日本一の書評
2016年01月24日(日) 週刊現代

マラソンの才能は遺伝するのか?

リレー読書日記・生島淳

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去年の仕事納めは、瀬古利彦さんも同席した箱根駅伝の予想座談会。お互い、本命は青山学院大ということで一致していたが、事前の予想通り青学が圧勝した。

とにかく他校とは選手層の厚さが違う。山の神・神野大地ら主力選手が卒業するが、「一強時代」が到来した印象だ。

その瀬古さん、軽妙なトークが解説で炸裂するが(最もその実力を発揮するのはお酒の席)、『瀬古利彦のすべてのランナーに伝えたいこと』も「瀬古語録」として大いに楽しめる。笑ったのは次の箇所。「自分で言うのもおかしいが、『名選手、名監督にあらず』を私は地でいっていると思う」。

その瀬古さん、我慢してこそ精神が鍛えられると考え、「マラソン道」を歩んできたと言い切る。

「(レースの)10日前から性行為は行わないようにしていた。気力が抜けてしまう感覚があったためだ」と書き、ヘッドフォンで音楽を聴くことや、練習前にテレビを見ることさえも恩師から禁じられていたという。

しかし、どうしても我慢できないものがあったと告白する。ビールだ。生活の中に、ホッと出来る時間が欲しかったのだという。しかし、ロサンゼルス五輪の1年半前からは断酒。そこまでしても報われないのだから、スポーツの世界は厳しい。

私が最も興味深かったのは、「マラソンの才能は遺伝するのか?」という考察だ。瀬古さんには4人息子さんがいて、陸上に取り組んだのはひとりだけだった(昨年まで東海大の優秀な主務)。

瀬古さんの考えでは、マラソンで成功するためにはハングリー精神が必要であり、ランナーとして成功すると、経済的な困窮から脱出できる。そうなると、子どもとしては「何が何でもマラソンで這い上がっていく」気持ちがなくなってしまい、素質を持っていたとしても、その道には進まない。

この考えはマラソンだけでなく、今の社会全体に当てはまるのではないか。私は10代、20代の子どもを持つ親だが、成功への欲求が少ないことに違和感を覚え、それが親子喧嘩の源にある気がしてならないのだ。

青山学院大が初めて箱根駅伝に登場したのは昭和18年のこと。戦前、最後の大会だった。出陣学徒壮行式が明治神宮外苑で行われたのは、その年の10月21日。なるほど、箱根駅伝と歴史はリンクしている。

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