山崎元「ニュースの深層」
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なぜいま、角栄ブームなのか~石原慎太郎まで乗っかる、その「うま味」

2016年02月19日(金) 山崎 元
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【PHOTO】gettyimages

石原慎太郎『天才』の読み方

元首相の故・田中角栄氏が、今、静かなブームを呼んでいるようだ。1、2年前から、書店に立ち寄ると、田中角栄氏を取り上げた本がしばしば目に付くようになった。田中氏の業績をあらためて振り返る本もあるし、田中氏の過去の発言を教訓となるべき名言としてコレクションした本も複数ある。

そして、先月、作家で元東京都知事であった石原慎太郎氏が『天才』というタイトルで、田中角栄氏の生涯を一人称で綴った小説仕立ての書籍を幻冬舎が刊行し、大ベストセラーとなっている。

『天才』は、田中角栄氏が、もっぱら一人称「俺」として、しかし著者の石原慎太郎氏のボキャブラリーで語り出す、職業作家が書いたにしては何とも素朴な作品だ(例えば、田中氏が「エスタブリッシュメント」などという単語を使うとは思えない)。

筆者は文学としてこの著作を論じるつもりはないが、敢えて作家志望の高校生が習作として書いたような生硬でワンパターン且つ自意識過剰の文章(田中氏に「あの石原慎太郎」と言わせている箇所がある)を、多くの人が(筆者自身も含めてだが)読んでみたがる「商品」に仕上げた、石原氏と幻冬舎はさすがだ。

この隙だらけの文章が、読者のレベルに合わせて意識的に作られたものだとすると、それはそれで石原氏もたいしたものだ。

田中角栄氏と石原慎太郎氏の二人は、最終的に、政治家としてそれぞれに不本意な挫折を味わったかも知れないが、日本人は、この二人に対して一時期随分大きなチャンスを与えたものだと、振り返って思う。

だが、二人の資質には大きな差があった。田中氏の、人の感情を読み且つ掴む能力、お金の動きに対する理解、数字に対する強さ、記憶力、決断力、などに比肩しうる能力を持つ人間は、そもそも稀有だ。比較すると、石原氏は「スター性のある凡人」に過ぎなかった。

お二人とも、平時には、周囲を明るく照らすような、余人にない「華」のある人だった。しかし、両人には、能力以外にも、自分が追い詰められた時に、頻繁に瞬きして照れたり怒ったりする「イライラして狭量」を感じさせる石原氏と、あくまでも相手の眼を見つめながら、開き直ったり自分を笑い飛ばしたりできる「胆力と愛嬌」を使って勝負が出来る田中氏の人柄と度量の違いがあった。

『天才』は、石原氏が田中氏を心から羨やましく思ったことの告白として読むのが適切な本だ。

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