「最強の捜査機関」が、政権党の現前代表を狙うという前代未聞の刑事事件が、さらに大きく発展、東京地検特捜部は、13日、小沢一郎民主党幹事長が代表を務める政治団体「陸山会」の事務所や大手ゼネコン鹿島の本社などを家宅捜索した。
樋渡利秋検事総長や大林宏東京高検検事長など検察首脳は、当初、政権与党の大物幹事長に、あからさまな挑戦状を叩きつけるのを好まなかった。
「陸山会」会計担当の石川知裕秘書(現代議士)と、会計責任者の大久保隆規秘書(別の政治資金規正法違反で公判中)を在宅起訴、国会会期中は水面下に潜った捜査を続け、最終的に小沢氏の刑事責任を問う意向だった。だが、小沢氏は任意の事情聴取に応じない。当然、捜査現場の特捜部はいきり立つ。
俺たちをなめているのか。ガサをかけて徹底的に追及するしかない!
こうした「現場の声」を、穏便に済ませたい検察首脳も制御できなくなり、強制捜査へのゴーサインを出した。
検察には、一体となって事に当たる「検察一体の原則」がある。「民主VS特捜」の戦いは、鳩山由紀夫首相の元秘書を在宅起訴、鳩山首相と資金の出し手であった実母・安子さんへの事情聴取は「上申書」で済ませて終結、今年から舞台を「小沢捜査」に移した。その最初の段階で小沢氏の抵抗にあって検察は一体となって燃え上がった。そこには、小沢氏の放置が、検察への“逆襲”につながることへの恐れがある。
事件の背景に、政権交代で「官僚支配からの脱却」を掲げる民主党への「法務・検察」の反発があること、なかでも「親父」と仰いだ田中角栄元首相や金丸信元自民党副総裁を逮捕した検察への“怨念”を持つ小沢氏が、「法務・検察」の秩序をガタガタにしかねないことへの不安が、「小沢排除」を狙った捜査となったことは、前回、詳述した。
小沢氏は、刃向かう者を許さない。徹底的に締め上げ、排除する。自分を「好き」か「嫌いか」の二者択一を迫り、ついてこなければそれまでだ。ゆえに、切られた側近ほど「愛憎」の果てに憎悪をつのらせて「反小沢」に回る。この性格は強さではあるが、権力者としては怖い。
小沢氏は、自己愛が強く、誇り高く、目的のためなら破壊を厭わない。
小沢氏が1993年の新生党設立の頃から成し遂げたかったのは、政権交代である。細川護煕元首相を擁立、その手掛かりは掴んだものの、本格的な政治改革、政権交代にはほど遠かった。昨年8月末の民主党大勝を受けた鳩山政権こそ念願成就の政権であり、本気で改革に動いている。かつての側近の藤井裕久前財務相の“放逐”など歯牙にもかけない。
その強者が、昨年3月の大久保秘書の逮捕から10カ月、ひたすら「法務・検察」の攻撃に耐えた。大久保逮捕の翌日、「虚偽記載は知らなかったこと。訂正すれば済む話ではないか。いきなり逮捕とは、あまりに不公正だ」と、憮然とした表情で語ったが、その後も胆沢ダム受注業者からの裏献金、秘書宅4億円の原資などを連続追及され、ついには自身の参考人聴取まで要請され、それを拒否すれば家宅捜索である。ハラワタが煮えくりかえっているに違いない。
検察は、総力をあげて捜査するが、石川代議士らの起訴はともかく、小沢氏に行き着くまでには、まだ相当の時間がかかる。当然、小沢氏の逆襲が始まる。
まずは聖域つぶし。検事総長人事の見直しから始めよう。「官僚支配からの脱却」を掲げる民主党は、仙谷由人行政刷新相が主張しているように、事務次官を頂点にした「霞が関」の支配体制を崩すために、事務次官制の廃止をもくろんでいる。
台形の組織になれば「政治主導」が徹底するという理屈だが、法務事務次官の上に最高検検事総長、東京高検検事長といった「天皇の認証官」を擁する「法務・検察」はどうなるのか。
総長人事は「内閣の助言と承認」を必要とするものの、最高検から出された人事に「不承認」を与える理由を探すのは難しい。それでも「政治主導」を徹底しようと思えば、「国会同意」を必要とするよう法改正することが考えられる。そうなると民間総長が実現、検察庁から人事権を取り上げることになる。ただ、法改正は時間がかかるから、今回はもっと直接的に逆襲するのではないか。
検事総長の定年は65歳。樋渡検事総長は、8月4日に定年を迎えるため、それまでに大林東京高検検事長に“慣例通り”にポストを譲らなくてはならない。その際、内閣を事実上、握る小沢氏が「内閣の承認」をすんなりとは与えまい。
「鳩山・小沢事件」では、いつに増して検察からの情報リークが目立った。検察は否定するだろうが、捜査権によって押さえた政治団体の帳簿や銀行口座の情報が、次々とマスコミに流れるのはなぜなのか。この情報リークや恣意的な捜査を理由に、検事総長人事を「助言」という形で妨害、意の通る検察OB弁護士を検事総長に据えようと画策することがあり得る。
それがあまりに露骨だというなら、夏の参院選後に予想される内閣改造で、指揮権発動も辞さない強烈な「反検察派」を法相に起用、恣意的と思われる検察捜査に指揮権を発動、特捜検察を“骨抜き”にすることもできる。
指揮権は、1954年の造船疑獄の際、当時の佐藤栄作自由党幹事長を逮捕する際に発動され、それ以降はタブーとされてきたが、検察庁法の第14条に法相の検事総長への指揮権が規定されており、その“宝刀”を「抜いてはならない」というものではない。
「法務・検察」は、「政財官」の監視役であることを理由に、マスコミの“支援”を受けて、これまで不可侵領域だった。しかし、検察庁は法務省の特別機関という位置づけの行政機関。それを従えるのは当然、という意識の権力者が出てきた。この抵抗する者を許さない強面の小沢氏は、「法務・検察」の解体をもくろんでいるが、脛に数々の傷を持つ。
その「傷」に目をつけて、検察が捜査権と公訴権を武器に切り込んできた。逃れるのは容易ではないが、負ければ政治資金規正法違反で起訴され、公民権を奪われて政治生命を失う。政治権力と捜査権力のがっぷり四つの大げんかは、互いの存亡をかけた血みどろの争いになってきた。



