
記者生命をかけた「自爆テロ」
3月16日、全国人民代表大会が閉幕した。この年に一度の中国の国会をウォッチし続けて20数年になるが、今年はまるでシャンシャン株主総会を見ているようで、無味乾燥だった。
私が北京に駐在していた胡錦濤時代、全国人民代表大会は、共産党一党独裁下の中国で、唯一の「ガス抜き場」だった。
2010年には、開幕直前に主要12紙が「戸籍制度改革をいますぐ実行せよ」という声明を発表した。マンション価格高騰で庶民が悲鳴を上げている中、馬建堂国家統計局長が会見で「マンション価格は1.3%しか上がっていない」と嘯いた時には、メディアが馬局長に「ミスター1.3%」というニックネームを付けて糾弾した。
2013年には浙江省の代表が、机上に毒食品を並べて、「中国はこんなにおかしなことになっている」と告発した。
だがいまや、全国人民代表大会直前に、習近平主席が「メディアは党中央と完全に一致せよ!」と号令をかけたことで、メディアは沈黙。各省から来た代表たちも、習近平主席に阿諛追従する発言に徹するか、それが嫌な人は沈黙していた。
中国で文化大革命が終了したのは「わずか40年前」のことであり、中高年以上の中国人には、あの「狂気の時代」がいまだに身に沁みているのだ。
それでも勇気ある記者が、「自爆テロ」に出た。3月13日、中国国営新華社通信は、次のように報じた。
〈 中国の最後の指導者である習近平は、今年の両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)で、「中国の発展は一時一事、波はあるが、長期的に見れば順風満帆だ」と表明した 〉
1時間後、新華社通信は「中国の最後の指導者」を、「中国の最高の指導者」に訂正した。
これは、「高」と「後」を打ち間違えた単純なミスだろうか? 私にはそうは思えない。まず「gao」と「hou」を中国人が打ち間違えることはない。中国語のタイプ方法は、ピンイン法以外にもあるが、いずれも打ち間違いが起こるとは考えにくい。
そもそも「中国の最高の指導者」(中国最高領導人)という表現自体が不自然だ。普通は「習近平総書記」か「習近平主席」で、親しみを込めて「習近平同志」と書かれることもある。だが「中国の最高の指導者」という言い方は、普段はしていない。つまり、記者が故意に「自爆テロ」を起こした可能性が高いのである。
「自爆テロ」という言い方がきつければ、「ささやかな抵抗」と言ってもよい。この「一文字」のせいで新華社から追放され、中国での記者生命が終わるのは確実であり、そこまで決意してやった行動に思えてならない。
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