現代新書カフェ
2016年03月21日(月) 酒井 崇男

海外企業のほうが必死に学んでいる「トヨタ」の強さの秘密

日本人が知らない日本最大のグローバル企業

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〔photo〕gettyimages

売上27兆5000億円。営業利益2兆8000億円。世界でも有数の大企業であるトヨタ。その強さはしばしば「生産方式(カンバン)」にあると言われてきた。しかし、工場の話だけでは、なぜ「売れるモノ」を作りつづけられるのかという謎は解けない。

新著『トヨタの強さの秘密』で、日本ではほとんど語られてこなかったその謎を明かした酒井崇男さんにインタビューする(後編)。

←前編はこちら

「売れるモノをつくる」仕組み

Q:「売れるモノをつくる」ことは、どこの企業でも当たり前のことだと思いますが、それを組織内の仕組みにまで落とし込めたのは、トヨタだけだったということでしょうか?

酒井 結果から言うとそういうことになると思います。本書『トヨタの強さの秘密』をお読みいただけると分かると思いますが「設計品質」という概念、つまり、「買い手自身も知らない・分からないような買い手の本当のニーズをどの程度満たせるかの度合いを追求する」という仕組みは、きちんとした制度にすることがなかなか難しい。

トヨタはTQM(Total Quality Management:総合的品質管理)の会社ですから、「設計品質」を確保して、「製造品質」を確保する。製造品質、つまり工場の品質というのは、科学的に計測できることがほとんどで「量」的に片がつく話がほとんどです。一方、設計品質には、われわれ消費者のニーズをどの程度満たすか、という「質」的な要素が出てくる。

つまり、商品としての価値、コンテンツとしての価値、「買い手の人間」対「作り手の人間」という要素が出てくるということです。特に作り手側の人間、製品開発組織の人間のハタラキが、工場側のそれとは求められているものが変わってくる。

つまり「TPD(Toyota Product Development:トヨタ流製品開発) での『人間系』」(リーンとタレント)という話になってくるのですね。では、これは具体的にどういうことでしょうか?

工場側では設計情報を製品に変換するだけですから、入口と出口は与えられている。つまりTPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式)では工場で作ったものは売れて現金になることを前提としているので、システムとしてはあまり複雑ではないのですね。TPSについては、だいたいのことはもう全部分かっているのです。

一方、反対に、製品開発組織では、入口は製品コンセプトみたいなもので、出口は、量産工場が十分に稼働するだけの魅力ある製品の「設計情報」でなければいけない。つまり過去と同じ仕事をしていても同じものしかできてこないので、TPD側では、常になんらかの割合で新しいこと、非定型的な仕事をしなければなりません。

製品開発組織はビジネスプロセスの仕組みを説明すること自体はあまり難しくないのですが、組織内の人間の持っている知識や創造性を具体的に、うまく商品価値やプロセスの価値に結びつけることが難しい。

つまり、人の持つ知識やタレント性を経済価値に結びつける人的仕組みを含めた仕組みを作ることが難しくて、日米欧問わず今はこの分野で苦労しているわけです。

トヨタでは、1953年に元々戦争中に航空技術者だった長谷川龍雄さんが、航空機開発のチーフデザイナー制度を「主査制度」として自動車開発に持ち込んだ。これはトヨタが会社として純国産の乗用車を日本人の頭と腕で作ろうと考えたことに答えたものでした。

戦後初の純国産車クラウンの主査である中村健也さん以来、トヨタでは、主査の要件が理解され、人的ネットワークが続けられているのかもしれませんね。

結果的に、「売れるモノを売れるとき売れる数だけ売れる順番に作る」といったとき、この主査制度が「売れるモノ」を作る役割を受け持っているとも言えます。

主査制度は、制度としての説明はいろいろなところでなされてきましたが、つまるところはこの制度の中で期待されるハタラキを生み出す「人間」の話になってくるので、人間系を含めた話が一番難しいのですけどね。

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