日本一の書評
2016年01月24日(日)

脚本家・鎌田敏夫さんの「わが人生最高の10冊」

人間と世の中の間にある「動き」を感じて

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少し時間ができたので『カラマーゾフの兄弟』といった分厚い本を読んだりしているんだけど、今回選んだものも重量のある本が中心です。

1位の『チボの狂宴』は、中米ドミニカの独裁政権末期、陰で「チボ」と呼ばれた独裁者とその暗殺を企む反体制派、チボと因縁浅からぬ女と、複数の視点で描かれた大長編です。

ほぼ実話らしいんだけど、このチボというのが、虜囚を崖から投げ落として鮫に食わせるような暴君。非常にリアルだと思ったのは、暗殺者がチボと対面する場面です。絶好のチャンスに暗殺者は何もできない。「権力の幻影」に怖気づいてしまう。権力とはどういうものか、一場面で描き出されています。

トマ・ピケティの『21世紀の資本』はずいぶん話題になりました。いままでの経済学の立場とは異なり、社会問題の根底にある「格差」に向き合おうと言っている。

しかし、なんで経済の専門書が私の10冊に入ってくるのか。ドラマの仕事に関係あるのかと聞かれると、ほぼない(笑)。

しかし、まったくないとも言い切れなくて。世の中がどんな方向に向かっているのか知っていないことには、根をはったキャラクターは描けない。そういうものなんです。

アーレントとハイデガー』は、簡単にいえば哲学者と教え子が恋愛におちる、昼メロみたいな話。二人とも世界的な著名人だというところが面白い。

女房の目を気にしてハイデガーが待ち合わせを暗号で指示するんだけど、世界的な哲学者でもこういうことをするのかと親しみがわくよね。

教え子のハンナ・アーレントはユダヤ系ドイツ人で、ナチスの台頭でアメリカに逃げ、ナチを批判する本を出して戦後評価を受ける。一方のハイデガーは、ナチが権力を握るにつれ友人や恩師が迫害されても目をつむるようになる。妻が親ナチだったこともあり戦後は失墜してしまう。

相反する人生を歩みながら、アメリカで頭角を現したハンナは恩師の復権に力を注ぐ。それが、恋愛ドラマのように面白い。

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