悲劇的な結末を招きかねません。

田崎 有権者は政権交代という正しい選択をしたのだけれども、それを台無しにしかねないのは鳩山さんなんです。鳩山さんご自身が国民の期待を裏切っているということだと思います。

田中 特に政治主導の問題、私の一番期待していた官僚改革、行政改革に手が付かないことが問題です。それこそが政権交代の最大の期待だった。それに対して、元大蔵事務次官を社長に抜擢する日本郵政の人事のようなことが起きてしまうわけですから愕然とします。民主党は「天下りの全面禁止」と言って票を取ったわけでしょう。

田崎 そうですよね。

田中 結局、民主党の言う政治主導は表面的なんですよ。私は政治家が前に出て来ているから政治主導だ、とは全然思わない。必要があれば政治家がきちんと指示を出して官僚に記者会見させたり、答弁させたりしてもいいんですよ。今の状態では、政治家が陰で官僚に「どうやって答弁したらいいか」を聞いている姿が、すぐに思い浮かびますよ。

田崎 官僚のやることを自分たちでやるのが政治主導だと誤解している人がいて、形から入っている感じがするんですね。政治家がイニシアティブをとって決めていくというのが実質だと、私も思うのですが。

田中 民主党の官僚改革は形式だけなんですよ。

田崎 次の焦点は予算案を通過させられるかどうかです。場合によっては政権の危機になっていく。

 衆議院で300議席超という数を民主党は持っていますが、数がたくさんあっても案外と意味がないんですね。中曽根さんのときも300議席を超えていたけど売上税(消費税)の導入に失敗した。世論を敵に回したとき、国民の支持を失ったときは、国会での議席数に意味がありません。

田中 まったくその通り。

田崎 予算成立の時期には西松事件にまつわる小沢さんの秘書の判決も下りる見通しです。そう考えると、この春先ぐらいが一つのポイントになっていく。

田中 春先どころか、政権はすでに危機的状況です。

どうやったら信用できるの?

田崎 それにしても、鳩山さん本人は相当図太い感じですよね。色々な批判に対しても、あまり堪えていないように見えます。

田中 鳩山さんは何を考えているか分からない人というイメージを、これ以上定着させてはダメですね。

田崎 逆に小沢さんの最大の目的は分かりやすく、今年の参議院選挙で勝つことですよね。そうなると鳩山さんで参院選を勝てるのかという問題が出てきます。

 民主党議員のなかにも、鳩山さんが参院選で有権者に訴える姿にリアリティを感じないと言う人がいます。これだけマニフェストの根幹を揺るがせておいて、選挙で何を訴えるのか。

田中 マニフェスト選挙は終わりですよ。国民はもう信用しないですから。最大の選挙対策は立派な政権運営、それしかありません。小沢さんはもちろん心得ているでしょうけど。

田崎 その小沢さんの発言で気になるのは、「参院選で過半数をとれば、内政でも外交問題でも思い切ったことができる」と言っていることです。それでいて「思い切ったこと」が何なのか、語らないんですよ。圧倒的な権力を小沢さんが持っているわけだけど、中長期的に日本をどうするのかを示していない。有権者にとっては困った事態です。

田中 すでに内閣支持率は落ち込んでいて、報道各社の世論調査では50%を切りましたね。実際、昨年から経済の落ち込みは深刻で、きちんとした政策を実行しなければ、すべて政権の責任にされます。本当にここで気持ちを一新してやってもらわないと、政権交代も台無しになるし、日本経済も潰れてしまいますよ。