現代ノンフィクション
2016年02月14日(日) 一橋文哉

世田谷一家殺人事件
〜行き詰まった捜査の裏で浮上した巨大暗黒組織

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〔photo〕iStock

 

文/一橋文哉

「世田谷事件の被害者や遺族の方々に、本当に申し訳ない。15年の歳月を重く受け止めている。1日でも早く犯人を逮捕したい」

警視庁の釣宏志・捜査一課長は力強く、そう誓った。

2015年12月30日、東京・世田谷区の宮澤みきおさん宅前で同庁の中村格・刑事部長ら捜査関係者約30人が、宮澤さん一家4人が一緒に写った写真を前に、泰子さんが好きだったカサブランカの花束などを手向けて合掌し、全員で黙祷を捧げていた。

世田谷一家殺人事件は2000年12月30日午後11時半頃、この家の中で宮澤みきおさんと妻泰子さん、長女で小学2年のにいなちゃん、長男で保育園児の礼君の4人が惨殺されたものだ。

この事件の特捜本部が置かれた成城署で、2006年に宮澤さんの父良行さんが「4人はウチの宝だった。犯人を逮捕し罰して下さい」と声を振り絞って訴えた姿を、捜査員たちは決して忘れていない。その父親も2012年9月、犯人逮捕の報を聞き届けないまま84歳で亡くなり、4人の位牌を胸に抱いて黄泉の国に旅立った。

それを知った捜査員は「遺族の思いに応えなければ、刑事じゃない」と、今も連日、40人態勢で聞き込み捜査に走り回っている。

ただ、一家の月命日ごとに情報提供を呼びかけるビラを配る地元住民や被害者遺族で作る「宙の会」のメンバーの中には、こうした献花式や捜査一課長自らが行うビラ配付を「年末のセレモニーに過ぎない」と懐疑的に見る向きが出ていることも事実である。

「時効が撤廃され捜査が継続されるのは朗報だが、『15年前に不審者を目撃していないか』と聞き回る捜査員の姿を見ると、果たして事件は解決するのか首を傾げてしまう」(地元住民)のだ。

質より量を重んじた捜査に問題あり

現場に指紋や血痕など大量の物証を残した世田谷事件は、早期解決を期待させる一方で、捜査の幅や奥行きを失わせた。

この事件が未解決となった理由を、私は前々回、《初動捜査の失敗》と指摘した(→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47081)。捜査員も「犯人の指紋が採取できたため前歴者や他事件の遺留指紋との照合、被害者の関係者の指紋採取に追われ、現場付近の聞き込み(地取り)や被害者周辺の関係者(鑑取り)の捜査が疎かになってしまった」と悔やんでおり、間違いあるまい。

これまで延べ約25万人の捜査員を投入したという警視庁幹部は「1万人以上から事情聴取を行い、積み重ねた捜査報告書は厚さ10センチのファイルで1000冊を優に超える」と力説する。

が、書類の厚みは増しても、一つの端緒から捜査が次々と広がっていくような中身の厚みが見られない。

つまり、不十分な鑑取り・地取り捜査とは、数量の問題だけではなく、やり方=質の問題なのだ。

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