日本一の書評
2016年01月23日(土)

彫刻家・籔内佐斗司さんの「わが人生最高の10冊」

読書が豊かな感受性を育んだ

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[PHOTO iStock]

絵本や児童文学、もちろん漫画も含め、子供のころから本を読むことが大好きでした。うちはごく普通のサラリーマン家庭でしたが、本を買うためのお小遣いなら喜んで出してくれましたから、私は地元大阪・堺の書店ではけっこうな「お得意さん」だったのです。

読書の原体験は、4~5歳のころ、母に読み聞かせてもらった『フランダースの犬』でしょうか。母によれば、少年ネロとパトラッシュが天に召されるラストシーンにさしかかると私はいつもぽろぽろと涙をこぼしていたそうです。こうした絵本が、芸術家としての感受性を育んでくれたのかも知れません。

幼稚園や小学生時代はチラシの裏でもノートでも、白い紙さえあれば手当たり次第、絵を描くような大のお絵かき好きでした。そのせいか、本の装幀や挿絵へのこだわりは人一倍強かった。シリーズものの挿絵画家が交代したりするとそれだけで読む気が失せてしまうほどでした。

のちに私は東京藝術大学の絵画科を二度受験しますが、60倍の倍率に負けました(笑)。それで彫刻科に進みます。大学院では文化財の修復や古典技法を研究しました。振り返れば彫刻家になったのも、大学院文化財保存学教授として古仏などの保存修復に取り組むことになったのも、自ら望んだ道というより、すべて巡り合わせだったように感じます。そしてその道のりを支えてくれたのは、読書の豊かな力だったように思います。

今回の10冊に順位はつけがたいので、読者の皆さんにも面白く読んでもらえそうなものを選びました。

1位の『斑鳩の匠 宮大工三代』は、最後の宮大工といわれた西岡常一棟梁が、古美術に詳しい青山茂さんと法隆寺金堂の解体修理や法輪寺三重塔の再建などの仕事について語り合ったものです。

とりわけ興味深いのが、西岡さんが成し遂げた薬師寺金堂再建のくだりです。1976年に完成した薬師寺金堂は、もともとは国宝のご本尊・薬師三尊像を火災や地震から守る収蔵庫として計画されたものでした。

文化庁は耐震耐火の観点から伝統的な木造建築でなく鉄筋コンクリート建築(RC造)を主張します。伝統建築を知悉している棟梁は、木にコンクリートや金具を継ぐ工法を提案する学者らと対立し「千年のヒノキは千年持つのに、金具を使たらそこから腐食する。金具なんか使うたら、ヒノキが泣きよる」と断固反対を唱えました。

結果として西岡さんの意見がずいぶん取り入れられて、外見上は見事な木造建築でありながら、内部は鉄筋コンクリート製という二重構造の難工事が成し遂げられました。「生きた伽藍か、たんなる史跡か」―文化財保護に携わるものが忘れてはならない名言・至言が穏やかな大和弁で語られた名著です。棟梁の頑張りがなければ、その後の伽藍建築はコンクリ一辺倒になっていたかもしれません。

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