現代ノンフィクション
2016年02月05日(金) 田中 周紀

マイナンバーが銀座を滅ぼす!?
ホステスVS国税当局「徴税戦争」の行方

【国税記者の事件簿・特別版】

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〔PHOTO〕gettyimages

ホステスのなり手がいなくなる!

「ヘルプのホステスのなり手が、いなくなっちゃう!」

ソファに座っただけで一人5万円はかかるという会員制の高級クラブが軒を連ねる東京・銀座。日本を代表する繁華街でいま、クラブの経営者やママたちがこんな悲鳴を上げている。原因は1月から導入された社会保障・税番号(マイナンバー)制度だ。

クラブには本業のホステスと、昼間はOLをしている兼業のホステス、通称ヘルプが混在しており、実は3人に2人がヘルプだ。「伝統の銀座のクラブ街を裏で支えているのは、日給制のアルバイトであるヘルプたち」と言っても過言ではないのである。

そのヘルプのなり手がいなくなるとは由々しき事態。銀座の高級クラブのカネの仕組みは一体どうなっているのか。ヘルプのホステスやクラブ経営者たちはマイナンバー制度の何に怯え、どう対応しようとしているのか。

政界、財界、芸能界を舞台にした脱税事件の手口、そして知られざるマルサの調査手法について明かした『国税記者の事件簿』を著したジャーナリストの田中周紀氏。共同通信社とテレビ朝日で国税当局取材を担当してきた著者が、銀座のホステスたちを悩ませている「マイナンバーと納税」問題についてリポートする。

まずは銀座のクラブの仕組みの説明から始めることにしよう。銀座にはクラブやバー、スナックが1500店前後あり、2010年ごろは約1万人のホステスがいると言われた。いわゆる高級クラブと呼ばれる店にはホステスが50人前後所属し、そのうちの30人ほどが日替わりで出勤してくる。

ホステスには自分の客を持っている「売り上げ」と呼ばれるホステスと、自分の客を持たずに売り上げホステスのサポートをする「ヘルプ」の2種類がいる。ヘルプのホステスには店から日給にあたる「保証」と呼ばれる手当てが出る。

高級クラブで飲むと一体いくらかかるのか。まずソファに座って一人5万円、ウイスキーのボトルを頼めば最低でも一本7万円、ホステスにせがまれてワインやシャンパンを開ければ金額はもう青天井だ。

さらにホステスの労働に対してかかる「ホステスチャージ」や、客の滞在時間が1時間半を超えるとかかる「タイムチャージ」、黒服(ボーイ)の労働に対してかかる「ボーイチャージ」など細かく分かれており、客が店を出る前に担当のホステスが支払い明細をチェックする。ただ、客の方がこの明細をじっくりと眺めることはまずない。

ホステスの仕事が過酷なのは、同伴出勤のノルマが毎月6回から8回もあるためだ。このノルマは「強制日」と呼ばれるが、さらに2~3ヵ月に一度の割合で催される5日間の『パーティー』の期間中は、連日の同伴出勤を強制される。これを達成できないと100%の罰金、つまり出勤しても1日分がタダ働きになってしまうのだ。

あるオーナーママがバブル期以降の銀座について振り返る。

「25年ほど前のバブル期の銀座は、大手ゼネコンやディベロッパー、銀行、生命保険、証券会社などバブルで潤った業界の『社用族』で大賑わいだった。2000年代前半のITバブル時代や、リーマンショック前の不動産のミニバブル時代には、若い経営者がばんばん札ビラを切ってくれた。でも、最後の頼みの綱はやっぱり、おカネをある程度自由に使える自営業者、いわゆるオーナー社長のオジサマたちです」

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