日本一の書評
2016年02月28日(日)

ドキュメンタリー映画監督・原一男さんの「わが人生最高の10冊」

「ありのまま」を映すという幻想を超えて

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ドキュメンタリーの名手・原一男さん

我慢する生き方は20代で捨てた

私は子供の頃から、どうも人に嫌われることへの怯えが強く、どうしたら自分は人に好かれるのだろうかと考えてきました。救いを求めるようにして手にしたのが10位にあげたD・カーネギーの『人を動かす』です。

簡単にいえばハウツー本なんですが、「人に好かれる六原則」という章には、「誠実な関心を寄せる」「笑顔を忘れない」「心からほめる」といった実例が示されている。同じ著者の『道は開ける』とあわせてトップにあげてもいいくらい繰り返し、心の支えのようにして読んできました。

自分自身のことを歪な人間だと感じるコンプレックスはドキュメンタリーを撮る原動力でもあるんですが、じゃあ、撮ることで克服されたかというとそういうことでもない。僕は、もう我慢する生き方は20代の時に捨てた。そう思いながらも、この本が手放せない。自己撞着、自己矛盾の最たるものです(笑)。

1位にあげた『青春:この狂気するもの』は田原総一朗さんがテレビ局のディレクター時代に書かれた本です。

「被爆2世」だと嘘の告白をするバスガイドやフーテンなど、無名の若者を主人公にしたドキュメンタリー番組の裏話が書いてある。

田原さんは、ドキュメンタリーが「ありのまま」を映すというのはまやかしだ、カメラやマイクがあって演技しない人間はいない、と言う。僕も、そうだと思いました。

2位の『お前はただの現在にすぎない』。'60年代後半、TBS報道局の人たちが三里塚(成田)闘争の取材中、反対集会の会場まで反対派農民をロケバスに乗せた。たったそれだけのことを政府与党が偏向報道だ、便宜供与だとして強く批判し、TBSも関係者を厳罰に処したものだからメディアを横断する大論争が展開された。その記録です。

私に言わせれば、ここで交わされた「報道の中立」の議論はテレビの枠内にいるからこそ生じたもので、そもそも僕ら自主制作で撮ってきた人間は「自分はどちらの側か」の立場をはっきりさせないと取材ができない。「中立」なんてものは幻想なんです。

とはいえ、この本では当時のテレビマンが「テレビとは」と懸命に考え議論しているところが面白い。

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