現代ノンフィクション
2016年02月10日(水) 田中 周紀

脱税額は6000万円!
ロールスロイスで国税局に現れた「あの男」

【『国税記者の事件簿』特別公開】

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【PHOTO】gettyimages

国税局に停まったロールスロイス

国税当局と犯罪者の息詰まる攻防――。共同通信社とテレビ朝日で国税当局を取材し、数多くのスクープを世に放ってきたジャーナリストの田中周紀氏が、知られざる脱税の手口と、マルサの捜査手法について明かした『国税記者の事件簿』を著した。

銀座のホステス、芸能プロ、ヤリ手経営者に凄腕コンサルタント……脱税に絡む「わるいやつら」の巧妙な手口をベテラン国税記者が徹底的に解き明かしている。本書の中から、国税取材の現場と、ある脱税事件の顛末を記した章を公開する。

その昔、国税庁記者クラブは「『激務の警視庁担当を終えた記者が休息を取るためのクラブ』と言われ、ベテラン記者がのんびりと昼寝や麻雀をして過ごす場所だった」(クラブOB記者)。

だが、1972年のロッキード事件で大物右翼の児玉誉士夫が所得税法違反に問われたことをきっかけに、「マネー警察」としての国税当局の存在がにわかにクローズアップされる。

このため、在京マスコミ各社は警視庁、東京地検特捜部と並ぶ重要な事件官庁と位置付け、社会部のエース記者を配属し始めた。その結果、国税庁記者クラブは熾烈な「抜いた、抜かれた」が繰り広げられる熱い戦場に様変わりした。

もちろん幹部の自宅を訪ねて取材する「夜討ち朝駆け」(夜回り朝回り)が日課であることは言を俟たない。親しくなった幹部と夜ごとに酒を酌み交わし、何とか端緒をつかむと、今度は税務調査の対象になった企業や個人を直に取材するとともに、周辺の関係者の取材も進めていく。

「ネタを取るには地道に取材する他ない」というのが私の信条だ。しかし、時には労せずしてネタの方から転がり込んでくることがある。

09年3月26日、木曜日。この日の昼のニュースで東京都新宿区の電子部品輸出販売会社「オーエム電子」の消費税不正還付事件を報道した私は、午後から大手町の国税局に向かった。すると庁舎の裏側の駐車場に、白いロールス・ロイスが止まっている。

「こんな車で来ると『脱税しています』と公言しているようなものなのに……」

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